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津波の基礎知識

第5回  津波の威力 ~津波の恐ろしさを知って避難する~

執筆者

有川 太郎
中央大学教授・国立研究開発法人 港湾空港技術研究所 客員研究官
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津波の力について

2016年11月22日に福島県沖で地震が発生し、津波警報が出されました。国内において、1m以上の津波が観測されたのは、2011年3月の東日本大震災以来でした。多くの沿岸部では、1mを下回っていましたが、警報が発表され、避難指示も出されていました。東日本大震災では、非常に大きな津波でしたので、その威力が大きいことは分かりますが、小さい津波の威力というものは最大でどの程度あるのでしょうか?今回は、津波の力とは何かについて、お話ししたいと思います。

そもそも、水の力には、どのような力があるのでしょうか。これは大きく分けて二つの種類の力があります。動いていない水の力と、動いている水の力です。例えば、プールのように貯められた水が壁に作用している力は、動いていない水の力で、静水圧と呼びます。川の中に足を突っ込んだときに感じる力や壁にぶつかる力は、動いている水の力で、動水圧と呼びます。動いている水の力は、場合によって、衝撃的に大きな力を発揮します。これは、水面と作用する壁の向きが一致したときに生じるものです。例えば、プールに飛び込んだとき、腹打ちをしてすごく痛かった、という経験はないでしょうか?このときに発生する力を、衝撃波圧(はあつ)や衝撃段波波圧(だんぱはあつ)と言います。段波には、砕波段波(さいはだんぱ)と波状段波(はじょうだんぱ)という二つの形態があります。砕波段波とは、波が砕けながら押し寄せ、海岸の水位が急激に上昇するような現象を言います。一方で、波の先端が分裂する波状段波という現象もあり、これは河川遡上(そじょう)や遠浅の海岸で見られます。これも場合によっては、大きな衝撃段波波圧を生じさせます。

壁に及ぼす津波の威力

水の力は、単位面積あたりの力で考えることが多く、水圧と言います。単位は、[kN(キロニュートン)/m2]と表します。壁に作用する水の力は、水が動いていない(静水圧)場合、水の深さに比例した水圧が作用します。【図1】に示すとおり、1mの水深であれば、壁に対して、幅1mあたり0.5t(500kg)の力(約5kN/m2)が作用することとなります。また、深さに比例する力が作用することで、水の中に構造物があれば、上向きの力である浮力も働くことになります。

では、水深1mの水が勢いを持って壁に衝突するとどうなるでしょうか?この場合、静水圧分に加えて、その動いている速度に応じた力が作用することになります。それは、静水圧の3倍程度まで大きくなる可能性があります【図2】。面に対しては9倍となり、1mの水深では、幅1mあたり、4.5tもの力(約45kN/m2)が作用することになります。

さらに、動いている速度に応じた力以上になることはあるのでしょうか?
【写真1】は、2mの津波が塊となって壁にぶつかった際、コンクリートの壁を壊した様子を示しているものです。水が壁に一気に衝突すると、衝撃的な力が作用し、水が破裂したように上へ立ち上がります。このような場合、その力は静水圧の10倍以上にもなることがあります。めったに生じない現象ですが、海岸線近くにおいて、このような力の作用による危険性があります。

人に作用する津波の力

さて、人に対して、どの程度の力が作用するのでしょうか?これは、流れの中で受ける力に近く、動水圧の中でも、抗力と呼ばれることがあります【図3】。抗力とは、物体が流体(固体以外の物質全般)から受ける力で流れの方向と同じ方向の力です。その力の大きさを調べるため、人に対して実験を行ったところ、50cm程度の津波が流れている状態では、最大で、200kg程度の力が両足に作用することもありえます【写真2】。これは、津波の先端部などの極めて早い流れが生じているときに起こるもので、大人でも、流されてしまうことになります。

【図4】は、実験による津波の浸水深と転倒の確率です。男女あわせて40人程度の人達にテストしていただきました。体重が軽ければ、30cm程度でも十分に流されることもあります。もちろん、徐々に水位が上昇してくるような場合では、浮力だけが作用するとは言え危険なのですが、海岸線のような場所では勢いをもって押し寄せてくることが多いので、極めて危険です。海岸線でなくても、津波の流れに勢いがあるときには、かなり大きな力を受けてしまうことを理解して身を守ってください。

引いていくときにも危険な津波!即時避難を!!

波の中では、水粒子が行ったり来たりして、波のエネルギーを伝播(でんぱ)します。水粒子の移動距離は、波の周期に比例します。波の周期というのは、波が寄せて引いて、また寄せるまでの時間のことを言います。この周期が長くなるほど水粒子の移動距離も長くなるため、津波のように周期が10分以上となる場合、その距離は、数キロから十数キロになることもありえます【図5】。津波が引いていくときに、波に取り込まれると、かなり沖まで流される可能性があります。また、津波が引いていくときには、大きな速度が出やすく、それに伴い大きな力が作用することがあります。

このように、津波の力は、陸地に遡上してくるときだけでなく、引いていくときにも危険です。さらに、たとえ1m以下の高さであっても、人の力では対抗できないような大きな力となることが分かっていただけたかと思います。前回のコラムでも触れましたが、津波から無事に避難するためには、津波が来る前に想定される津波の高さより高い場所へ逃げることです。ただし、想定以上の高さの津波が来る場合も考えられますので、より高い場所へ逃げられるようにしておくことは大事です。沿岸部で揺れを感じた場合、自分の身を守ると同時に、「津波が来るかもしれない」と考え、即座に避難する準備を行うことが重要となります。地震を感じたら、遅くとも10分以内に逃げることを目標に、普段から準備を心がけると良いと思います。

(2016年12月27日 更新)