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火災予防を考える

第1回  社会の高齢化を見据えて防災を考える

執筆者

関澤 愛
東京理科大学大学院 国際火災科学研究科 教授
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高齢社会の到来にどう向き合うか

日本は人口高齢化の一途にあり、今後、総人口は減少するものの高齢化率(人口全体に占める65歳以上人口の比率)は上昇する傾向が続きます。今から20年後の2035年には高齢化率は33.4%に達し、3人に1人が65歳以上という超高齢社会になると予想されています。(図1)
ところで、そもそも人口の高齢化は望ましくない社会現象なのでしょうか。いや決してそうではありません。高齢社会は、いわば長寿社会の別の側面であり、多数の高齢者の存在自体はわが国の保健医療制度の充実に加え、戦後一貫して日本が極めて平和で経済的にも安定した時代を維持してきたことの証しともいえます。誇るべきことでこそあれ、決してネガティブにとらえるべき現象ではないのです。むしろ平和で成熟した国家の宿命として、この「チャレンジすべき難題」をいかに克服するかを、世界に先駆けて示していくべきだと思います。
今すぐに解決への名答を見いだすことは難しいかもしれませんが、例えば、高齢者の雇用や社会参加の促進など、意欲があり、まだ働ける高齢者の活用をもっと図るように、制度やシステムを改善していくこともひとつの方法であろうと思います。

社会の高齢化が災害リスクに与える影響とは

社会の高齢化は災害リスク(事故や災害によって発生する被害・損失)にどのような影響を与えるでしょうか。高齢者の絶対数が増加し続ける2040年くらいまでは、あらゆる災害において、もし予防対策に大きな変化がなければ、高齢者の災害リスクが若年層に比べて相対的に高い以上、死者の絶対数が増えていく可能性があります。火災についてもしかりです。これは高齢人口の母数が多いのですから、ある意味で自然なことであり驚くにあたりません。したがって、高齢人口の増加に比例して、火災によって亡くなる高齢者の絶対数は増える傾向がしばらくは続くでしょう。(図2) しかし、これらは自然増としてみるべきことなのです。
要するに、火災などの災害にしても病気にしても、その母数人口を無視して単純に絶対数によってのみ死者の発生危険度を評価していては、災害や病気によるリスク(言いかえれば安全水準のレベル)の実態や変遷を客観的に捉えることができないということです。

建物火災による高齢者の死者発生リスクは過去30年間に半減

建物火災による死者発生リスクを、建物火災による年齢別母数人口10万人当りの死者発生数という指標で、過去30年間(1979年-2009年)の推移を調べてみたものが図3です。そうすると、なんと「6~64歳」グループの死者発生率はこの期間、0.5前後でほぼ横ばい状態であるのに対して、同じ期間に「65~74歳」グループ(前期高齢者)の死者発生率は2.79から1.57(44%減少)に、そして「75歳以上」グループ(後期高齢者)の死者発生率は6.82から3.59(47%減少)へと、それぞれ約半分に減少していることがわかったのです。なお、最も減少していたのは「5歳以下」の就学前幼児グループであり、死者発生率は1.55から0.45へと71%も減少しています。
これは何を意味しているのでしょうか。高齢者は若年層に比べて、もちろん緊急時の対応能力や体力が劣っているために、火災に遭遇した時に死傷する割合が高くなります。しかしながら、火災統計による事実が示すのは、30年前や20年前の高齢者に比べると、現代の高齢者は火災に対してはるかに安全になっているということです。

防火対策にも柔軟な発想を

高齢者の火災による死者発生リスクの減少傾向は、1980年代から今日に至るまで一貫して続いているものであって、最近の住宅用火災警報器の普及など何らかの防火対策の実施によるものではありません。では、この減少傾向を生み出している要因については何が考えられるでしょうか。
その一つは、近年における医療の発展や健康志向に伴い、一般に高齢者、とくに新たに高齢者層に加わる人たちの健康状態が向上していることの現れではないかと思われます。つまり、災害などの非常時にとっさに対応できる能力が、過去に比べて向上しているのではないかということです。このほかには、家庭で使用する火気器具の安全化による出火リスクの減少や、住宅の不燃化による延焼リスクの減少など、高齢者を取り巻く居住環境の改善の影響もあるに違いありません。

そもそも火災に遭わないで済む環境、すなわち、年齢や体力など使い手の属性の影響を受けない安全な調理器具や暖房器具を開発し、普及させていくことは、とても重要なユニバーサルな防火対策の一つとして位置づけることができます。高齢者が暮らす一般住宅の居住環境の向上によって、少しでも火災のリスクを減らし、それが安全で快適な生活を送ることと両立することは、誰しもが望んでいることではないでしょうか。

(2015年6月30日 更新)