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台風の基礎知識

第7回  急速に発達する低気圧にも警戒を

執筆者

市澤 成介
元気象庁予報課長
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台風に匹敵する、冬から春にかけての「低気圧」とは

我が国で最も恐れられている気象現象と言えば「台風」ですが、台風に匹敵するような激しい気象現象もあります。その一つが、日本付近で急速に発達する「温帯低気圧(単に「低気圧」と言う)」です。冬から春にかけて猛烈に発達する低気圧は、強い台風に匹敵するような深い中心気圧を持ち、超大型の台風をはるかにしのぐ広い強風域や暴風域を持つことがあります。この猛烈に発達した低気圧によって全国的に暴風や強風が吹き荒れ、北日本では暴風雪、大雪となり、高潮が発生するなど、台風以上に警戒を必要とする場合もあるのです。第7回では、この急速に発達する低気圧について取り上げます。

「台風」と「急速に発達する低気圧」との違い

台風は、水蒸気が凝結して雲になるときに出す熱を原動力として、熱帯や亜熱帯の暖かい海洋上で発生します。つまり、台風は水蒸気を多く含んだ暖かい空気によって積乱雲群が発達し、渦を巻いて組織化することで発達します。この渦は「熱帯低気圧」ですが、中心付近の最大風速が17m/秒以上のものを「台風」と言います。

一方、温帯低気圧は、北側の寒気と南側の暖気との境となる中緯度で発生し、前線を伴っています(図1)。この低気圧は年中発生しますが、南北の温度差が大きくなる冬から春にかけて発生するものは、より発達しやすくなります。日本列島はアジア大陸の東に位置し、周りを海に囲まれているため、冬季は大陸が冷却されて海洋との温度差が大きくなり、日本付近では低気圧が発達しやすいのです。

発生の仕組みの違いは、周囲を取り巻く風の分布などにも現れます。台風は中心に向かって次第に風が強まり、中心付近で最大風速が現れます。一方、温帯低気圧は、暖気と寒気のぶつかりの範囲が広く、広範囲に強風が吹く形になります。このため、最大風速は台風の方が強くても、暴風域や強風域の大きさは、温帯低気圧の方が圧倒的に広くなります。ですから、「台風並みに発達した低気圧」といった表現をする場合は、何が台風並みかを明らかにする必要があります。

昭和45年1月低気圧の概要

大きな被害をもたらしたことから、「昭和45年1月低気圧」と命名された低気圧があります。この低気圧について学ぶことで、急速に発達する温帯低気圧の激しさを知っていただけたら、と思います。

1970年(昭和45年)1月29日午後、東シナ海中部に発生した低気圧は発達しながら北東に進み、30日夜から31日にかけて、近畿地方から東海・関東・東北地方を縦断する形で北上する、この時期としては異例の経路を取りました。31日午前9時の天気図では低気圧の中心が東北地方の日本海側と太平洋側に分かれていますが、これは地形の影響によるもので、低気圧の中心は東北地方内陸を進んだと見られます(図2)。

このとき記録した最低気圧が、観測史上1位となっている地点が東北地方を中心に11か所、同2位が6か所もあり、この低気圧がまれに見る勢力であったことが分かります(図3)。北日本では、温帯低気圧によって最低気圧を記録している所がほとんどで、この地方では台風より影響が大きいことを示しているとも言えます。

昭和45年1月低気圧の被害の状況

昭和45年1月低気圧による各地の被害を見ると、台風とは異なる被害がいろいろと発生しました。低気圧の前面には南からの暖気の流入があり、低気圧の後面には北からの強い寒気の流入があります。厳寒の時期にもかかわらず、暖気が強く北日本まで入ったため、低気圧の東側では、大雨に暖気による融雪が加わり、河川の氾濫が起こりました。河川敷が積雪と除雪した雪で河道が狭められていたことも影響しました。また、積雪のあった街中では、排水が機能せず、道路の冠水も発生しました。さらに低気圧が通過した後には、強い寒気の流入が起こったため、道路に冠水した雨水が凍結し、交通まひの引き金にもなりました。

十勝地方など北海道東部では大雪となり、重たい雪がどっさりと積もりました。気温が高くなったこともあって雪面の状態が不安定化し、雪崩も多発しました。さらに、北日本や日本海側を中心に広い範囲で暴風雨や暴風雪となり、陸、海、空の各交通機関はまひ状態となりました。また、沿岸では高波により護岸の崩壊や高潮による浸水被害も発生しました。この低気圧により、死者・行方不明者25人、住家全半壊、流出916戸、浸水4,422戸、船舶被害293隻のほか、交通障害、農林水産関係にも甚大な被害が出ました。

近年の事例

最近でも急速に発達する低気圧はしばしば現れています。2014年(平成26年)12月17日午前9時の地上天気図によると、根室付近に948hPa(ヘクトパスカル)の低気圧(温帯低気圧)があります。最大風速35m/秒で、青円で示す風速15m/秒以上の強風域を持っています(図5)。参考に中心気圧が同じ程度の台風が九州南に接近したときの天気図に、赤円で強風域を示しました。このように広範な強風域を持つことは、長時間にわたり影響を受け続けることになるのです。気圧が低くなったことと暴風が続いたことで、根室港では高潮が発生し(図6)、浸水害が発生しました(図7)。

台風とは異なる激しさを持つ急速に発達する温帯低気圧の移動・発達は、かなり高い精度で予測することができます。気象台が発表する「急速に発達する低気圧に関する情報」などにより、大雪、暴風雪、雪崩、融雪など、台風時には現れない現象も含めた防災対策を早期にとっていただきたいと思います。

(2017年1月31日 更新)