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第2回  風水害 犠牲者はどのように生じているのか ―後編―

執筆者

牛山 素行
静岡大学防災総合センター教授
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「自宅に取り残された」より「屋外で行動中」の場合が多い犠牲者

前編に続き、筆者が整理している2004~2014年までの、主な風水害42事例で生じた712人の犠牲者に関する集計結果を基に話を進めます。
まず、犠牲者が遭難した場所を「屋内」と「屋外」に大別して見てみましょう。ここでは、自宅や勤務先、訪問先など、何らかの建物の中に居た場合を「屋内」とし、建物の外に居た場合を「屋外」とします。屋外には、一定の場所にとどまっていたケースのほか、車や交通機関などで移動中も含まれます。犠牲者全体で見ると、「屋内」は51%、「屋外」は48%と、ほぼ半々となりますが、被害をもたらした原因によって、遭難した場所には明瞭な違いが見られます。土砂災害は「屋内」が大多数(87%)を占めますが、他の現象では「屋外」が多数を占めています。前編で説明したように、「洪水」とは川からあふれた水による「川の範囲外」での遭難、「河川」は増水した川に近づいて「川の範囲内」での遭難です。「洪水」と「河川」を合わせて水に関わる犠牲者と考えると、83%(267人中221人)が「屋外」となるのです。この結果は、自宅など屋内にいる場合、避難することで犠牲者を減少させることが期待できるのは主に土砂災害であり、他の激しい現象が発生している時には、むしろ屋外で無理な行動をとらないほうがよいことを示唆しています。

常に同じ避難場所を目指すことが最善ではない

多くの人は、「災害が起きたらとにかく避難所へ」と考えているかもしれませんが、自宅から常に同じ避難所を目指すことが最善であるとは限りません。台風のように、比較的早い時点から豪雨が予想されるようなケースでは、早めに安全な避難場所に移動することが最善でしょう。しかし、急な大雨で浸水が始まってしまったような場合は、無理に避難所を目指すとかえって危険を招くことにもなりかねません。写真1では、中央に倒れているブロック塀が見えます。これは洪水によって倒されたものと思われ、水の力がいかに強いかを実感させられます。一方で、周囲の家屋はあまり損壊していません。浸水したら、なるべく新しい建物の2階以上にとどまることも避難行動のひとつだと言えます。ただし、河川のすぐ脇などでは、家屋が流されてしまうこともあるので、早めに川から離れた場所に避難することが重要です。

土砂災害の場合は浸水と少し話が異なります。特に土石流に見舞われると、写真2のように木造家屋は完全に倒壊してしまうことがあります。土石流は谷筋に沿って流れるため、谷の出口付近が最も危険です。このような場所で、早めの避難ができなかった場合は、谷の出口から少しでも横方向に移動し、建物の2階で山の反対側の部屋に身を寄せるなどの行動が有効かもしれません。

災害は「起こりうる場所」で主に発生している

ひとたび災害が発生すると「まさかこんなところで」という声をよく聞きます。もちろん、完璧な予測ができるわけではありませんが、洪水や土砂災害の多くは、予想もつかない場所で起こるわけではなく、主に「起こりうる場所」で発生しています。
図2は、2004~2014年に起きた豪雨災害の「土砂」による犠牲者について、遭難した場所を番地程度まで特定した243人を対象に調べたものです。この結果、遭難した位置が、公表されている「土砂災害危険箇所」の「範囲内」だった犠牲者が72%に上り、危険箇所から数十m以内の「範囲近傍」での犠牲者を合わせると87%に達しています。「ノーマークの場所で犠牲者が発生した」と言われることがありますが、土砂災害について言えば、そうしたケースはかなり例外的であることが分かります。
「洪水」や「河川」の犠牲者についても同様な解析を進めており、検討の過程ではありますが、洪水の浸水想定区域またはその近傍での犠牲者は5割程度となりそうです。洪水の浸水想定区域は、どの程度の降雨・洪水を想定するかで範囲が大きく変わるため、地形的に浸水の影響を受ける可能性のある場所での犠牲者は、これよりもう少し多くなる可能性があります。土砂災害や洪水災害で、予想もつかないような場所での犠牲者が多くを占めるとは言えないと思います。

「夜の災害」だけが怖いわけではない

犠牲者が遭難した時刻を夜間(18:00~05:59)と昼間(06:00~17:59)に大別し、原因別に集計したのが図3です。犠牲者全体で見ると、夜間が50%、昼間が44%で、昼と夜ではそれほど大きな違いはありません。原因となった現象ごとに若干の相違が見られ、「洪水」と「土砂」は夜間の犠牲者が多く、「河川」と「その他」では昼間の犠牲者が多い傾向があります。「夜間だから大きな被害になった」のか、「激しい現象が生じた時間帯がたまたま夜間だった」のかについてはさらに検討が必要ですが、少なくとも実数で見る限り「犠牲者の発生は夜間に集中している」ことはありません。「屋外」での犠牲者が多い(図1)「河川」と「その他」で昼間の犠牲者が多いということから、屋外で行動中に犠牲となる危険性は、夜間より昼間のほうがむしろ高いことを示唆しているのかもしれません。
「夜の災害が怖い」という声を耳にします。夜間は見通しがきかない怖さなどがあることはいうまでもありません。しかし、夜間だけに注意を向けるのは不十分だと思います。昼間は、例えば少し無理をしてでも帰宅しようとするなどの行動を取ってしまう可能性があるからです。実際、2004年の台風23号では、こうした行動による犠牲者が散見されたという事実もあります。夜には夜、昼には昼の、異なった危険性があると考えるべきでしょう。

おわりに

2回の記事を通じて、「風水害犠牲者の現実」をいくつかの側面からお伝えしました。自然災害による犠牲者を少しでも減らすためには、「こうした形で犠牲者が生じているから、こうした対策が必要だ」といった、現実に即した対策を考えていくことが重要です。そのための基礎的な研究を今後も進めていきたいと考えています。

(2016年5月31日 更新)