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火災予防

第2回  地震火災はなぜ恐ろしいのか、なぜ備える必要があるのか

執筆者

関澤 愛
東京理科大学大学院 国際火災科学研究科 教授
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阪神・淡路大震災では大規模延焼火災が多数発生した

1995年1月17日の早朝に起きた阪神・淡路大震災では、震度7の激しい地震に襲われた地域を中心として、多くの家屋が倒壊して死傷者が多数発生しました。さらに、家屋の倒壊の後、火災が追い打ちをかけました。地震の建物被害の大きかった地域では多くの火災が同時に発生するという事態が起き、初期に消せなかった火災がいくつも大規模な火災に発展して、最終的には約7,000棟の家屋が焼失しました(図1)。阪神・淡路大震災による直接の死者数5,515人の約1割が火災による死者数といわれています。
阪神・淡路大震災が私たちに示した最大の教訓の一つは、平常時の都市大火がほとんどなくなり平素忘れがちであっても、防火上ぜい弱な木造密集市街地がある限り、消防力を上回る同時多発火災が発生すれば大規模な延焼火災が起きるという冷厳な事実です。

同時多発火災と消防力の限界

平常時には、同じ地域で同時に火災が多発することは連続放火以外には極めてまれです。通常は一つの火災に対して多数の消防車が駆けつけて、圧倒的に優勢な消防力により火災の初期段階で消火してしまいます。しかし、大規模地震時には、その地域にある消防車の台数を上回る火災件数が発生する場合があります。そうすると、全ての火災に対応できないために、一部の火災はそのまま延焼し続ける可能性があります。このような事態が、阪神・淡路大震災時の神戸市などで実際に発生しました。
表1は、神戸市、西宮市、芦屋市において、地震当日の17日午前7時までに発生した建物火災の状況と、これらに対する初動時の消防活動の条件をまとめたものです。神戸市では7時までに、地震直後に出動可能であった40台の消防ポンプ車数を上回る63件の火災が発生していました。さらに、出火件数が少なかった神戸市3区(垂水、北、西)を除いて考えると、この3区以外の神戸市の出火件数62件に対して、出動可能なポンプ車数は、火災件数をはるかに下回る28台しかなかったことになります。つまり、1件の火災に対して消防車1台が出動するという計算でも、34件の火災には対応できなかったのです。

自主防災はなぜ必要か

地震時に発生するおそれのある市街地延焼火災の危険を減らすためには、道路の拡幅や建物の不燃化、木造密集市街地の再整備という根本的対策を進めることが必要です。しかしながら、このような対策の実施には、予算面でも住民合意形成の面でも辛抱強い努力と時間が必要です。また、消防活動への期待についても、火災件数がその地域の消防の能力を上回る場合には限界もあることは先にも述べたとおりです。
したがって、一方では、明日にも来るかもしれない大規模地震に備えて、現実的に可能な対策を検討することが必要です。ではどうすれば市街地延焼火災の危険を減らすことができるのでしょうか。延焼を防ぐために、最も効果的な火災初期において期待できるのは、地域の町内会や事業所などの自主防災力です。たとえば、さまざまな耐震装置付き機器、マイコンメーターや感震ブレーカーなどの設置による出火防止の努力や、消火器の備え、住宅の耐震化、家具転倒防止などは各家庭でも行える効果的な防災対策です。また地域では、消防団、自主防災組織等の整備、地震時にも使える消防水利の確保と可搬式消防ポンプやスタンドパイプ(図2)の配備などが地域防災力の向上にとって極めて重要です。

地域の自主防災力への期待と課題

さて、自主防災組織に対してこのような期待を持つとしても、それは果たしてどの程度まで地域の消防力として見込めるのでしょうか。大規模震災時に不足しがちな「公助」を補うために、「自助」「共助」の重要性が強調されるようになりましたが、地震火災の初期消火という面で、地域住民に期待される役割やその果たしうる限界については必ずしも明確となっていないのが実情です。
そこで、東京消防庁では、自主防災組織の人たちが使える(地域にある)消火用具で、どの程度の火災までなら消火可能かを、実物大の模型家屋による火災実験で確かめました。図3は、その結果から消火用具種類別によって、どれだけ消火が可能か、その限界を示したものです。消火器によって消せる火災は大型消火器であっても1階の1室火災までであり、かつフラッシュオーバー(※1)到達前の火災であることが分かります。これ以上の規模の火災、あるいは2階以上で発生した火災に対して有効なのはスタンドパイプやD級可搬式消防ポンプ(※2)です。
自主防災組織に対して、実際に公設消防力の不足を補完する役割を期待するのであれば、自主防災組織を単に結成するだけでは不十分です。やはり可搬式消防ポンプ等の機動力ある消火用具の配備とそのメンテナンス、さらにはこれらの用具の習熟と訓練といった、具体的な公的支援と地域住民の自主的努力がともに必要なのです。

※1 室内の一部の火災が部屋全体に短時間で拡大する現象
※2 人力で搬送できるサイズの消防用ポンプ(可搬消防ポンプ)の中で、いちばん軽量なポンプ。C級に比べて放水量・放水圧力が低い

(2015年10月31日 更新)