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火山、噴火予知技術

第1回  人工震源で地下を診る

執筆者

山岡 耕春
名古屋大学大学院環境学研究科地震火山研究センター教授
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地下を診断する

地震の原因となる断層は地面の下にあり、断層が急激にずれ動いて地震が発生します。火山噴火の原因となるマグマだまりも地面の下にあります。したがって、地震や火山噴火の研究や予測のためには、目に見えない地球の内部を常に監視する必要があります。このことは私たちの体の中を調べることに似ています。私たちは定期的に健康診断を受け、場合によってはCTや超音波を利用して体の内部を調べます。
さて、私たちがさまざまなものの内部の様子を調べるときにはどうするでしょう。例えばスイカの中身を調べるときには、手でたたいて音を聴いて食べ頃かどうかを判断します。このときに「たたく」という動作と「聴く」という動作の2つが必要となります。手で「たたく」ことによって信号をスイカの内部に送り、その信号を耳で「受信」します。このように、見えない内部の状態を調べるためには、信号源と受信器が必要となります。地球の内部を検査する場合も同じように、信号源と受信器が必要です。

人工震源アクロス

私たちは、このような震源としてアクロス(Accuretely Controlled Routinely Operated Signal Systemの頭文字を取ったもの)の考え方に従った震源装置を用いることにしました。アクロスとは、精密に制御された振動を地下に向けて送信し、その信号を周囲に配置した地震計で受信することによって、地下構造の変動に関する情報を取得するシステムです(図1)。

写真1は、兵庫県の淡路島野島断層近くに設置してあるアクロスの震源装置です。震源装置は、偏心した(片寄った)おもりを回転させることによって遠心力を発生させて振動を出します。また正確な時計に同期してモーターを回転させており、日本の高度なモータ制御技術によって実現した方法でもあります。現在、淡路島以外にこのような震源装置を岐阜県土岐市、愛知県豊橋市、静岡県森町、そして鹿児島県の桜島に設置して、地下構造の変動を観測しています。

これらの震源で発生した波の観測は、通常用いられている地震計を利用しています。アクロスの信号は、少し離れれば全く人体に感じることはありません。しかし微弱ではあっても遠くまで信号が届きます。地震計の信号を、震源から送信される信号の形に合わせて足し合わせることで、微弱な信号を取り出します。
従来の多くの研究では、信号源は自然に発生する地震を利用しています。しかし、自然の地震はいつ、どこで発生するかも分からず、発する信号の波形も不確定です。そこで私たちは、正確な信号を発生させることのできるアクロスの震源装置を信号源として用いているのです。地下の状態が次第に変化していくことを捉えるため、震源からは繰り返し、あるいは連続に信号を出し続けて変化を捉えています。

アクロスで何が分かるか

地震の波を利用すると、何が分かるのでしょう。直接的には地震波が伝わる速度とその変化が分かります。通常固い物質のほうが軟らかい物質よりも地震波が速く伝わります。地震波速度の変化が分かると岩盤の固さの変化が分かります。また地震の波にはP波(縦波)とS波(横波)があり、それぞれ波が伝わる際の変形の方向が異なります。またS波は液体内部を伝わりません。したがって、これらP波とS波の伝わる速度の変化を組み合わせて調べることにより、地下の水やマグマの移動や形態の変化を捉えることも原理的には可能となります。
私たちは、現在アクロスの震源装置を用いて長期間連続して観測しています。この観測によって、地下を伝わる地震波の速度が地下水の圧力変化や移動に対して非常に敏感であることが分かってきました。それが最初に明らかになったのは、淡路島の観測でした。淡路島では、2000年からアクロスの震源装置を稼働させて観測を始めました。その期間中に、鳥取県西部と瀬戸内海の安芸灘で比較的大きな地震が発生し、淡路島でも震度2から4の揺れとなりました。この揺れによって地下を伝わるS波の速度が低下したことが解析によって明らかになりました。また一旦低下したS波速度も1週間くらいで徐々に元の値に回復していく様子も明らかになりました。この変動を詳細に解析した結果、この変動は、地震による揺れによって岩石の間にあった地下水の圧力が増加し、その結果、地下水が岩石の狭い隙間を通って移動したためであると解釈できました。またその変動も徐々に緩和し、元の状態に戻っていったようです(図2)。

アクロスの応用

このように、アクロスの震源装置が送信する信号は、地下水の変動を非常に敏感に捉えることが分かりました。地下水と同様、火山の地下にあるマグマも液体です。したがって火山活動に伴ってマグマが移動する様子も、アクロスの震源装置によって捉えられる可能性が高そうです。私たちは、このような考えに従い、アクロスの震源装置を桜島に設置し、実験を開始しました。現在解析を行っているところですが、震源から発生した波は、信号を長時間足し合わせることによって20km離れた桜島の外側でも捉えられることが分かっています。アクロスの応用は、地震や火山だけではありません。石油など資源、地熱開発、二酸化炭素地下貯留などへの応用が研究されています。いずれも、地下の見えない場所での流体の移動を調べようとする試みです。地下を診る分野への応用の拡がりが期待されます。

(2016年4月28日 更新)