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火山噴火

第6回  桜島の今~2016年2月5日の噴火速報とその後

執筆者

石原 和弘
京都大学名誉教授 火山噴火予知連絡会副会長
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桜島で初の噴火速報

2016年2月5日の午後7時頃、東京のテレビ局から「テレビを見てください。桜島が爆発し、気象庁が噴火速報を発表した。コメントがほしい。」という内容の電話を受けました。テレビ画面では、赤熱した岩塊(がんかい:大きな噴石)が昭和火口から周囲1.5km程度の範囲まで飛散する映像【写真1】を繰り返し流していました。2006年以降に昭和火口で発生した約5400回の爆発の中では並の強さでした。他の火山で起きれば大変なことですが、この4か月ぶりの噴火は、ごく普通の噴火並みでしたので、とりあえず大噴火は回避されたと安堵(あんど)した住民もいたでしょう。

桜島では南岳山頂火口と昭和火口の周囲2km以内は常に立ち入り禁止になっていて、昭和火口の東山麓の火砕流や土石流の危険性のある地域は立ち入りが規制されています(*1、*2を参照)。地元の人々は、報道関係者が噴火速報と映像に過敏に反応して全国ニュースになったことに当惑しました。2015年8月15日の噴火警戒レベル4が発表された時ほどではありませんが、観光にも多少の影響が出ました。噴火速報は、2014年の御嶽山噴火により、火口周辺にいた人々が遭難したことを踏まえて気象庁が導入した登山者など入山者向けの情報です。今回の噴火速報が本来の趣旨や目的にかなっているか否か、報道の仕方も含めて、検証すべきでしょう。

噴火しない異常な桜島

約4か月の休止後に発生した2月5日の爆発を契機に活発化すると予想された昭和火口の噴火活動は、2016年7月末以降再び休止しています【図1】。この間で変わったことといえば、約6年間休止状態であった南岳山頂火口で2016年3月から7月の間に、火山灰を含む噴煙高1000mから3700mの噴火が11回起きたことです。桜島の地下のマグマにとって、昭和火口への火道(マグマの通り道)が通りにくくなり、以前通っていた南岳山頂火口の火道から噴出したとも考えられます。

桜島の地下の状況

桜島の火山性地震の活動状況や火山ガスの放出量から、最近の噴火活動低下の背景を考えてみます【図2】。

桜島の地下では、【図3】に示したような様々な地震と微動が発生します。それぞれのタイプによる地震発生頻度の変化などから火山活動を予測します(*1を参照)。A型地震はマグマ貫入(地殻変動などによりできた割れ目・すき間や火道にマグマが入り込むこと)やマグマの蓄積・噴出などによって地下の圧力が変化した時に地下1~10kmで起きる地震、B型地震はマグマが火道に貫入する時(BH型地震)や火口に向かって上昇する際(BL型地震)に火道の深さ3kmより浅い部分で発生する低周波の地震の総称です。桜島で発生する火山性微動の多くは噴火や連続的な火山灰放出に伴って発生します。

噴火活動に密接に関係するB型地震、火山性微動及び二酸化硫黄の放出量は、【図1】で示した噴火回数と概略同じような変化傾向を示し、2015年7月以降は噴火活動の低下に符合して減少しています。

他方、A型地震の発生頻度は逆に増加しています。マグマの火道への貫入・上昇に関係するB型地震の発生が少ないことと考え合わせると、桜島の地下深くではマグマがゆっくりと蓄積しているものの、火口に繋がる火道へ入り込めない状況にあると推定されます。2015年8月15日のマグマ貫入や2016年3月以降の南岳山頂火口からの再噴火は、昭和火口の火道が閉塞気味になったことを反映していると考えられます。

姶良(あいら)カルデラ地下のマグマ蓄積状況

第2回「終息しない桜島の火山活動」(*1)で解説したように、桜島の活動の源となるマグマ溜まりは桜島の北方の鹿児島湾、姶良カルデラの地下約10kmにあります。1914年の大正噴火で溶岩流と軽石・火山灰を併せて19億m3余りを噴出して、沈降した姶良カルデラ周辺の地盤は、1915年以降隆起・膨張に転じて大正噴火の5~10年前のレベルまで回復しています。

最近5年間の姶良カルデラ周辺の地盤変動―マグマの蓄積状況―を、カルデラを挟んで約35km離れた東西2カ所のGNSS(GPS)基準点間の距離(基線長)による変化で確かめます【図4】。昭和火口の活発な噴火活動が続いていた2014年末まではゆっくりとした伸び、2015年初めから伸びの速度が急増したように見えます。この伸びの急増に対応して、2015年初めに姶良カルデラから桜島への急速なマグマの移動・上昇が生じ、2015年前半の活発な噴火活動を引き起こしたと考えられます。

噴火活動が低下した2015年後半以降も基線長は着実に伸びていて、カルデラ地下ではマグマ蓄積が進行していることは確かです。2015年半ばから桜島の火口へ連なる火道が通りにくくなっているため、姶良カルデラから桜島へのマグマの移動・上昇は停滞していますが、いずれはマグマが出口を求めて動き出すと考えられます。

これから

これから桜島の火山活動はどのように展開していくか?顕著な火山活動の転機の主なきっかけは、姶良カルデラから桜島地下へのマグマの移動・上昇であり、桜島の地盤の膨張やA型地震の多発として観測されるでしょう。もちろん、桜島以外からの噴火の可能性も念頭に置く必要があります。

火山活動の現状を踏まえて、桜島の地下にマグマが移動上昇した時に予想される事態を【図5】として模式的に示しました。

今後、桜島の地下に移動したマグマが既存の火道を使って徐々に噴出される場合には、1955年から、現在までに経験したような山頂火口あるいは昭和火口での噴火活動の活発化、場合によっては昭和火口からの溶岩流出といった状況が予想されます。また、地殻変動を伴う顕著な地震活動が観測された場合には、既存の火口以外で噴火が発生する可能性が高くなります。地震活動や地殻変動の規模や広がりなどから、噴火の場所や様式の予想をたてることになります。

(*1)第2回  終息しない桜島の火山活動 ~桜島の噴火の歴史‐2~/石原和弘
(*2)第3回  桜島の大噴火に備える ~桜島の噴火の歴史‐3~/石原和弘

(2017年1月31日 更新)