トップページ > コラム > 地震・津波台風・大雨落雷・突風大雪猛暑火山・降灰火災PM2.5・黄砂防災の知恵2015年口永良部島噴火〜初めて適用された噴火警戒レベル5

火山噴火

第4回  2015年口永良部島噴火〜初めて適用された噴火警戒レベル5

執筆者

石原 和弘
京都大学名誉教授 火山噴火予知連絡会副会長
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初めての噴火警戒レベル5(避難)

屋久島の西方沖約13kmにある口永良部島の新岳(標高約600m)で、2015年5月29日午前9時59分に爆発的噴火が発生しました。このとき、噴煙は火口の縁から9000m以上まで立ち上り、大きな噴石が火口周辺に飛散しています。噴火開始直後には火砕流も発生し、北西斜面に噴出した火砕流は、谷にそって下り、火口から約2.2kmの向江浜海岸に1分ほどで達しました(図1)。時速約120kmで下ったことになります。幸い、前年8月の噴火後、この地区は火砕流の怖れがあるとして立ち入り禁止措置が取られていたので、犠牲者はありませんでした。

福岡管区気象台・鹿児島地方気象台は噴火直後の10時7分に、噴火警戒レベルを3(入山規制)から5(避難)に引き上げました。それを受け、屋久島町は10時15分に避難勧告を、5分後の10時20分には避難指示を発令しました。
住民や旅行者の多くは、事前の打合せ通り、新岳の北西約5kmの番屋ヶ峰に集合した後、町営フェリー、防災ヘリコプター、巡視船と手持ちの漁船で屋久島に向けて避難しました。
今回の口永良部島の噴火は、気象庁が2007年12月に噴火予報・警報を開始してからはじめて「噴火警戒レベル5」が適用されるケースとなりました。また、火山噴火で住民が避難する事態となったのは、2000年の有珠山と三宅島の噴火以来15年ぶりのことです(表1)。

15年間じらされた挙げ句の突然の噴火

南九州では、1990年代半ば桜島の活動が低下する一方で、他の火山の噴火が懸念されました。そこで、鹿児島県は、桜島、霧島山に続き、1996年度に、薩摩硫黄島、口永良部島、中之島、諏訪之瀬島の4火山の災害予測図、防災情報図と避難計画を作成しました。作成後まもなく、薩摩硫黄島が噴火、2000年暮れから諏訪之瀬島の活動が高まり、桜島は、2006年6月の58年ぶりの昭和火口の噴火を契機に活発化、2011年1月には霧島山新燃岳で約300年ぶりの本格的な噴火が発生しました。
他方、1931~34年と1966年に爆発的噴火が発生した口永良部島では、1999年頃から地震活動や噴気・地熱活動が顕著になり、地震活動の高まりと同時に山頂付近で地磁気変化や地盤の隆起伸張が観測され、切迫した状況が2~3年ごとに繰り返されていました(図2)。

2007年以降、噴火警戒レベル1(平常)から2(火口周辺規制)や3(入山規制)への引き上げが4回繰り返され、2012年1月にレベル1に戻されました。ところがその2年半後、2014年8月3日、前触れなしに突如噴火したのです。8月8日、火山噴火予知連絡会は、マグマの関与が認められることから、今後も噴火が発生し、火砕流を伴う可能性があるとの見解を示しました。

これまでの経緯を振り返って

では、2014年8月3日の噴火前に注意を呼び掛ける噴火警報を出すことはできなかったのでしょうか。地震活動の推移からは、2012年の秋以降、何度か警報を発表するタイミングはあったと考えられます。地震が多発しても噴火しない状況が繰り返され、警報発表に慎重になったのかもしれません。「噴火の数日前に地震多発などの異変が現れる」という思い込みは、火山監視者のみならず一般市民にとっても危険です。残念ながらこの教訓が生かされることなく、翌月の御嶽山噴火では多くの方々が遭難しました。
口永良部島では、2014年8月の噴火で山頂付近の観測点は消滅しますが、精力的な観測が続けられ、火山ガスや地殻変動の観測から、爆発力の強い噴火に移行する可能性が予想されていました。そのような状況の中で2015年5月23日に震度3を観測する地震が発生し、鹿児島県庁では関係機関の間で、現地では気象庁職員と口永良部島住民の間で、噴火が起きた時の対応を確認しました。これが6日後、5月29日の噴火の際の住民の冷静な行動につながったと言えます。
5月29日の火砕流は、幸い19年前に作成された災害予測図の範囲内にとどまり、被災した向江浜に隣接する前田の住民は無事でした(図3)。しかし、災害予測図の前提である噴火規模の想定などは、状況に応じて見直す必要があります。

これから

火山噴火予知連絡会は、6月15日に「今後も5月29日と同程度の噴火が発生する可能性がある」との見解を示しました。噴火から2か月、避難等の規制に関する権限と責任を有する屋久島町は、慎重な監視の下での一時帰島を実施してきました。その後、火山活動の更なる高まりも明白な低下傾向も認められません。現時点では、向江浜と前田を除く集落まで火砕流が到達する噴火は考えにくい状況です。一方、気象庁は、5月29日に発表した噴火警戒レベル5を維持し、「火砕流の到達が予想される屋久島町口永良部島居住地域では厳重な警戒(避難等の対応)」と呼び掛け、屋久島町から出される避難等の指示に従うことを求めています。
以前は、自治体が火山予知連絡会や地元の火山専門家の意見を参考に、規制範囲の設定や変更を行うのが普通でした。2007年の気象業務法改正により、警戒範囲の設定を含む噴火警報の権限は気象庁に限定され、今や火山防災のキーマンは火山専門家でなく気象庁です。噴火警報が一般市民にとって有意義なものとなるのか否か、その真価が口永良部島で試されていると言えるでしょう。

(2015年8月31日 更新)