トップページ > コラム > 地震・津波台風・大雨落雷・突風大雪猛暑火山・降灰火災PM2.5・黄砂防災の知恵恐ろしい表層雪崩

豪雪災害

第4回  恐ろしい表層雪崩

執筆者

上石 勲
防災科学技術研究所雪氷防災研究センター センター長
プロフィール・記事一覧

栃木県那須町で起きた雪崩による事故

2017年(平成29年)3月27日、表層雪崩による痛ましい事故が起きてしまいました。
栃木県那須町の那須岳の南側に位置する茶臼岳の南斜面で、雪崩が発生し、ラッセル講習中の高校生と引率の教師が巻き込まれ、7人の高校生と1人の教師が亡くなりました。

雪崩事故発生後、防災科学技術研究所では、3月28日、4月2日など数回にわたって現地調査を実施し、雪崩の発生状況や積雪の状況を調べました。まだ明らかになっていないことも多いのですが、現状分かってきていることをお知らせするとともに、特に表層雪崩の事故にあわないために気を付けるべきことをまとめました。

一般的な雪崩の種類と発生要因

一つの雪崩は、通常、「発生区(雪崩の発生するところ)」と「走路(雪崩が流れるところ)」、そして「堆積区(雪崩が堆積するところ、堆積物は「デブリ」と呼ばれます)」に区分されます【写真1】【写真2】。

雪崩の分類として、まず大きく表層雪崩と全層雪崩の2つに分けられます。発生区での滑り面(雪崩が生じる境界面)の位置が積雪の内部にある場合を「表層雪崩」、地面と積雪の底面にある場合を「全層雪崩」と呼んでいます。日本雪氷学会では、さらに「雪崩発生の形(面発生なのか、点発生なのか)」(※1)と、「崩れ落ちる雪の乾湿状態(乾いているか、湿っているか)」(※2)とを加えた、3つの条件を組み合わせて分類します。例えば【写真1】に示す雪崩は、発生区には雪の面が崩れた跡が残っており、湿った雪が地面上で崩れているので、「面発生湿雪(しっせつ)全層雪崩」と呼ばれます。また【写真2】に示す雪崩は、乾いた雪が積雪の内部を滑り面として、面的(写真には明確な破断面が見られる)に発生しているので、「面発生乾雪(かんせつ)表層雪崩」と呼ばれます。今回の那須で発生した雪崩は、発生区の形は不明ですが、積雪の状況や気象観測結果から乾いた雪が積雪の内部で滑っていると推定されるため「乾雪表層雪崩」となります。

一般的に全層雪崩は、暖かくなって積雪がとけ、積雪の底面と地面との間の抵抗が小さくなった場合に発生します。一方表層雪崩は、積雪に弱い層(「弱層(じゃくそう)」と呼ばれる。次章で解説します)の上に降り積もった雪が崩れ落ちることで起こります。この崩れ落ちる力は、弱層の上に積もった雪の重さに比例するので、大量の降雪があった場合は、雪崩が発生しやすくなるのです。

表層雪崩の原因 -弱層と降雪-

表層雪崩の弱層には、いろいろな種類があります。例えば「シモザラメ雪」。これはいったん積もった雪が、積雪内の温度勾配(温度の高低差)によって霜のような結晶に変質するものです。雪が降らない晴れ間の日には、放射冷却によって気温が低下するので、積雪表面に近いほど温度が低くなって温度差が生じ、シモザラメ雪ができることがあります。このシモザラメ雪は結晶どうしの結合部が細くもろいため、弱層となります【写真3】。

また、「降雪結晶」と呼ばれる弱層の種類もあります。これは低気圧の通過によって降る雪のことで、冬に日本海上を吹く季節風によってできる雪雲から降る雪とは異なっています。冬型の雪が、日本海の上空3000〜5000mという比較的高度が低く、水蒸気が豊富なところで形成され、樹脂状の結晶でしかも雲粒(上空の0℃以下でも凍らない水の小さな粒)が多数ついている雪の結晶なのに対し、低気圧性の雪は、上空6000〜8000mの気温が低く、水蒸気量が少ない位置で形成され、雲粒が付着していない角板や柱状の比較的形が単純な結晶です。結晶どうしのつながりが少ない状態で降り積もるため、強度も弱く、その上にさらに雪が降り積もると、この崩れやすい雪を境にして、表層雪崩が発生することになります【写真4】。

