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落雷・突風

第13回  竜巻が発生した時、何を見たか(竜巻の前兆現象)

執筆者

小林 文明
防衛大学校地球海洋学科教授 理学博士
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遠くからも見えるスーパーセル

実際に竜巻が発生した時、人々は、何を見て、どのような行動をとるのでしょうか。今回は、2012年5月6日に茨城県つくば市で発生した竜巻と、2013年9月2日に埼玉県越谷市で発生した竜巻を例に検証します。

つくば竜巻(F3 ※1)や越谷竜巻(F2 ※1)は、アメリカ中西部で観測されるようなスーパーセル(単一巨大積乱雲)によってもたらされました。孤立した巨大な積乱雲が発達して、雲のいちばん高い所である雲頂高度は15 km を超えたため、この積乱雲の発達の様子やかなとこ雲(雲頂部分が水平方向に発達した雲)の広がりは、東京都、神奈川県、千葉県など広い範囲で確認されました。越谷竜巻をもたらした積乱雲は、13時20分頃から急速に発達を始め、13時30分には雲頂は高度10 km を超え、13時50分にはかなとこ雲が広がり始めました(図1)。この様子は、気象衛星の可視画像でもはっきりと捉えられており、かなとこ雲の広がりを確認することができました。また、ドップラーレーダーでは雲の中に形成された明瞭なフック状エコーとメソサイクロン(竜巻低気圧)が観測されました。この日は、午後に積乱雲が発生し、積乱雲の南側が晴れていたこともあり、多くの人が目撃し、竜巻や積乱雲の動画や写真が数多く残されました。自宅に居た人、屋外や車で移動中の人など、多くの人がこの異常に発達した雲や尋常でない雰囲気に気がつきました。

※1 フジタスケール(竜巻の強さを表す)「F3」は風速70~92m(住家倒壊、車が飛ばされる)、「F2」は風速50~69m(屋根のはぎとり、非住家倒壊)

スーパーセルの非対称な降水分布

竜巻の前兆現象として、「急に暗くなる」「雷鳴が聞こえる」「雹(ひょう)が降ってくる」、「草むらや土の匂いがする」「冷たい風を感じる」、「乳房雲(雲底にもこもことした凹凸の生じた雲)やアーククラウド(ガストフロント上でアーチ状に形成された雲)など特別な雲が見える」、「耳鳴りがする」などが挙げられますが、これは竜巻を生むスーパーセルのさまざまな断面や構造を見たり感じたりするためです。
つくば竜巻が通過したつくば市北条地区の住民による証言は、竜巻を見た位置により大きく異なっていました。竜巻の南側に居た人は晴れ間や壁雲(雲底から垂れ下がったメソサイクロンに伴う円筒状の雲)を見たといい、一方北側に居た人の多くは真っ暗で雷が鳴り雹も降っていたと回答しました。これは、スーパーセルが有する独特の構造をそれぞれの異なる位置で見た結果によるものです。つまり、進行方向前面と後面に降水域(下降流)が広がり、南端の上昇流域にメソサイクロンが形成されるという非対称な降水分布をスーパーセルは有しているからなのです(図2)。「夕立は馬の背を分ける」と言われるように、普通の積乱雲でさえ非常に局所的な構造を有していますが、巨大なスーパーセルになると、見る位置によって目にする光景は大きく異なることを意味しています。

竜巻渦の近くでの見え方

竜巻渦のごく近くに居た人はどうだったのでしょうか。いずれの竜巻も日中に発生し、地上の竜巻渦が肉眼で見えたこともあり、屋外に居た人はいち早く渦から離れ、屋内に居た多くの人も退避行動をとりました。例えば、越谷市内の幼稚園では、異変に気付いた職員が園児を屋内に避難させ、帰宅中の保護者にも声を掛けました。保護者も急いで幼稚園に戻って避難し、室内では窓から離れた場所で嵐が収まるまで先生と園児が一緒に手をつないでいました。後日防犯ビデオには、竜巻渦が直撃し園庭の遊具が飛び、無数のガラス片が渦巻いている様子が映っていました。わずか5分間くらいの退避行動によって被害を防いだ事例といえます。一方、多くの人が住家内から竜巻渦を見ていましたが、ガラスが割れてけがをした人も出ました。竜巻渦の中心からは離れていると思っても、すでに大きな渦の中に居て飛散物によってガラスが割れて被害を受けたわけですが、ほとんどの人は竜巻に遭遇した経験がなく、どの段階で窓から離れてより安全な場所に逃げればよいか判断できなかったためと考えられます。つまり、「竜巻が発生した時に、どのような退避行動をとればよいかを学んでおくこと」がいかに重要かという結果であり、このような意味でも、小さい頃からの防災教育の必要性がわかります。

(2015年8月31日 更新)