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都市の水害

第1回  東京は集中豪雨に対して安全か?〜頻発する都市浸水〜

執筆者

関根 正人
早稲田大学 理工学術院 教授・工学博士
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変わりゆく気候と豪雨の発生

2015年の夏は例年になく厳しく、東京でも35℃を超える日が続きました。また、局地的に非常に強い豪雨が頻発するようになり、これまで経験したことのない記録的豪雨も発生しています。IPCC(気象変動に関する政府間パネル)の報告書によれば、地球規模で気候の極端化が進んでいるとされています。異常高温ならびに豪雨はその表れと言えるでしょう。気象庁は1976~2014年までの観測降雨データを整理し、近年、非常に強い豪雨が発生する頻度が高まってきていると報告しています(図 1)。今後の豪雨には十分注意しなければなりません。

ここで雨の強さについて触れておきましょう。1時間に降った雨の体積を地表の面積で割った値のことを「時間雨量」あるいは「時間降雨強度」と呼びます。東京などの大都市では、時間雨量50mm(すなわち50mm/h)を設計値(設計降雨強度)として下水道や都市河川を整備してきました。天気予報から雨の情報を得るときには50mm/hを「豪雨」のひとつの目安にするとよいでしょう。なお、気象庁はこれよりも強い雨のことを「非常に強い雨」と定義しています。

大都市を豪雨から守る仕組み

大都市は下水道と都市河川により豪雨から守られています。図 2は都市に降った雨水の流れに関する模式図です。地表面には網の目状に道路が延びており、そのほとんどが舗装されています。また、皇居や明治神宮、日比谷公園などの都立公園を除くと、道路で囲まれた街区には空き地はなく、高層ビル、または住宅が密集しています。地上に降った雨水は、道路の下に高密度に整備された下水道のネットワーク内に取り込まれ、やがては神田川などの都市河川に流出します。河川の水位が上昇すると、下水道からの雨水で河川が氾濫するおそれがあるため、たとえば都心部を流れる神田川の流域には都道環状七号線の下に地下河川が造られ、河川沿いに複数の調節池も整備されています。これにより、河川水の一部を貯留して洪水のリスクを下げるような仕組みができています。ところが、もし設計降雨強度をはるかに超える豪雨が発生すれば、深刻な浸水は避けられません。

東京都心部で豪雨が発生すると何が起こるか?-数値予測からわかること-

2005年9月、東京都23区の西部に位置する妙正寺川流域では記録的な豪雨(杉並豪雨)に見舞われました。これは東京で発生した最大級の豪雨であり、河川沿いのエリアを中心に甚大な被害が出ました。当時観測された10分当たりの降雨量の時間変化を棒グラフにすると、図 3のようになります。ここから50mm/h(10分当たり8.3mm)を超える雨が約2時間半にわたって降り続いたことが分かります。

近年、このような豪雨により生じる浸水について明らかにする研究が進められ、ようやく精緻な数値予測が可能になってきました。雨水が流れる経路となるのは、人間が創りあげてきた「道路・下水道・都市河川」です。建物の密集度など土地利用状況についての詳細なデータもあります。地中への浸透が都市浸水時にはほとんど無視できる程度であることから、雨水の流れに関してわからないことはありません。都市浸水時には地中への雨水の浸透はほとんど影響せず、降雨を除けば不確定な要因はありません。そのため都市インフラに関する数値情報をすべて入力し、それぞれが与える影響を忠実に反映させた計算を行えば、都市河川の洪水と都市浸水のプロセスについてかなり正確に予測することができます。ここでは、前述の杉並豪雨と同じ強さの雨が東京都23区に降ると想定し、最新の手法で予測計算した結果の一例をご紹介します。

図 4はJR山手線の内側を中心とした東京都心部の浸水予測の結果です。図にはこのエリア内にあるすべての道路が描かれており、それぞれの線分の色によってどのくらい浸水するのかを表しました。例えば赤色に塗られている地点では0.8mを超える浸水になります。これにより、都心部のどの地点にどの程度の浸水リスクが潜んでいるかが分かります。また、すべての下水道内の水の流れも計算に含まれているため、いつどこでマンホールの蓋から水が噴き出すのかということについても推定できます。一般に、深刻な浸水被害が発生する具体的な地点は、(1)道路が鉄道の下をくぐるように延びているアンダーパスの地点と、(2)渋谷駅前や溜池あるいは日比谷の交差点に代表されるような谷状の凹部地形の地点に大別されます。これらの地点には、周辺に降った雨が流れ下って集まってくるため、特に深刻な浸水になるおそれがあります。前出の図 4のエリアには、地下鉄の駅につながるものだけで1000か所を超える連絡口があります。もし道路上の浸水が深刻になり、連絡口からの水の流入を防げなければ甚大な「地下浸水」が発生します。これを未然に防ぐ、あるいは被害を軽減するための対策が現在講じられつつあり、その際の基礎情報として図 4のような浸水リスク情報が有効に活用されているのです。

(2015年8月31日 更新)