トップページ > コラム > 地震・津波台風・大雨落雷・突風大雪猛暑火山・降灰火災PM2.5・黄砂防災の知恵桜島噴火時の火山灰被害を防ぐために

桜島噴火と降灰の影響

第1回  桜島噴火時の火山灰被害を防ぐために

執筆者

吉原 秀明
鹿児島市立病院 救命救急センター長
プロフィール・記事一覧

桜島

錦江湾(きんこうわん。正式には「鹿児島湾」)に浮かぶ雄大な桜島は鹿児島県のシンボルであり、観光資源にもなっています(図1)。また、鹿児島市のように県庁所在地が活火山にこれほど近接しているような都市は世界でも他に例がありません。わが国では、1914年の桜島大正大噴火以降、同等規模の大噴火は発生しておらず、海外での火山大噴火災害でも大きな近代都市が被災した記録はありません。前回の桜島大正大噴火から100年以上経過し、さまざまなインフラが様変わりした現在、桜島大噴火が発生したらどうなるのか、推測するしかないのが現状です。

桜島大噴火の被害想定

火山災害では、火砕流・噴石・山体崩壊・溶岩・火山性ガス・火山灰・土石流・複合災害(火山性地震・津波)等により被害が発生します。鹿児島市が平成22年3月に発行した桜島大噴火時のハザードマップ(図2)上では大きい噴石落下(図のピンクの線で囲まれた区域)と火砕流(図の黄色い線で囲まれた区域)の危険域はほぼ桜島全域に一致しています。一方、その危険域の外であっても火山灰や複合災害のリスクは免れません。今回は、火山灰が与える影響について、医療活動の観点から提示します。

桜島大噴火時降灰想定と医療崩壊の危険性

大正大噴火の際の降下堆積した火山灰やレキ・軽石は約6 億トンと推定されています。これは、東日本大震災で発生したがれきの量2247万トンの実に27倍にもなります。鹿児島県内の11の災害拠点病院のうち、これらの降灰の影響で夏であれば7つの病院が、冬であれば4つの病院が10cm以上の降灰に見舞われる推定となっています(風向きの違いから季節によって降灰量と降灰エリアは異なります)。

図3は、桜島大規模噴火時の降灰分布予測で、赤い線の枠内が降灰堆積厚50cm以上、オレンジの線の枠内が降灰堆積厚30~50cm、黄色のエリアが降灰堆積厚10~30cmと推定されています。これら10cm以上の降灰が予想される地域では、電気・水道などのライフラインが途絶し、通信障害も発生することが想定されます。地域内の病院は自家発電と備蓄のみで運用する“籠城”状態となります。多くの病院は院内備蓄のみでは1週間も病院機能が保てません。一方、数cmの降灰で交通まひが発生します。道路が復旧されない限り救急車ですら走行不能となり、これらの病院からの入院患者の避難も困難になります。物流が止まるため食料、燃料などの備蓄の補充も困難になります。現状では、これらの地域からの避難は交通まひが発生するまでが勝負であり、一旦交通まひが発生したら、いつまで続くかわからない復旧作業を待たねばなりません。また、降灰が30cmを越えると家屋倒壊の恐れがあるレベルであり、震度5以上と想定される火山性地震と相まって、病院機能の低下が深刻化する可能性があります。

※「桜島大正噴火 100 周年記念誌(鹿児島県)」による

桜島大噴火時、英知を集めて最大限の減災を

鹿児島県では桜島大噴火が発生した場合の被災者数を死者1664人、負傷者1873人と想定しています。わが国では、災害発生時の災害医療のスペシャリストのチームであるDMAT(災害急性期に活動できる機動性を持った トレーニングを受けた医療チーム)が県外から支援に駆けつけるシステムが定着してきました。DMATによる災害支援は近年の各災害事案で実績を挙げています。上記の被災者想定数でいえばDMATの活動を前提とはしてないため、実際にDMATの活動が行われれば、災害死を減らすことが可能です。ただし県外からのDMAT支援を得るには、通信が可能であること、交通網が確保されていることが前提になりますが、降灰の影響で鹿児島県の多くの地域は通信障害に陥る可能性があり、高速道路、空路(固定翼機、ヘリコプター)でのアクセスも発災直後は困難であると推定されます。現状のDMAT支援システムは火山大噴火災害では機能不全に陥る可能性が高く、鹿児島県として桜島大噴火に適したスキームとはいかなるものか、鹿児島県内の関係機関で十分検討した上で対外的にも情報発信すべきではないでしょうか。
全国屈指の活火山を持つ鹿児島県民にとって、桜島大噴火はいつか迎えねばならない宿命です。平時である今こそ、可能な限りの英知を集めて、来るべき災害に正しく備えたいものです。

(2015年6月30日 更新)