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火災予防

第3回  地震火災時における広域避難の課題 ー いつ、どこに逃げればよいのか

執筆者

関澤 愛
東京理科大学大学院 国際火災科学研究科 教授
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「避難場所」ってどこを指すの?

東京都では、地震火災発生時に大規模火災の輻射熱(ふくしゃねつ)からの危険を避けるために、一定の大きさ(通常5ヘクタール以上)を有した「(広域)避難場所」が指定されています。また、これと区別する意味で、居住地の最寄りの小中学校など、近隣の人がいったん集まる場所を「一時集合場所」、そして、応急対応の時期が過ぎて家を失った人たちを収容する施設については「避難所」(これも最寄りの小中学校や公民館が指定されることが多い)と呼んでいます。
「避難場所」は、火災から安全な「大きな空地、公園」など、いわゆる広域避難場所を指すものなのですが、東京都によれば公式には「避難場所」と呼ぶとされています。しかしながら、一般の人が「避難場所」という用語を聞いたときに、すぐにイメージするのは最寄りの小中学校や公民館ではないかと思います。実際に、都内では最寄りの小中学校、つまり一時集合場所に「避難拠点」という名称をつけ、地域における防災活動の拠点として位置づけている区もあります。これらがまた、緊急事態が収まった後に家を失った人たちを収容するための「避難所」ともなるわけですから、混乱しないほうが不思議です。

地震火災時の安全な避難先は「広域避難場所」

私は東京都内の密集市街地内のある町内会で、地震火災が発生した時の広域避難に関するアンケート調査を行ったことがあります。その結果から垣間見えたのは、火災の危険が迫らないと住民はなかなか避難を始めようとしないこと、また、仮に避難を始めても最初に向かうのはやはり最寄りの小中学校と考えている、ということでした。例えば、 避難開始を決断するタイミングについては「火災が自分の家のすぐ近くまで迫るとき」(32%)や、「自治体や消防からの避難指示があるとき」(39%)が多く、危険が迫るまで避難しない、あるいは誰かの指示を待つという傾向のあることがわかりました(図2)。
また、火災発生時における避難先として、7割(68%)もの人が「最寄りの小中学校などの避難場所」と回答しています。最寄りの小中学校にいても、近隣の延焼火災が迫ったときには、火炎からの輻射熱や飛び火などによって大変危険な環境となるおそれがあり、広域避難場所に向かおうとしてもたどり着けない可能性もあります。大規模地震時に同時多発火災が発生したときには、避難先は「広域避難場所」であること、そして危険が迫る前に「自発的な事前避難」を心がけることを、もっと周知徹底する必要があると思います。

地震火災時の広域避難にも“津波てんでんこ”と同じ発想が必要

東京都や区は住民に対して、地震火災が発生したときにはいったん「一時集合場所」に集まり、次に「広域避難場所」へと、避難を段階的に行うように指導しています(図3)。しかしながら、津波避難では“津波てんでんこ”として語り伝えられているように、各自の判断で「即時に高台へ避難」することが大切です。これと同じように、同時多発火災が発生した際にも、各自、各世帯の判断で「直接、広域避難場所へ」の選択があってもよいと思います。
いったん「一時集合場所」に集まって、近辺に危険が迫ったら整然と集団で「広域避難場所」へ避難するという計画は、果たして現実的なのか疑問です。同時多発火災のときには、消防機関も火災の消火対応だけでも精一杯であり、個々の「一時集合場所」に対して、その周辺における火災の延焼状況を判断して、いつ、どの「広域避難場所」へ向かえばよいかを個別に指示する余裕がない場合もあり得ます。住民の自主的な判断により、高齢者や乳幼児、足の遅い人などを中心に、危険が迫る前に優先的に「広域避難場所」に向かうことを心がけるべきです。
「広域避難場所」は、地域ごとに割り当てられていますが、当然ながら燃えている方向にそれがある場合は、その方向に逃げる必要はありません。ですから、居住地域近くに存在する「複数の広域避難場所」を日常から確認しておき、どちらの方向から火災が来ても逃げられるようにしておく必要があります。

空振り覚悟の早めの避難が命を救う

強調しておきたいことは「空振り覚悟の早めの避難が命を救う」ということです。自分たちの住んでいる地域の周辺で火災が起きて、それらが延焼し始めたということがテレビやラジオなどの報道で分かった時点で、自宅に火が迫るずっと以前に避難を開始することが大切です。特に、歩くのが困難な人、お年寄りや妊婦さん、小さな子どもたちは、早く逃げたほうがよいでしょう。しかも、最寄りの小中学校などの一時集合場所ではなく、安全な広域避難場所に、結果として「取り越し苦労」になってもよいから早め早めの避難をして欲しいと思います。
もちろん一方では、地域で防災活動のできる元気な人は地域に残って延焼防止活動をしたり、生き埋めになっている人の救助をしたりしながらある程度まで頑張る必要があります。しかし、自力避難が困難な人は、空振り覚悟で早めに広域避難場所に逃げるべきです。地震火災からの避難は、津波避難とは違って、全員一斉に逃げる必要はなく、健常な人は後から避難するという二段構えで対応する必要があります。

(2016年2月29日 更新)