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火山噴火

第7回  大地震と火山活動~最近の阿蘇山の挙動

執筆者

石原 和弘
京都大学名誉教授 火山噴火予知連絡会副会長
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2011年東日本大震災は火山活動を活発化させたのか

大地震が火山噴火を誘発するという説は、多くの人々に受け入れられているようです。その真偽を、まずは2011年3月11日に発生したマグニチュード9の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)で検証してみましょう。この巨大地震により、それまで太平洋プレートに押し込まれ圧縮されていた東日本の地殻は、逆に太平洋側に引き戻され伸張に転じました。この急激な地殻の歪変化(ひずみへんか)により東日本の各地で地震活動が活発化しました。

火山付近でも地震活動が一時的に活発化し、富士山や焼岳などではマグニチュード4~6の有感地震が発生しました。ただし、噴火に至った火山は、2か月後にごく小さな噴火が発生した阿蘇山のみです。また皆さんの記憶にあるところでいうと、浅間山と箱根山が噴火したのは4年後のことです【図1】。

巨大地震の前後4年半の間に噴火した火山の数を比べてみると、2006年8月~2011年2月は9火山、2011年3月~2015年9月は10火山と、数値的には大差ありません。しかも、西之島などの7火山は震源から1,000km以上離れています。また、巨大地震発生の44日前には霧島山新燃岳が、約300年ぶりの本格的なマグマ噴火を開始しています。

これらの経過を踏まえると、2011年の東日本大震災が火山噴火を誘発したという考えや主張には疑問があります。

最近70年間の火山の噴火と大地震の関係

気象庁の資料をもとに、1945年以降に噴火した火山数と100人以上の犠牲者が出た地震を示しました【図2】。噴火した火山数は各年によって2から10と大きく変動し、平均は約5火山です。そのうち半数は九州の火山が占めています。

大地震と噴火火山数の増減の関係に着目すると、何かしら意味があるようにも見えます。大地震が起きると、噴火する火山がいったん数年間減少したあとに、増加に転じる傾向が認められます。あるいは、噴火する火山が減り始めると大地震が起きるといった傾向も見られます。いずれにしても大地震直後に噴火する火山が増加するとは断言できないようです。

顕著な火山噴火に続いて大地震が発生した事例として、2011年1月の新燃岳噴火と同年3月の東日本大震災、および1991年から火砕流を頻発した雲仙普賢岳噴火と、1993年北海道南西沖地震・1995年阪神淡路大震災があります。逆に大地震から火山噴火が続いた事例は、1983年5月の日本海中部地震と同年10月の三宅島噴火があります。

1940年代は火山噴火と大地震が続発しました。浅間山と阿蘇山が噴火を繰り返し、1943年有珠山では昭和新山を形成する活動が始まり、1946年には桜島が大量の溶岩を流出しました。一方、大地震は、1943年の鳥取地震に始まり、東南海地震、三河地震、南海地震、そして1948年の福井地震と頻発しました。

大地震と火山噴火の発生順序はさまざまです。両者の因果関係を気にするよりは、「大地震が少ない場合には、後に大地震が頻発する」、「噴火する火山が少ないときには、後に多くの火山が噴火する」という認識を持って災害に備えることが大切だと思います。

阿蘇山の最近10年間の動向

東日本大震災の直後に、北西山麓で地震活動が一時的に高まった阿蘇山では、2014年から約20年ぶりの本格的な噴火活動に入りました。2015年9月には火砕流を伴う噴火も発生しました【写真1】。最近の火山活動の推移を振り返り、阿蘇山を例に大地震との関係を調べてみます。

2007年からの火山性地震活動と表面活動(噴煙・湯だまり・火山ガス)の推移を【図3】に示しました。阿蘇山で特色のある火山観測として、中岳火口の湯だまりの観測が挙げられます【写真2】。湯だまりの状況は、降雨と火山活動により変化すると考えられています。またその変化は、活動評価の重要な指標の一つであり、湯だまり量が減少すると土砂や火山灰を噴き上げる可能性が高まります。

【図3】を見ると、東日本大震災の発生から1年以上経て、阿蘇山に噴火の兆候が現れたことが分かります。2014年からの噴火活動に先立ち、2012年半ばから地震活動が活発化、2013年後半からは火山ガス放出量の増加と、湯だまり量の減少が生じました。

2011年3月の東日本大震災発生の約2か月後に、ごく小規模な噴火が発生しましたが、湯だまり量の減少はすでに地震発生の数か月前から進行していて、気象台は土砂や火山灰の噴出の可能性を指摘していました。また、巨大地震に対応した火山性地震の増加は認められません。

2016年4月熊本地震前後の阿蘇山の火山活動

2016年4月にはマグニチュード7.3の熊本地震が発生、広範囲に地殻変動を引き起こし、余震を含む震源域は熊本県西部から大分県まで延び、阿蘇山、九重山、鶴見岳など、火山近傍でも多数の有感地震が発生しました。阿蘇山付近でも亀裂・断層が現れ、地すべりが発生し、阿蘇大橋が崩落するなど甚大な被害が出ました。

この地震の阿蘇山への影響について、マグマだまりが影響を受け、噴火が活発化する可能性が高いといった解説がなされる一方で、活動のぺ―スが乱され噴火時期が遅れるといった少数意見もありました。実際にはどうだったのか、熊本地震前後の火山活動の推移を確認します【図4】。

2015年9月の火砕流を伴った噴火以降は10月下旬まで活発な噴火活動が続き、その後は12月、2016年2月と3月に噴火が発生しました。4月16日のマグニチュード7.3の地震発生から約8時間後と5月1日に、ごく小規模な噴火が発生しましたが、この地震による火山性地震の発生頻度に変化は認められません。その後、4か月間噴火がなく、9月末から地震回数がやや増加、10月7日には火山性地震の振幅増大、二酸化硫黄放出量の増大(一日当たり1万5000トン)などが観測され、翌日未明に爆発的噴火が発生しました。なお、この噴火による降灰は岡山県や香川県でも確認され、噴出物量は60~65万トンと推定されています。

以上の経過から、熊本地震が阿蘇山の火山活動を活発化させたとは考え難いと言えるでしょう。

大地震が起きると火山噴火を懸念する心理は理解できますが、「大地震が起きると火山が噴火する」と思い込むと、それは迷信になります。気象庁や専門家は、大地震が起きた際には、さらに注意深く火山の挙動を見守るとともに的確な活動評価を行い、それを受けて報道機関は火山の状況を正しく国民に伝えることが大切です。

(2017年3月31日 更新)