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地震と建物の揺れ

第3回  建物と人の生活を守る震災対策(その2:災害対応力の向上策)

執筆者

久田 嘉章
工学院大学建築学部まちづくり学科 教授 工学博士
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災害対応力の向上策について~地震の大きさの違いによる建物や人への被害を想定する

前回に引き続き、レジリエントな対策として、今回は地震のレベル(大きさ)ごとに建物や人への被害を想定した対応策についてご紹介します。
震災時の対応策を検討するには、まず被害を想定する必要があります。通常は国や自治体など公的機関が公開している「地震被害想定」を活用すればよいのですが、その際、いくつか注意点があります。まず、公的機関の被害想定は、大地震による被害の全体像を把握することが主な目的です。このため、それぞれの地域や建物についての予測精度は決して高くありません。また、特に大きな被害が生じると考えられる大地震(M7級の直下地震や、M8~9の巨大地震)における数例の被害想定を示しているだけですので、次に起こる可能性の高い地震の「被害予測」ではないことにも注意しなければなりません。
現実には、次に起こる可能性の高いのはM5~6程度の中小地震ですので、中小規模の被害を想定し、その対応策も併せて事前に準備しておく必要があります。想定される被害程度により、建物にとどまるべきか、避難すべきか、など対応は大きく異なるはずです。

図1は、地震の発生確率と被害の程度について表したものです。横軸は「地震動の強さ(計測震度)」を、図1上の縦軸は「1年あたりの震度ごとの発生確率」を示しています。例えば、年発生確率が5%であれば、起こるのは20年に1度程度であり、0.1%では1000年に1度程度ということになります。また、図1下の縦軸は「建物の損傷率」です。色分けされた3本の線は耐震性の異なる建物を表しており、耐震性の低い建物は損傷率が大きく、耐震性の高い建物は損傷率が小さくなります。
また、図1では、地震と被害レベルを3段階に分けています。「レベル1」は、近い将来に発生する確率は高いが被害は中小規模に留まるレベル、次に「レベル2」は、発生する確率は高くはないが大被害となる可能性があるレベル、最後に「レベル3」は、発生する確率は極めて低いが甚大な被害が出る可能性があるレベルです。ちなみに、レベル1は現在の建築基準法に定める「中地震」に、レベル2は現在の建築基準法に定める「大地震」に、それぞれ相当する地震動レベルに対応します(文献1)。レベル3は「最大級の地震」であり、建物を建てる際に守るべき最低基準である建築基準法では想定されていませんが、万が一の最悪の事態を検討するために設定されています。

高層建物を事例として、事前にレベル別の被害と対応策を検討する

次に、レベル別の被害想定と事前の対応策がなぜ必要かを理解するため、高層建物など多数の在館者がいる大規模建物を例として検討してみます(表1)。超高層建物では数千から、時には数万人にも及ぶ大勢の在館者がおり、災害時に狭い非常階段に避難者が集中するとパニックなど2次災害を引き起こす可能性があります。このため大規模建物には防災センターが設置され、災害時には館内でとるべき行動について統制することが義務付けられています。

ここで注意しなければならないのは、同じ災害でも火災と地震とでは対応が大きく異なることです(文献2)。火災は通常1か所で発生し、火災・煙探知機により防災センターで早期に発見され、スプリンクラーが作動します。主な対応は「全館避難」であり、非常用エレベーター等で防災センター職員が火災現場に駆けつけ、その指示の下で在館者全員が非常用階段で順番に館外に避難します。
一方、地震の際は、火災や建物に大きな被害があれば避難しますが、そうでなければ避難の必要はありません。ただし、揺れが大きい場合、館内で同時多発の災害(室内被害や負傷者の発生、閉じ込めの被害など)が生じる可能性があります。この場合、すべてのエレベーターは長時間停止し、通話の集中により電話回線を使うことができず、防災センターの職員はすぐに現場に駆けつけられません。したがって、被害程度に応じて「避難か」「待機か」などの対応計画と行動ルールを事前に決め、防災センターが館内放送などで統制すること、そして誰も助けに来ないことを前提として在館者や事業者自身による災害への対応力を向上させる対策が必要になります。
ここでは高層建物の被害程度と対応計画として、「レベル1」の地震では避難不要、「レベル2」の地震では一部避難(高層から低層階など)、「レベル3」の地震では全館避難、という被害程度を想定してみます。「レベル1」では建物に大きな被害はなく、火災さえなければ避難は不要です。ただし、高層階などで室内の被害が出る可能性があります。こうしたケースでは、エレベーターは長時間停止し、防災センター職員は駆けつけられませんので、隣近所の共助により安否確認や救援救護を行う必要があります。「レベル2」では、建物に若干の被害が出ますが、全館避難の必要はありません。この場合の対策として、震災直後には全階で住民や事業者自身による安否確認を行い、初期消火や負傷者・閉じ込められた人の救援救護や搬送などが必要になります。また室内被害や余震による揺れなどへの不安から、多数の住民が低層階に避難する可能性があるため、使用できる共用スペースや必要な備蓄品を事前に準備しておかなければなりません。「レベル3」は、建物内外の火災や甚大な建物被害、建物内部における全館空調設備の電源喪失などで、全館避難が必要となる場合です。震災直後の応急対応活動の後、まずは予め指定された建物外の安全な一時集合場所に、次に自治体が指定する広域避難場所(広場など)に、その後は状況に応じて避難所(学校など)に避難します。このようなケースに備えて、事前に具体的な場所や安全なルートなどを確認しておくことが大切です。また、万が一の場合に備えて館内で多数の負傷者が出たときの検討も必要です。大規模震災の場合、自治体は災害医療体制を取り、拠点病院は重症者以外を受け入れなくなります。多数の負傷者の中での重症者等の選別(トリアージ)は近隣の医療救護所で行われます。日頃から地元の医療従事者や消防署などとも連携し、地元の医療救護体制を確認するとともに、残された軽傷者を自分たちで救護できる体制づくりと訓練が求められています。

この次の段階として必要になるのは、防災訓練などによる行動計画の検証と改善です。これについては次回に具体例とともに紹介したいと思います。

参考文献
(1)福山 洋「第3回 どうなる? 今後の耐震設計」NHKそなえる防災コラム
http://www.nhk.or.jp/sonae/column/20140326.html
(2)久田嘉章 第4回「超高層建築の震災対策」、SEINWEB、NTTファシリティーズ総研
https://www.sein21.jp/NewSeinWeb/TechnicalContents/Hisada/Hisada0104.aspx

(2016年2月29日 更新)