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地震全般・各地の地震活動

第13回  最新の首都直下地震の被害想定をめぐって

執筆者

平田 直
東京大学地震研究所教授、地震研究所地震予知研究センター長
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首都圏で繰り返される震災

首都圏の位置する南関東では、これまで繰り返し大きな地震が発生しています(図1)。中でも1923年の関東地震(関東大震災・マグニチュード(M)7.9)では、我が国の震災史上最悪の約10万5,000人が犠牲になり、全壊・全焼・流出家屋が29万3,387棟に上りました。江戸時代には1855年の安政江戸地震(M6.9)で7,000人以上、1703年の元禄地震(M8.1)で1万人以上が犠牲になりました。

国の地震調査研究本部・地震調査委員会が2014年4月に発表した長期評価では、「フィリピン海プレートの沈み込みに伴うM7クラスの地震」が今後30年以内に発生する確率は約70%であるとされています。首都圏の150kmx150kmの範囲のどこかで発生する首都直下型地震です(図2)。
現在の科学的な知見を総合しても、こうした地震が次にどこで発生するかを明確に予測することはできません。震災による被害を減少させるには、被害をもたらす地震を想定して備える必要があります。内閣府の中央防災会議は、2013年12月に首都圏で発生する可能性のある19の地震を仮定して、首都直下地震の新しい被害想定を公表しました。

内閣府中央防災会議の被害想定

中央防災会議の想定の中で、首都圏に最も大きな被害をもたらすとされたのは「都心南部直下地震」(M7.3)です。この地震が発生すると、1都3県の3割で震度6弱以上、一部地盤の弱いところで震度7の揺れが生じ、木造住宅を中心に多くの建物が損壊します。
では具体的な被害想定について、内閣府の報告(文末の文献(2)を参照)に沿って見てみましょう。強い揺れにより木造住宅を中心に多くの建物が損壊し、火災が同時に多数箇所で発生、延焼が2日程度継続します。震度6弱以上の揺れが生じた広い範囲で断水が生じ、上下水道が使用できなくなります。回復するには1か月くらいかかります。停電は、発災当初、約5割程度の範囲で生じます。火力発電所の停止により電力供給量が不安定な状態は1週間以上継続します。東京都区部の一般道は極度の交通まひが数日間継続し、厳しい渋滞は数週間継続します。地下鉄は1週間、JR在来線と私鉄は1か月程継続運行が停止する可能性があります。携帯電話・固定電話とも通話はほとんどできず、メールも遅配します。これらによる直接間接の経済損失は95兆円を超えると見積もられています。

被害を軽減するには

大地震や津波の発生を止めることはできません。しかし震災を防ぐことはできます。その基本は、災害に強い社会を作ることです。このためには、建物の耐震性を向上させ、地域の防災力を高めて災害からの回復力を高める必要があります。国や地方自治体が地震被害想定を行うのは、災害への対策を具体的に講じるためです。具体的には、都市人口の抑制や分散化によって適正化を図り、建物や道路・橋などの耐震化を行います。このような公の判断による災害対策を「公助」といいます。一方、国民一人一人が自分の判断とお金で対策を行って助かることが「自助」、地域や職場、家族でお互いが助け合うのが「共助」です。
首都圏で大震災が発生すると、発災から数日間は公助が期待できません。阪神・淡路大震災でも倒壊した住宅から生還した人の8割は自分で這い出したか、近所の人に助けられました。自助と共助によって助かったのです。

・耐震化が急がれる木造住宅密集地帯
震災対策の基本は、揺れに耐える住宅を作ることです。現状の耐震化率は全国で8割、東京都で8割7分のため、内閣府による2013年の最悪の被害想定では、建物倒壊による犠牲者数は11,000人となっています。耐震化率を全国で9割、東京都で9割4分にすれば犠牲者は半減し、すべての建物を耐震化すれば、犠牲者を1,500人にまで減らすことができる可能性があります(図3)。

・電気器具による出火の防止と初期消火
首都直下地震での死亡原因の1位は焼死です。現在、出火の主な原因は漏電など電気器具関係と言われています。中央防災会議の報告でも、火災による犠牲者16,000人という想定数は、感震ブレーカーや漏電ブレーカーの設置などで漏電などを防ぐことにより、9,000人に減らすことができるとされています。さらに初期消火に成功すれば、犠牲者数は800人にまで減らせるのです(図4)。

・一斉防災訓練(シェイクアウト)
ハード的な対策に加え、私たち自身が強い揺れを感じたときに何をすべきかを考え、訓練しておくことも大事です。地震の揺れが強いのは数十秒間、長くて数分間です。東日本大震災の時も都心で強い揺れを感じたのは、3分間程度でした。つまり、この最初の3分間に、自分の身の安全を確保することが重要なのです。揺れを感じたら、まず姿勢を低くして、落下物や飛散物から頭を守り、動かないでいる必要があります。この基本動作は小学校では防災訓練を通じて学んでいますが、大人にも訓練が必要です。アメリカで始められた一斉防災訓練(シェイクアウト www.shakeout.jp)は、このための重要な取り組みで、日本でも2013年から始められ、毎年約400万人の人が参加しています。こうした取り組みをもっと普及させる必要があります。

文献
(1)地震調査研究推進本部・地震調査委員会、平成26年4月、相模トラフ沿いの地震活動の長期評価(第二版)について
http://www.jishin.go.jp/main/chousa/14apr_sagami/
※NHKサイトを離れます

(2)中央防災会議 首都直下地震対策検討ワーキンググループ、平成25年12月、首都直下地震の被害想定と対策について (最終報告)
http://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/taisaku_wg/
※NHKサイトを離れます

(2015年9月30日 更新)