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火山噴火

第5回  桜島の今~2015年8月15日のマグマ貫入とその後

執筆者

石原 和弘
京都大学名誉教授 火山噴火予知連絡会副会長
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はじめての噴火警戒レベル4(避難準備)

鹿児島県の桜島では、2015年初めに始まった地盤の膨張に対応して、昭和火口の噴火活動が激化し、5月末までの5か月間に噴火が1024回発生、降灰量は720万トンに達しました。ところが、6月から活動が低下し、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量も減少しました。
一見穏やかな桜島に人々が多少の不安を感じ始めた矢先、8月15日午前7時頃から南岳地下を震源とする火山性地震が多発し、傾斜計と伸縮計では山体の膨張を示す急激な地殻変動が観測されました。気象庁(福岡管区気象台・鹿児島地方気象台)は、大きな噴火が発生する可能性が非常に高くなっていると判断、午前10時15分に噴火警戒レベルを3(入山規制)から4(避難準備)に引き上げることを発表し、南岳の南3km以内にある鹿児島市有村町と古里町に対し、大きな噴石および火砕流に対する警戒を呼びかけました。有村町と古里町には1980年代に幾度か大きな噴石が落下したことがあります。
噴火警戒レベル4の発表を受けて、鹿児島市は、この2町と昭和火口の東約4kmにある黒神町塩屋ヶ元地区に対して午前11時50分避難準備情報、午後4時50分避難勧告を発令し、住民77人が避難しました。
地震活動は噴火警報発表直後の午前11時~午後1時にピーク(1時間に186~187回)に達し、その日の夕方にはほぼ収まりました。震源は、南岳直下の海面下0~4km、マグマだまりの上にある火道の周辺です(図1)。15日中に発生した地震は約1000回、そのうち震度1以上の地震は4回(最大マグニチュード2.2)でした。黒神町で約50回の有感地震を記録した1968年5月29日未明の群発地震に比べると小規模な活動でした。

8月15日のマグマ貫入とその後の警戒レベルの3への引き下げ

8月15日に起きた地殻変動の全容は、GNSS(GPS)や人工衛星のSAR(合成開口レーダー)などで明らかになりました。図2に示したように、桜島南岳を中心に、桜島を北西方向と南西方向にそれぞれ5~10cm押し広げるような変動が半日足らずのうちに起きました。モデル計算により、昭和火口付近の地下で北東から南西方向に伸びる、長さ約1km程度の割れ目に約200万立方mのマグマが貫入(地層や岩石を貫いて入り込むこと)したと推定されました。マグマが貫入した割れ目(岩脈)の深さは海面下約0.5~1kmと推定されます。
桜島の噴火活動の源である姶良(あいら)カルデラのマグマだまりに地下深くから供給されるマグマは1年間に約1,000万立方mですから(第2回参照)、今回貫入したマグマはその約2か月分に相当します。8月15日、桜島のマグマだまりに蓄積された余分のマグマが火道を広げながら上昇したものの途中で割れ目に入り込み、パワー不足で地表まで到達することはできなかったと考えられます。
8月21日午後に鹿児島市で開催された臨時の火山噴火予知連絡会幹事会は、「貫入したマグマが火口近くまで上昇していることを示す兆候は見られない」ことから、「大きな噴火が発生する可能性は低下した」との見解を発表しました。これを受け、翌8月22日に避難勧告は解除され、約1週間の避難生活は終わりました。その10日後の9月1日に、気象庁は噴火警戒レベルを4から3に引き下げました。

その後の静穏な火山活動と警戒レベル2への引き下げ

9月上旬に一時的に噴火活動に高まりが認められたものの、9月17日以降爆発的噴火は発生せず、9月29日以降は小規模な噴火も観測されないままに2016年の新年を迎えることになりました。
火山性地震および火山性微動は少ない状態が続いていることに加えて、桜島の地盤の膨張も観測されず、火山ガス(二酸化硫黄)の放出量も10月以降1日あたり100トン以下と少なくなったことから、気象庁は、11月25日に、噴火警戒レベルを3(入山規制)から2(火口周辺規制)に引き下げました。レベル2に下がるのは5年ぶりのことです。

火山活動のこれから

桜島の噴火がやんで4か月余り、2016年2月5日午後6時56分に昭和火口から赤い噴石が多数飛び散る噴火の有様をニュースで見た多くの国民は驚きました。桜島周辺の人々にとってはごく普通の噴火ですが、噴火速報が発表され、噴火警戒レベルを2から3に引き上げたため大きく報道されました。この噴火により地下に蓄積された噴火エネルギーの解放が始まり、一時的であれ、当面の大噴火の危険性は解消したといえるかもしれません。とはいえ、1990年代半ば以降噴火活動の盛衰に関わりなく、姶良カルデラの地盤は膨張を続けていて、カルデラ地下では着実にマグマの蓄積が進行しています。
他方、姶良カルデラの地震活動を見ると、桜島だけではなく、カルデラ北東部の海底火山「若尊」の周辺などでも震源の浅い地震が起きています(図4)。姶良カルデラ地下に蓄積した大量のマグマが出口を探している状況と考えられます。
桜島において、地盤の膨張が再開・加速した場合には、昨年8月15日のようなマグマ貫入だけでは終わらず、大規模な活動へ発展する可能性があります。また、姶良カルデラ内での海底噴火の可能性も皆無とは言えません。今後は、桜島とともに、姶良カルデラも視野に入れた火山活動の監視が大切です。

(2016年2月29日 更新)