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火災・防火対策

第7回  大規模市街地火災への備え 〜後編〜

執筆者

山田 常圭
総務省消防庁 消防研究センター 所長
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市街地大火への備え

市街地大火への備えは、個々の建物の防火安全対策とは異なり、都市計画的な視点からインフラ整備としての長期的な取り組みが不可欠です。市街地の防火対策の基本となる防火帯や公園等の空地を確保することは、一朝一夕でできるものではありません。こうしたインフラ整備は、歴史的にははるか昔までたどるものが多々あります。東京の例では、秋葉原に火よけ地として広場が設けられたり、日比谷通りが防火路線として位置付けられたりしたのは明治時代ですし、上野広小路は、江戸時代の明暦の大火(1657年)後に、延焼防止帯として造られたものです。こうした防火対策の基本的な考えは、先人たちの経験のもと脈々と現在の都市の防火防災対策に引き継がれ、市街地における木造密集地の解消に向け、不燃化促進事業等による地道な努力が続けられています。

しかし「大火」はいつ起こるか分かりませんので、私たちは何十年とかかる公的な防火対策の完成を座して待つわけにはいきません。市街地火災にどう備えればよいのか、以下3つの面から考えてみたいと思います。

(1)火災の早期発見・早期消火

市街地大火に限らず、防火対策の基本は出火防止と初期消火にあります。ほとんどの火災は、出火直後(小さな規模)のうちに消火が容易なものです。火災を早期に発見し、初期消火・火勢抑制によって隣棟への延焼拡大をできるだけ遅らせることが、市街地大火を防ぐ第一歩です。複数棟に延焼拡大してしまうと、公設消防隊にとっても消火は格段に難しくなります。

最近、高齢者の独居住宅や空家が増え、消防機関への119番通報の遅れによる延焼拡大も懸念されています。近隣の住民が協力して早期発見・119番通報し、一刻も早い本格消火につなげることが重要です。

高山市のような伝統的建造物群保存地区では、木造建物が密集しておりいったん火災が発生すると類焼危険が高いため、『自分たちの貴重な建造物群は自分たちで守る』という意識が強く、グループ監視システムといった、他家の火災の発生をお互いに早期覚知(かくち)できる体制を整備しているような所もあります。

最近のICT技術(情報通信技術)の向上に伴い、さまざまな技術的な対策が考えられ、それらを活用した地域ぐるみの防火対策の取り組みが、今後市街地大火低減への第一歩となると期待されます。

(2)広域な延焼拡大防止のための飛び火警戒

糸魚川市が市街地大火となった主要因として、強風下で風下側に大量の飛び火が発生し、同時多発火災を招いたためと考えられています。糸魚川市に限らず、酒田市大火をはじめ多くの強風下で飛び火による遠隔地への不連続的な延焼拡大が多々発生しています。静岡市大火(1940年)では、飛び火により650mも離れた地区一帯を焼失してしまったこともあります。

飛び火による延焼拡大は、避難住民からすれば、思わぬところで避難経路が断たれる危険性がありますが、消防隊にとっても非常に負担となります。それは、消火すべき火源(かげん)が増えるだけではなく、いったん部署(消防隊を配置)した場所から別な場所への転戦や、延焼阻止線(延焼を阻止するために、消防が設定した防火ライン)の作戦変更を行なわなければならなくなり、水を張った重いホースの移動や新たな水利の確保など、非常に労力のかかることなのです。

飛び火対策としては、消防団や自主防災組織が、火災地域の風下を巡回し、樹木や枯草、また建物の屋根や雨どいなどに火の粉がたまり類焼のおそれがないか確認すること、また万一着火した場合は、水をかけたりする、いわゆる「火の粉警戒」を行うことが重要となります。昔の火災では、住民が屋根に上り、降りかかる火の粉をほうきで払い落とすようなことも行っていたようです。建物の屋根は水平投影面積が大きく、火の粉が落ちて類焼する危険性が高いため、瓦等による屋根の不燃化は防火・準防火地域において義務付けられています。それでも強風によっておびただしく発生する飛び火の一部が、屋根瓦の隙間などから入り込み類焼したと思われる事態が「糸魚川」において発生してしまいました。(写真2)

