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日本の火山活動

第12回  御嶽山噴火を受けて強化される火山監視体制

執筆者

藤井 敏嗣
東大名誉教授 火山噴火予知連絡会会長
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水蒸気噴火の前兆シグナルは微弱

戦後最悪の火山災害となった御嶽山の噴火は、水蒸気噴火と呼ばれるものです。水蒸気噴火は一般に前兆となるシグナルの強さが小さく、火口から離れると捉えにくいという傾向があります。
2014年8月3日の口永良部島の水蒸気噴火でも、噴火前の前兆を捉えたのは、火口から約200mの位置に大学の研究者が設置していた傾斜計だけでした。火口から離れた山麓にある気象庁の傾斜計や地震計には、前兆らしいシグナルは一切捉えられていません。噴火の1時間前に、前兆となる火口付近の膨らみを捉えたこの傾斜計は噴火の際に破壊され、噴火後のシグナルは途絶えたままです(図1)。

口永良部島では、翌年の2015年5月29日にはマグマ水蒸気噴火とみられる噴火が発生し、全島避難という事態になりました(石原和弘氏 第4回コラム「2015年口永良部島噴火~初めて適用された噴火警戒レベル5」参照)。5月23日に山頂直下で発生した有感地震(震度3、マグニチュード2.3)も前兆の一つであったと考えられますが、この地震の後には噴火が始まるまで、山麓部の気象庁の観測点では前兆とみなせるような地震活動の増加や傾斜変動は観測されませんでした。ところが、大学の研究グループが無人ヘリコプターを使って山頂の火口近くに設置していた地震計によると、およそ3日前から地震が急増していたことが分かりました。火口周辺の限られた範囲だけで観測できるような微小な地震活動が、噴火に先立って発生していたのです。
口永良部島の山頂部に置かれていた傾斜計や地震計は、大学による研究のための観測装置で、これらのデータは24時間監視の対象となっていなかったため、火山防災に生かすことはできませんでした。しかし、火口近くに観測装置を置けば、水蒸気噴火のような前兆現象のシグナルが小さい場合でもとらえる可能性が高くなることが分かりました。

前兆シグナルを捉えるための観測体制強化

御嶽山の水蒸気噴火の明らかな前兆は、山頂から3km離れた田の原観測点で把握された、噴火の11分前から発生し始めた火山性微動と7分前からの急激な山頂方向への傾斜変化でした(図2)。口永良部島の噴火で明らかになったように、もし山頂近くに傾斜計などの観測点があれば、もっと早い時点で水蒸気噴火に先立つ何らかの変化を捉えることができたかもしれません。

このため、気象庁は水蒸気噴火が予想されるような火山の山頂部近くに地震計や傾斜計、火口監視カメラのほかに、複数の火山ガスを測定する観測装置などを設置することに決め、現在各地で整備を進めています (図3)。火山ガスは、噴火前の山頂の膨らみや地震の発生より前に変化が生じる可能性があることから、設置が計画されました。これによって噴火の発生をより早い時点で検知できるかもしれません。

それなら、なぜもっと早くから山頂火口の周辺に観測装置を設置しなかったのだと言われるかもしれません。もっともな意見ですが、山頂部に観測機器を設置して24時間監視を続けるのはそれほど簡単ではないのです。山頂近くには商用電源はほとんどありませんから、太陽電池などを使うしかありません。またデータをリアルタイムで伝送するための通信装置も必要です。
このような機器を設置しても夏は落雷で壊されることも多く、頻繁に修理が必要となるケースが多いのです。また、御嶽山、富士山のように高い山や東北以北の火山のように、冬季に雪と氷で覆われてしまうような場合には、太陽電池も使えず、観測データを得られないことも多くなります。気象庁の「監視を目的とする山頂部での観測」が行われなかった理由の一つは、このように保守が大変で、24時間監視を続けることが困難であるということもあります。いざ噴火が起これば山頂近くの観測機器はほぼ確実に破壊されてしまいますから、財務当局から予算の無駄遣いではという批判も受けそうです。
しかし、御嶽山の惨事を経験した今となっては、何とか微小な前兆でも捉えて、少しでも早く登山者や観光客に情報を伝え、安全を確保するようにという世論が高まっています。そこで、このような監視観測体制の強化が図られることになったのです。
ところで、観測体制の強化が図られることは大変重要なのですが、もっと大切なのは、そのような観測データを見て、何が起ころうとしているのか、噴火に至る可能性があるのかどうかを短時間に判断し、評価ができる人材が必要だということです。気象庁は、すぐにでも火山専門家を採用し、公務員試験で採用した通常の職員に対しても火山観測の研修を充実させるなどして、このような評価・判断ができる人材を早急に増やすことが重要です。

常時観測火山を増やす

現在気象庁は全国110の活火山のうち47火山を24時間体制で監視しています。この47火山を選んだのは、気象庁が観測を開始して以来およそ100年間に噴火したことがあるか、噴火はしていないが火山の直下で地震活動などが活発化したことがあるという理由からです。中には300年以上噴火をしていないけれど、もし噴火すると大変な社会的影響を及ぼすという意味で47の中に選ばれた富士山もありますが、これは例外です。
47火山が選ばれた後で地震活動が活発化するか、噴気活動が非常に活発化した火山もあります。十和田、八甲田山、弥陀ヶ原がその例です。そのため、気象庁はこれらの火山に観測装置を設置して、24時間体制で監視することにしました。これにより、常時監視火山が50火山になりました(図4)。しかし、観測装置を設置するためには場所を選んだり、電源を確保するなどの作業が必要ですから、観測点が設置され次第、監視の対象となる予定です。おそらく、この秋には監視が始まると思われます。

(2015年10月31日 更新)