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地震と建物の揺れ

第1回  さまざまな地震動と、建物の揺れと被害

執筆者

久田 嘉章
工学院大学建築学部まちづくり学科 教授 工学博士
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標準的な地震動とさまざまなタイプの地震動

この連載では、近年明らかになってきたさまざまなタイプの地震動と、それによる建物の揺れや被害の特徴、そして対策について述べたいと思います。
まず、図1の地震波をご覧ください。これは現在の建物の耐震設計の基本となる地震波で、日本の建物は原則として、この地震波(加速度波形)で揺らしてもそれに耐えることを目標に建てられています(注1)。この地震波は、1 分程度の継続時間にガタガタと不規則かつ小刻みに揺れ、短い周期の波が優勢になっているという特徴があり、世界中で観測された強震加速度波形の平均的な特性を表す「標準的」な強震波形(以下、標準波)と考えられています。

一方、図2には、図1の標準波とは大きく異なるタイプの3種類の観測波形を紹介します。まず図2(a)は、1995 年兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)の際、震度7の揺れによる大被害を生じた地域に位置するJR鷹取駅で観測された地震波で、左が加速度波形、右が変位波形を示します(注2)。図1の加速度波形と比べると、主要な継続時間は20 秒程度と短いものの、非常に大きな振幅で激しく振動しています。変位波形をみると、周期1秒程度の大きな振幅のパルス状の波(指向性パルス、またはキラーパルスなどと呼ばれています)が見られており、この特徴的なパルス波で耐震性に劣る古い低層建物が大きく変形し、なぎ倒されるように倒壊しました。次に図2(b)の観測波は、1999 年に台湾で発生した集集地震の際、地表に大規模な地震断層が出現しましたが、その地表断層のすぐ近くで観測された地震波です。加速度波形の主要な継続時間は30 秒程度で、振幅は図2(a)より小さいですが、大規模な地表地震断層の出現ですべり破壊を生じたため、なんと10m近い変位振幅を記録しています(注3。階段のステップのように大きな段差のある変位波形の特徴からフリングステップと呼ばれています)。指向性パルスやフリングステップなど震源近傍の特徴ある地震動の成因を知りたい方は参考文献1をご覧ください。。最後に図2(c)は、2011 年東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の際に、東京・新宿の超高層建築(工学院大学・新宿校舎)の1階で観測された記録です。遠方の超巨大地震であるため、加速度振幅は大きくありませんが、変位波形の記録から明らかなように10 分以上も揺れ続ける非常に継続時間の長い地震波です。図2(a)と(b)は、活断層など浅い地震の近くで観測されるため「震源近傍(きんぼう)の強震動」、図2(c)は、海溝型巨大地震などの巨大地震の際、関東平野や大阪平野など大規模な堆積盆地・平野で観測される「継続時間が長く、長周期の波形」が優勢になっており、「長周期地震動」、または「長周期・長時間地震動」と呼ばれています。長周期地震動の成因や被害の詳細は、そなえる防災・纐纈先生の連載を参照ください。

さまざまなタイプの地震動による建物被害

次に、図2のタイプの地震波でどのような被害を生じるのか見てみましょう。まず図3(a)は1995 年兵庫県南部地震の際、震度7の激しい揺れによる木造建物の典型的な被害例です。この2階建ての老朽化した木造建物は、図2(a)のような「大きな振れのパルス波」により、1階部分が大きく変形し、2階部分が1階に覆いかぶさるように倒壊しています。次に図3(b)は、1999 年集集地震で地表に現れた3m近い上下の断層崖と、その直上の建物の被害です。地震動の揺れは激しくなく、断層崖の手前の建物(右)はほとんど被害がありませんが、直上の鉄筋コンクリート造のアパート(左)は大きく傾斜しています。最後に、図3(c)は、2011 年東北地方太平洋沖地震の際、図2(C)の記録を観測した29 階建ての超高層建物の被害例で、固定していない本棚が大きな揺れで転倒してしまいました。その他、深刻な被害ではありませんが、中層階以上で天井板の落下、コピー機の移動、間仕切り壁の変形、エレベーターのメインケーブルの突起物への引っかかりによる破損などが生じました。

地震時における高層建物の複雑な揺れ方

最後に、地震時における建物の揺れの実例を紹介しましょう。図4は、図2(c)で紹介した2011 年東北地方太平洋沖地震の際の、超高層建物の地下6階から屋上階(29 階)までの揺れの記録です。この図では多数の波形を1枚の図にするために、各階ごとの揺れの波形を、縦軸(加速度)の一定の間隔ごとに、縦にずらしています。例えば、地下6階(B6F)の波形の縦軸は0(cm/s2)から始まっていますが、1階(1F)の波形はB6Fの波形と重ならないように500(cm/s2)の値から、8階(8F)は1000(cm/s2)の値から表示しています。地階から高層階に向かうにつれて、全体として振幅が大きく震度も増大するだけでなく、振幅の大きな揺れの継続時間も長くなっています。ただし、詳細にみると16 階の振幅は大きくて震度6弱ですが、22 階では振幅が減少して震度5強、29 階で再び振幅が大きく震度6弱になるという複雑な揺れ方をしています。従って、地震による建物の揺れは一般に上層階ほど大きく揺れますが、中間階でも強く揺れる場合があり、家具の転倒防止などの室内対策はどの階でも重要であることが分かります。

次回から図2のようなさまざまなタイプの地震動に対して有効な建物の具体的な対策例を紹介したいと思います。

参考文献 
1)久田嘉章、第3回 震源近傍の強震動、耐震の入り口と出口の話―強震動と地震防災―、SENWEB、NTTファシリティーズ総研、2011年3月
https://www.sein21.jp/NewSeinWeb/TechnicalContents/Hisada/Hisada0103.aspx

注1:図1の加速度波形は、建設省(現国土交通省)「告示 平12 建告第1461 号:超高層建物の構造耐震上の安全性を確かめるための構造計算の基準を定める件」で公表された手法に基づく、解放工学的基盤(十分な層厚と剛性を有し、せん断波速度が約400メートル 毎秒以上の硬質な地盤)における「極めて稀に発生する地震動」の計算例です。この告示では、超高層建築など高い耐震性能を求められる特殊建物を設計する際、この地震動に表層地盤の影響を考慮した地震動によって、対象とする建物が倒壊・崩壊等しないことを地震応答解析に基づき確かめることを求めています。
注2:加速度波形は、時々刻々と変化する加速度の値を示した波形です。加速度に質量を乗じると力になりますので、建物などの物体に加速度センサー(強震計)を設置し、地震時の加速度波形を記録すれば、それに質量を乗じると物体に作用している地震力の波形が得られることになります。一方、加速度波形を時間で積分すると速度波形に、もう一度積分すると変位波形になります。変位波形は、時間で変化する物体の動き(変位量)を直接表現した波形ですので、直感的には一番分かりやすいかも知れません。図2に示すように、一般に加速度波形は短周期(ガタガタした小刻みな揺れ)を、変位波形は長周期(ゆったりした揺れ)を、それぞれ強調する波形になります。
注3:1999 年台湾集集地震では、台湾中部に位置する車籠埔断層に沿って大規模な地表地震断層が出現し、甚大な被害が生じました。図2(b)の記録は、最大の断層すべり変位を生じた台中市・石岡の強震観測波形であり、この地点での断層すべりの向きであるN45W(北から西に45 度の向き)に変換して表示しています。

【参考】JR 鷹取波のデータ:公益財団法人鉄道総合技術研究所(JR 総研)、石岡波のデータ:台湾・中央気象局

(2015年6月30日 更新)