積雪の状況から知る、那須町での雪崩の発生要因

那須町で雪崩が発生した翌日の3月28日、防災科学技術研究所の研究員が現地で積雪の調査を行いました。その結果、表面から20〜30cmに低気圧性の降雪結晶が見られ、しかも非常に弱い層であったことが観測されました。この層の強度よりも、その上部に積もっていた雪が崩れようとする力の方が大きかったようです【写真5】。

気象庁の那須高原アメダス観測点(標高749m)の記録によれば、3月26日午後4時〜午後11時に合計4mmの降水量が観測されています。気温が0.5~3℃なので積雪は観測されていませんが、雪崩発生場所(標高1500m付近)では気温が低く、降雪となっていたと推定されます。また、3月27日午前9時には33cmの積雪が記録されています。これらの記録から、雪崩発生時には発生場所で30〜40cm程度の降雪があったと考えられ、低気圧通過時に降った雪が弱層となり、低気圧通過後に降り積もった雪が表層雪崩となって流下したものと推定されます。
 
雪崩の発生場所については、直後にヘリコプターに乗って上空からの観測も行いましたが、【写真2】の面発生乾雪表層雪崩の発生区に見られるような明確な「破断面」は確認できませんでした。また、全層雪崩の場合には積雪の底面で滑るので、流下経路や堆積物には土砂が混じっていることが多く見られますが、そのような痕跡は見られませんでした。前述したように、この雪崩は正確には、「乾雪表層雪崩」、大きな分類では「表層雪崩」と呼ばれる雪崩です。

4月2日には、雪崩が流下した場所を現地踏査(とうさ)ならびに小型無人機(ドローン)により調査しました。大規模な表層雪崩では、太い木の幹を折ることがあり、折られた木の残骸が雪崩のデブリの中に発見されることもあります。今回の雪崩の場合にも、いくつか雪崩の影響で被災した可能性のある樹木が見られました。また、積雪の垂直断面を掘って積雪内部の構造を調べると、自然に積もった雪は地層のように層状のしまが見られますが、雪崩のデブリには、このような層構造が見られませんでした。現地で数か所積雪の垂直断面を掘って調べましたが、一部で層構造が見られない積雪も観測されました。さらに調査した結果、スキー場の上部斜面の沢地形となっている場所で、雪崩が流下した可能性のある痕跡を確認することができました。

雪崩は、上から下に流れるので、雪崩の痕跡のあった沢の上部に雪崩の発生場所があるはずです。そこから雪崩発生斜面は、勾配35〜40度で樹木のあまり生えていない範囲と推定されました【写真6】(*1)。

標高が高いところでは、季節は4月、5月でも冬山と一緒です。気象の状況や弱層の有無、降雪、積雪の状況などに注意し、雪崩の発生しやすいところ、雪崩が到達する可能性のあるような場所には入り込まないことが必要です。また暖かくなると点発生湿雪表層雪崩も発生しやすく、これをきっかけに滑落してしまうこともありますので、注意してください。

(※1)面発生:かなり広い面積にわたり一斉に動き出す雪崩発生の形。点発生:一点からくさび状に動き出す雪崩発生の形。
(※2)雪の乾湿:雪が乾いているか湿っているかを表す。乾雪は雪温がマイナス、湿雪は雪温が0℃。

(*1)防災科学技術研究所HP
http://www.bosai.go.jp/seppyo/kenkyu_naiyou/seppyousaigai/2017/report_20170328_NasuOnsen.pdf
http://www.bosai.go.jp/seppyo/kenkyu_naiyou/seppyousaigai/2017/report_20170410_NasuOnsen.pdf

(2017年5月31日 更新)