市街地火災における延焼速度は、風速が強くなるにつれて速くなることが分かっていますが、それでも時速0.5~1kmと遅く、適切に避難開始すれば、周囲が火の海になっていた、という事態にはなりません(図4)。高齢者などの避難困難者にとっては、早目の避難が必要ですが、火災から離れた場所では、住民みずから避難に先立ち、延焼のおそれのある洗濯物を取り入れたり、住宅の窓等の開口部を閉めたりするなど、「火の粉警戒」をすることで、飛び火による類焼危険をかなり抑えられるのではないかと思います。

さらに、市街地火災域直近では、家から家に徐々に燃え移っていくのではなく、隣接の家全体が、短時間に炎上するような現象も過去の市街地大火で観察されているため、火災域近くには、不用意に近寄らないことが極めて重要です。

(3)建物の耐火性能の向上

糸魚川市街地火災では、焼け跡の中にポツンと1件だけ燃え残った住宅があり、奇跡的に免れた住宅として紹介されていました。実は、これと同じように類焼を免れた住宅が、阪神淡路大震災時の焼け跡にも残っていました。これらの家主には共通して、「いざというときに安全な家を建てたい」という思いがあった、と聞き及んでいます。開口部が比較的少なく、窓には網入りガラスを用いる等、防火上の備えがされていたのです。たまたま奇跡的に類焼を免れたのではなく、備えあっての必然的な結果であったと言ってよいでしょう。

平常時においては、普請の際には、利便性、快適性が優先され、なかなか防火性能の向上にまで思いが回らないかもしれませんが、一軒一軒の建物の防耐火性の向上が、街全体の防火安全につながることは、いまさら言うまでもないことでしょう。

住民の生活に根ざした防火対策も

糸魚川市の延焼前の街区をストリートビューで見るかぎり、日本のどこにでもありそうな一般的な町並みとの印象を受けました。今回の糸魚川市規模の市街地大火は、長時間、強風が吹き続ける気象条件下であれば、全国どこの市街地でも起きて不思議がない、と感じています。実際、これほど大きな延焼にはならなかったのですが、稚内市(2002年)や佐渡市相川(2008年)、別府市(2010年)、城崎温泉(2015年)など、市街地大火の一歩手前のような火災もこれまでに起きています。我が国の市街地には、強風下で延焼拡大のおそれが高い地区が、まだまだ多く点在していると思われます。

江戸時代には、強風時の外出禁止や、裸火(はだかび)の屋外使用禁止といった防火対策が庶民の生活の中に根ざしていました。また強風時や乾燥時には、防火桶に水をためたり 、火の取り扱いに格段の注意を払ったりすることなどは常識であったようです。しかしながら、現代においては、めったに起きない市街地大火の災害伝承が途絶えがちで、過去では常識的であった一般住民としての防火対策も忘れられてきているのではないかと危惧しています。今回の糸魚川市の市街地大火を受けて、消防庁では有識者による検討会を立ち上げ、多方面から課題をとりまとめた報告書(※1)を公表しています。次の市街地大火を起こさないように、今後の対策立案などに活用していただければ幸いです。

前編を読む「NHKそなえる防災」第7回 大規模市街地火災への備え ~前編~(山田 常圭)



(参考文献)
※1:消防庁「糸魚川市大規模火災を踏まえた今後の消防のあり方に関する検討会報告書」 平成29年5月
http://www.fdma.go.jp/neuter/about/shingi_kento/h29/itoigawa_daikibokasai/index.html
※2:消防庁「消防白書 平成28年度版」pp.73、第1-1-28図
※3:熊谷良雄「平成7年度火災学会講演討論会テキスト-大都市地震火災と対策- 1996.1」

(2017年7月31日 更新)