トップページ > コラム > 地震・津波台風・大雨落雷・突風大雪猛暑火山・降灰火災PM2.5・黄砂防災の知恵海上竜巻の脅威(謎に包まれた海上竜巻の実態)

落雷・突風

第14回  海上竜巻の脅威(謎に包まれた海上竜巻の実態)

執筆者

小林 文明
防衛大学校地球海洋学科教授 理学博士
プロフィール・記事一覧

意外と知られていない海上で発生する竜巻

2015年9月1日に対馬沖でいか釣り漁船が5隻転覆して4名が死亡する事故が発生しました。この事故原因は明らかにされていませんが、生存した船長の証言では「突然、経験のない突風が吹いた」「船が回転してあっという間に転覆した」など、普通でない状況下であったことが想像されます。6月にも中国の長江で嵐の中、旅客船が転覆する事故が発生しました。今回は、“海上で発生する竜巻”を検証します。

海上で発生した竜巻が上陸して被害をもたらす事例は、わが国の竜巻の代表的なパターンのひとつといえます。例えば、2006年9月17日に宮崎県延岡市で起きた突風被害は、台風のレインバンド(帯状に伸びる降水帯)内で発生した竜巻が上陸した事例です。1991年12月11日に石川県金沢市で発生した突風被害は、日本海上で発生した小さな低気圧(台風のような渦状のエコー)の中心付近で発生した竜巻が上陸した事例です。このほか、海上で発生して上陸したものの、すぐに消滅して被害がなかった例や、海上で発生して海上で消滅する例も数多く見られます。
海上で発生する竜巻の報告数は2007年以降急増しました。これは、社会的関心の高まりやカメラ付携帯電話の普及などの要因が大きいと考えられます。2007年から2013年までに報告された488件の竜巻のうち、海上で発生した竜巻は66%にも達しました。これまでの記録(1961年以降)では、すべての竜巻のうち、26%が海上竜巻でした(「落雷・突風Q&A」“つくば市竜巻”の図2参照)から、最近いかに多くの海上竜巻が観測されているかが分かります。

日本沿岸における竜巻の発生頻度

2007年から2013年までの月別竜巻数(上記の図1)を見ると、2月と4月を除けば海上竜巻(図中塗りつぶし部分)が半分以上を占め、特に1月に発生した竜巻のほとんどが海上竜巻であったことが分かります。また、海上竜巻のピークは10月に現れています。海上竜巻が発生する原因は、温帯低気圧(寒冷前線含む)が41%、冬季季節風下(西高東低の気圧配置)が34%を占めており、寒気の南下に伴い発生する竜巻が多い結果となりました。台風(熱帯低気圧)に伴う海上竜巻の報告はほとんどなく、これは台風接近時に目視で竜巻を観察や確認することが難しいためと考えられます。海上で台風に伴う竜巻が発生しないことを意味しているわけでは、決してありません。
海上竜巻の発生時刻を見ると、午前7時から午後6時までの日中に大部分が発生し、午後11時から翌日の午前5時まではゼロという結果でした。海上竜巻の有無は目視観測に頼らざるを得ないため、夜間における報告数はほとんどないのが実情です。地域別の発生頻度を比較すると、北海道、本州の日本海側、沖縄では、報告数における海上竜巻の割合が7割以上を占めました(図2)。本州の太平洋側では海上竜巻の割合が5割以下でしたが、これは関東平野や濃尾平野など内陸部で竜巻が発生しやすいことを意味しています。

ほとんどデータがない沖合

私たちは海岸線に立って沖合のどのくらいまで竜巻を確認することができるでしょうか。気象状況や海岸線の標高などによって異なりますが、一般に雲底から海面にまで達する漏斗雲(竜巻渦)をしっかりと確認できるのは10km程度といえるでしょう。10kmを超えると、地球の湾曲により海面付近が見えなくなるからです。これまで報告された海上竜巻のうち、発生場所が分かっている事例をグラフに表してみると、多くの竜巻が海岸線から5km以内、ほとんどが15km以内で発生したことが分かります(図3)。“海上”竜巻といっても、実は海岸線のごく近傍(きんぼう)で発生したものしか見ていないことが分かります。実際には、船舶関係者の目撃証言によると、海岸線から数100km離れた大海原で竜巻が観測された例があります。

ドップラーレーダーやフェーズドアレイレーダーなど高性能レーダー(「落雷突風」第8回コラム「竜巻予測の最前線」参照)が展開されるようになり、海上で発生した竜巻を、上陸する前に探知することは可能になりつつあります。しかし、私たちの目やレーダーの目が届かない大洋上における竜巻発生の実態や船舶の安全対策は残された課題のひとつといえます。

(2016年1月31日 更新)