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第1回  風水害 犠牲者はどのように生じているのか ―前編―

執筆者

牛山 素行
静岡大学防災総合センター教授
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大局的には減少傾向にある日本の気象災害の犠牲者

自然災害に伴う被害にもさまざまなものがありますが、最も深刻なのは死者や行方不明者、すなわち犠牲者が出ることと言ってよいでしょう。皆さんの抱いているイメージとは違うかもしれませんが、日本における自然災害に伴う犠牲者の数は、第二次大戦直後の1950年代から現在に至るまで、大局的には「減少」傾向にあります。
図1上は1950~2014年の自然災害による死者・行方不明者数を単純に示したものです。2011年の東日本大震災による犠牲者数が非常に多いため、少し分かりにくいですが、1950~1980年代前半はグラフの「棒」がはっきり見えます。しかし、それ以降は「棒」として見えない年が多いと思います。図1下は対数グラフといい、縦軸の1目盛りが10倍ずつになるように書いたものです。1960年代以前は1年間の犠牲者が1000人以上の年も少なくないのに対し、1980年代後半以降は100人以下の年がむしろ目立っています。このグラフの形に大きく影響を与えるような大きな地震災害(死者200人以上)は、1993年北海道南西沖地震、1995年阪神・淡路大震災、2011年東日本大震災の3事例のみで、他の被害の多くは大雨、大雪などの気象災害によるものです。地震は犠牲者を生じる事例の数が非常に少ないので何とも言えませんが、気象災害による犠牲者は、最近数十年間では明らかに減少傾向にあると言ってよいでしょう。グラフは示しませんが、住家の全壊・半壊・床上浸水などの被害も同様に減少傾向が見られます。なぜ減少傾向にあるのか、その因果関係を示すことはかなり難しいですが、防災施設の整備、建物の強化、情報の充実など、さまざまな対策の積み重ねの結果かもしれません。

犠牲者がどのように発生しているのかがよく分かっていない

気象災害による犠牲者数が大局的には減少傾向にあるとしても、だからもう日本では気象災害は怖くないなどということはありません。近年でも、2004年の台風23号(死者・行方不明者98人、平成27年防災白書による)、2011年台風12号(同94人)などの事例があります。こうした実例が近年にもあるのですから、今後も一度に100人前後の犠牲者が生じるような気象災害が起こる可能性は十分あると思います。
気象災害の犠牲者を減らす、あるいはこれ以上増やさないためにはさまざまな対策が考えられますが、まず基礎知識として、そもそも犠牲者がどのように生じているのかを知っておく必要があるのではないでしょうか。しかし、実はこのようなことがまだ十分に明らかにはされてはいません。このため筆者は2004年頃から少しずつ事例を増やしつつ、調査を続けています。なお、気象災害にもいくつかの種類がありますが、ここでは最も頻繁に発生する大雨、強風、高潮などによって発生する風水害を対象としています。以下で紹介するのは、2004~2014年までの主な風水害42事例(総務省消防庁がホームページ上で「災害情報」として公表している災害事例別の被害状況に収録された事例)で生じた712人の犠牲者についての集計結果です。

犠牲者の発生状況には意外な面がある

まず犠牲者がなぜ生じたのか、その原因となった現象を見てみましょう(図2)。最も多いのは「土砂」(土石流、がけ崩れなど)で、48.9%となっています。以下多い順に「河川」19.1%、「洪水」18.4%、「強風」6.3%などとなっています。「河川」と「洪水」というのは筆者独自の分類方法で、「洪水」とは川からあふれた水により、川の範囲の外で犠牲者が生じたケース、「河川」は用水路の見回りや、川沿いの道を通行するなど、増水した川に近づいて、川の範囲の中で亡くなったケースです。「洪水」と「河川」の犠牲者は、言い方を変えると「溺死した方」です。風水害で溺死、と聞くと、川があふれて水が市街地に広がり、それによって流されて亡くなった、という姿がイメージされそうです。確かにそういう方も少なくないのですが、実は溺死者の半数程度です。残りの半数は、川はあふれていないけれど、増水した川に何らかの事情で近づいて亡くなっているというのが現実です。
いかがでしょうか。この図を見ただけでも、「風水害時の犠牲者」の姿が、何となくイメージしているものと少し違う、という感じがしないでしょうか。こうした調査をすると、このように意外な結果にいくつか出くわします。次回もう少し掘り下げて考えてみましょう。

(2016年2月29日 更新)