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地震と建物の安全対策

第6回  数千年に一度の最大級地震に対する建物の対策(その2:活断層近傍の建物対策)

執筆者

久田 嘉章
工学院大学建築学部まちづくり学科 教授 工学博士
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活断層近傍(きんぼう)の建物対策 ~最終報告(国土交通省2017)の提案と課題~

熊本地震から1年以上が経過し、今回のコラムでは、改めて活断層近傍の建物の安全対策を取り上げます。国土交通省は「益城町の市街地復興に向けた安全対策のあり方等に関する最終報告」(文献1)を公表し、益城町における活断層や建物被害の調査結果から、活断層のずれに対する安全対策として次の提案をしています。

この提案では、「活断層の近くでも建物には何の対策も必要がない」という誤解を招くおそれがある、と思います。

建物の被害程度と活断層調査について ~安全でない「建築基準法の安全」~

そこで提案(1)(2)の課題を検討し、新たな提案をしたいと思います。まず提案(1)において、どの程度の被害レベルを安全と言っているのかを確認しましょう。

【図1】は、2階建ての木造建物を例として、被害程度をD0(無被害)からD5(倒壊)まで6段階で示しています(文献2)。D1(軽微)やD2(一部損壊)では、壁にひび割れや、瓦や外装材に剥落などが生じますが、建物の構造部材(柱・はり・壁等)にはほとんど被害はありません。D3(半壊)では、構造部材に被害が現れますが、建物に大きな傾斜はなく、修復は可能です。一方、D4(全壊)では、構造部材にも大きな被害が生じ、建物が傾斜し、修復が困難になります。ただし、内部空間は何とか確保され、人命を失うような最悪の事態は免れています。そしてD5(倒壊)では、1階や2階などが完全に潰れ、人命にかかわる事態になります。

提案(1)の意味する安全とは、建築基準法による最低基準であり、「倒壊(D5)しないこと」を意味します(文献3)。ただしこれでは、「倒壊さえしなければ全壊(D4)の状態でもよい。安全対策は不要」という誤解を招きかねません。

一方、提案(2)の意味するところも誤解を招く可能性があります。日本の市街地がある平野・盆地は一般に厚い堆積層や沖積層に覆われており、地下の岩盤で生じた断層ずれは「これらの軟弱な地盤」の中で複雑に分散し、地表に痕跡が現れる場合もあれば、明瞭に現れない場合もあります。そもそも活断層の再現期間は数千~数万年と極めて長いため、年代の若い沖積層や人工的に造成された表層地盤には全く痕跡がない場合もあるのです。最終報告には調査方法の例として、敷地の四隅のボーリング調査を実施し、鍵となる層の標高差を確認するなどが提案されていますが、地盤が傾斜している場合は断層がなくても標高差が出ますし、横ずれ断層の場合は標高差が残らないなど、正確な活断層の位置を確認することは困難なケースが多いと思います。

熊本地震で何が起こったか、思い出してみましょう。そもそも益城町のように活断層の直上にある場所では、断層のずれだけでなく、震源近傍の、極めて破壊力のある強震動が生じる可能性があります。倒壊状態(D5)に至らなくても、一部損壊(D2)以上の被害で大勢の住民は避難所生活を送ることになり、さらに半壊(D3)から全壊(D4)状態では建物が取り壊され、永く厳しい仮設住宅での生活を強いられるなど、多大な犠牲を払うことになります。実際、熊本地震では倒壊した建物の下敷きになるなど直接の影響で亡くなった人は50人ですが、その後に災害関連死と認定された人は170人を超えています。(平成29年4月13日時点)全半壊した家屋は4万2千を超え、その復旧に膨大な時間と労力、公費が投入されています。これらの状況から被害低減のためには、活断層の近くの建物について「建築基準法の最低基準を超える“耐震性能を向上させる”対策」を推奨すべきだと考えます。

活断層近傍の建物対策

現在では活断層を震源とする地震に対して、建物の被害を低減するためのさまざまな対策が提案されています。ここでは要点のみ紹介します。(詳細は文献(3~5)を参照)

