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堤防と防災

第2回  堤防の津波軽減効果~釜石湾口防波堤の津波軽減効果から学ぶ

執筆者

有川 太郎
中央大学教授・国立研究開発法人 港湾空港技術研究所 客員研究官
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防護施設による締切効果と津波の軽減効果

防波堤や堤防など(防護施設)の背後(陸地側)に押し寄せる津波の高さは、その津波の高さと長さ、背後地の広さ、防護施設の開口率によってほぼ決まります(図1)。開口率とは、押し寄せてくる津波の高さと幅に対して、防護施設によって遮られていない部分を意味します(図2)。

開口率が低い(隙間が狭い)ほど、津波の軽減効果は高くなります。その理由は、津波の波の長さに関係します。波は、通常、山と谷があるような形をしています(図3)。津波の場合、この山の高さは数メートルから数十メートルぐらいですが、波の長さは、沿岸では、数十キロメートル程度と、とても長く、平らな山であることが分かります。防護施設があれば開口率が低くなり、背後地に入る水の量を制限することができます。押し寄せてくる水量には限界があるので、津波が引くまで防護施設が倒壊しなければ、背後地の(背後地に入ってくる)津波の高さを抑えることができるわけです(締切効果)。
逆に開口率が高く(隙間が広い)、津波の長さが長いほど、背後地に入る水の量は多くなります(津波の高さが堤防の倍以上ある場合も同様です)。一方、開口率が非常に小さい場合でも、津波の長さが長ければ押し寄せる水量が多くなるため締切効果は小さくなり、防護施設の効果はなくなります。ただし、背後地まで津波が押し寄せたとしても、浸水開始時刻を遅らせる効果は残ります。そのことについては、最後の節で触れたいと思います。

東日本大震災における釜石湾口防波堤の津波軽減効果

ここで釜石湾における湾口防波堤の効果について、数値シミュレーションで比較してみます。およそ2キロメートルある釜石湾の湾口部に対して、湾口防波堤は北側約1キロメートル、南側約0.7キロメートルに渡って設置されていました。つまり開口部の幅は300メートルとなります。このため釜石湾の湾口部は開口率が6%程度でした(この場合の開口率を計算する際の高さは、「津波の高さ=防波堤の高さ」としています)。
図4は、防波堤がまったく無い場合(左上図)と防波堤が倒壊しなかった場合(右上図)の浸水の深さを比較したもので、浸水した範囲にそれほど差は無いものの、浸水の深さが大きく異なることが分かります。

前回、釜石湾口防波堤が半分程度流されたということをお話ししましたが、実際、防波堤はどの程度、津波を軽減させることができたのでしょうか。仮に今回の津波で倒壊してしまった防波堤の一部が、最初からなかったものとして計算したのが図4下です。この場合の開口率は約36%ですが、防波堤がまったくない場合とほとんど結果は変わりません。ところが、実際の背後地の津波の高さは、防波堤が全くない場合と比べると40%程度に抑えられていたことが国交省より発表されています。この差をどう考えるべきでしょうか?
図5は、開口率を変えて、背後地の津波の高さがどれくらい軽減されたか(軽減率)を計算したグラフです。開口率が大きくなるにつれて、軽減率も小さくなることが分かります。開口率が100%(防波堤や堤防がまったくなかった場合)で、軽減率はゼロとなります(ちなみに開口率0%でも軽減率が1にならないのは、津波が防波堤の高さを超えてしまっているからです)。図の中に青い点があります。この点は、東日本大震災における実際の軽減率です。この軽減率は、シミュレーションによる開口率15%程度の軽減率と一致しています(図の青矢印部分)。このことは、防波堤・堤防が倒壊して、最終的に開口率が36%程度になったものの、倒壊しながら半分程度はぎりぎりまで流されなかったことで、開口率15%程度の場合と同等の軽減効果があったことを意味しています。最終的には倒壊してしまうかもしれない防波堤であっても、粘り強く倒れにくい構造にしておくことが重要だと分かります。

浸水開始時刻を遅らせる効果と逃げ遅れへの影響

防潮堤には、背後地の津波を軽減させる効果のほかに、津波が堤防を越えるまでの時間を稼ぐ効果があります。津波は非常に平べったい山型をしており、多くのところでは波の高さは緩やかに上昇します(ただし、沿岸部で切り立ち、壁のように迫ってくることもあります)。東日本大震災では1分あたり1メートルの上昇率に満たないところも多くありました。一方で、水平方向には、計算式を用いて計算すると、たとえば1メートルの水深であれば1秒あたり3メートル程度、つまり、1分あたり180メートル程度陸側に広がることになります。したがって数分で500メートルから1キロメートルの範囲に広がるわけです。堤防は、その高さにより、波が広がる時間を数分程度は抑えているのです(図6)。

ただし、堤防が安心感を助長し、逃げ遅れにつながったという指摘もあります。このことは、東日本大震災における大きな教訓として、心に刻んでおくべきでしょう。南海トラフ地震では、より早く津波が押し寄せる可能性が指摘されています。したがって、堤防における効果を最大限に活かす一方で、いち早く避難することが求められます。

(2015年9月30日 更新)