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桜島噴火と降灰の影響

第2回  桜島大噴火にいかに備えるべきか

執筆者

吉原 秀明
鹿児島市立病院 救命救急センター長
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火山災害の特徴

火山災害には、発生する頻度が低いこと、予知の可能性が高いこと、複合災害であること、災害が長期化すること、などの特徴があります。発生頻度が低いということは、過去の火山災害の情報が乏しいことを意味します。予知の可能性が高い、つまり予知できるということは、事前の避難計画が成り立つことを意味します。さらに、災害が長期化するということは長期の避難計画が必要であることを意味します。

桜島外における災害対応はどうあるべきか

火山災害への対応策は、桜島の内外で異なります(図1)。
大噴火に伴う大きな噴石の落下と火砕流の危険域は、桜島全域にほぼ一致しています。桜島島内は事前に避難をしなくては生命を守ることが困難であり、すでに実働訓練も行われています。
一方で、桜島外に関しては、火山灰、火山性地震、津波等による被害が想定されます。特に、火山灰の影響が大きく、ライフラインの障害、交通障害、通信障害等が発生し、桜島外における避難生活にも、病院での診療機能維持にも深刻な問題を来します。しかしながら、鹿児島県でも桜島外についての対応策は示されておらず、訓練も行われていないのが現状です。さらに、大噴火の後では、鹿児島県の被災状況を非被災県へ情報発信ができなかったり、非被災県が被災県へ支援に向かえない可能性があります。

桜島大噴火後の桜島外における要避難地域とは

鹿児島県における桜島外の地域は、桜島の住民を支援する立場にありますが、被災地として支援される立場にもなり得ます。桜島外の要避難地域はどのように想定すべきでしょうか。
降灰堆積厚(降り積もった火山灰の厚さ)と交通障害、ライフライン障害、建物損壊の関係を図2に示します。

過去の事案に照らし合わせると、降灰堆積厚が10cm以上になると交通、ライフラインともに障害が生じています。降灰堆積厚と交通障害からの復旧に要する期間の関係についての報告は限られています。例えば、1980年にアメリカ合衆国ワシントン州のセントヘレンズ山で起きた噴火では、火山灰が7.5cm積もった高速道路が5日間完全停止し、復旧は8日目であったとの報告があります。ただし復旧に至るまでには様々な要因があり、このまま桜島大噴火時の道路復旧期間に当てはめることはできないかもしれません。しかし、7.5cm以上の降灰堆積がある地域の住民は事前避難、あるいは発災後に避難することを検討すべきではないかと思います。そして、鹿児島県の本土の多くの地域が7.5cm以上降灰堆積地域に含まれる可能性があります(図3)。1914年に発生した桜島大正大噴火級の爆発後の降灰厚分布図から判断すると、風向き次第では避難をしなければならない人の数が60万人以上になりうるのではないでしょうか。

具体性のある避難計画と地域支援計画

大規模避難をする際、計画性のない避難行動をとると交通渋滞を招き事態を悪化させかねません。内閣府等による「広域的な火山防災対策に係る検討会」は、大規模火山災害時の避難計画案を提示していますが(図4)、鹿児島県でも桜島大噴火時の具体的な避難案が必要だと思います。また、長期避難となることからコミュニティー全体のつながりに配慮した避難先を平時に選定しておくことも必要だと思います。

事前避難は財政支援、人的支援、時間を要します。火山災害が起きる前から避難者の受け入れ先の確保と搬送支援体制の確立が必要であること、噴火が未遂に終わり無駄な避難活動と経済的損失が生じうることも含めて、平時から事前避難についてコンセンサスを得ておくことが大切です。特に、病院内の入院患者は発災後の避難が極めて困難であると想定されるため、災害弱者として優先的に事前避難を考慮すべきだと思います。ただし、通常、災害時の被災地支援システムは“発災後”を想定しているため、事前避難に関しては人的資源不足の懸念があります。また、発災前から降灰堆積厚の想定をするのが困難であり、事前避難地域の選定も課題となります。
火山災害が起きた後の避難は、通信障害や交通障害のため搬送手段が限定され、事前避難と比較して、より多くの財政支援と人的資源と時間が必要です。避難の遅れは防ぎえたはずの災害死を生じさせることにつながりかねません。火山災害発生後、迅速に避難するためには、鹿児島県緊急輸送道路ネットワーク計画をより具体化して、交通障害復旧までの期間想定を明確にしておく必要があります。また、噴火後の迅速な降灰堆積厚予測も重要な情報となります。火山灰の廃棄場所の確保や除灰手段についても具体的に決めていかねばなりません。しかし、現状ではそのような避難のための想定は確立されておらず、今後の課題といえます。
この避難案に代わる対応策として、革新的な除灰システムによる交通障害復旧の短縮化、降灰上を走行する車両の導入で早期の移動手段確保や物流再開、降灰に強いライフラインのあり方など様々な取り組みで要避難地域の縮小化を図るべきであると考えます。

真の姉妹都市を目指して

イタリアのナポリ市から見えるべスビオ山は鹿児島市から見える桜島と類似しており、2つの都市は姉妹都市となっています。そのナポリ市では大噴火時に60万人を避難させる計画があるといいます。鹿児島市も景色だけでなく火山災害対応に関しても姉妹都市に恥じないようでありたいと思います。桜島が課した課題はとてつもなく大きいですが、克服することで災害対応先進県へと飛躍することを期待しています。

(2016年3月31日 更新)