まず活断層の位置が明確であれば、その近辺に建物を建てることを避けるのがベストです。特に重要施設(防災拠点や避難所など)では、地震後もその施設の機能が必要となるため、たとえ断層の痕跡が明瞭でなくても断層の存在が予測されるかぎりは、その近傍での建設は避けるべきです。

次に、活断層の位置が不明確な場合の、一般建築における対策を示します。(【図2】を参照)建築基準法では、「数百年に一度」程度のごくまれな地震に対して倒壊しないことを目標にしていますが、「数千年に一度」という活断層の極めて強い地震動や断層ずれに対しては、耐震等級3(建築基準法の1.5倍の地震荷重想定)を考慮した「余裕度を持った耐震設計」にすることにより、被害は大幅に低減できます。特に低層建築の場合、鉄筋コンクリート(RC)の「べた基礎」(※1)と、頑強な耐震壁・床版(しょうばん)とを組み合わせれば、たとえ地盤に数十cm程度のずれ変位が生じるような地震が起きても、建物が大きく変形することを防ぐことができます。

一方、高層建築や免震建物では、フリングステップ(※2)のような長周期地震動、断層ずれやそれによる地盤の傾斜などへの特別な配慮が必要になります。【図2】には免震の被害曲線の概念図も示していますが、やはり建築基準法の基準ぎりぎりで設計した場合(余裕度検証(※3)なし)と、耐震余裕度を考慮して設計した場合(余裕度検証あり)では、大地震時の被害程度には大きな差が生じます。

(※1)べた基礎:建物の底板一面を鉄筋コンクリートで一体化する基礎
(※2)フリングステップ:地層断層に起因する、階段のステップのように大きな段差のある変位波形
(※3)余裕度検証:数千年に一度程度の地震荷重を想定して建物の耐震性能の余裕度を調べる耐震設計法

耐震対策における今後の課題

現状、公的補助金の主な対象は、「古い建物の耐震診断・補強」や「大きな被害が出た場合の生活再建」です。「古い建物の耐震診断・補強」は必須ですが、今後は活断層近傍の新築の建物であれば、建築基準法の基準を上回る耐震対策を推進すべきです。例えば、福岡市は2005年に発生した福岡県西方沖地震を受け、中高層建築を対象とした、警固(けご)断層(※4)の近傍における地域係数(地震荷重に乗じる係数)を、建築基準法の0.8から1.0に引き上げる条例を施行しました。また東海地震が懸念されている静岡県では1984年に地域係数を1.2とする指針を設けており、現在ではこれを義務化する条例を準備しています。

構造計算を必要としない低層の木造建築では、耐震等級(地震による建物の耐震性能を表す等級)を2や3(それぞれ建築基準法の1.25倍、1.5倍の地震荷重に相当)にすることが望まれます。一般建築であれば荷重を2割程度増やしても建設コストは数%も増えないと言われています。余裕ある耐震設計を行うことで、大地震時に倒壊する確率だけでなく、全壊・半壊の確率も大幅に低減できるため、地震後の生活再建の困難さによる関連死や復旧・復興のための経費や時間も大きく低減できるはずです。

(※4)警固(けご)断層:北九州の玄界灘から博多湾を経て、福岡市中心部から筑紫野市に至る活断層。

参考文献
1)国土交通省:熊本地震からの益城町の市街地復興に向けた安全対策のあり方等に関する最終報告について、2017年3月
2)岡田成幸、高井伸雄:地震被害調査のための建物分類と破壊パターン、日本建築学会構造系論文集、No.524、pp.65-72、1999年
3)久田嘉章:第4回「建物と人の生活を守る震災対策(その3:2016年熊本地震の教訓と対策例)」2016年6月
4)國生剛治ほか:活断層が分かる本、技報堂出版、2016年9月
5)J.D. Bray:Designing Buildings to Accommodate Earthquake Surface Fault Rupture, ATC & SEI 2009 Conference on Improving the Seismic Performance of Existing Buildings and Other Structures, 1269-1280, 2009
6)内閣府、南海トラフの巨大地震による津波高・浸水域等(第二次報告)及び 被害想定(第一次報告)、資料2-2建物被害・人的被害の被害想定項目及び手法の概要、2012年

(2017年5月31日 更新)