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地震全般・各地の地震活動

第12回  巨大深発地震

執筆者

平田 直
東京大学地震研究所教授、地震研究所地震予知研究センター長
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深さ600kmで起きた巨大な地震(深発地震)

2015年5月30日午後10時23分、地震の規模を示すマグニチュード(M)8.1の地震が、小笠原諸島西方200kmの海底で発生しました。この地震では関東を始め、日本列島の全てで揺れが感じられ、小笠原村母島では震度5強となりました(図1)。小笠原村で震度5が感じられたのは気象庁の記録のある1923年以来初めてのことです。震央から1000km以上も離れた関東でも、震度4から5の強い揺れが感じられ、高層ビルや住宅で多数のエレベーターが止まりました。
しかし、M8.1の巨大地震にしては家屋の倒壊などの被害は発生せず、海域で発生したにもかかわらず津波も起こりませんでした。これはどうしてなのでしょうか。気象庁はこの地震は深さ682kmで発生したと発表しました(図2)。この深さは「大変深い」と言えます。通常、地震は地下数kmから30km程度の深さ(地球半径の0.5%程度のごく表層)で発生しますが、300kmより深いところで発生した地震は「深発地震」といいます。地震が大変深かったために、地震の真上の地点でも地震の発生場所(震源)から遠い距離となり、地震波は減衰して揺れが小さくなったのです。地震の時の海底の隆起・沈降の変動も小さく、津波は発生しませんでした。それでも、地震規模が大きかったので母島では観測史上最大の揺れが感じられました。

深発地震は、初代気象庁長官となった和達清夫(1902-1995)によって、世界に先駆けて発見されました(1)。それは、日本には当時から世界最先端の観測網があったからです。1960年代にプレートテクトニクス(地球の表層部で起こる地震や火山噴火などの現象を、プレートの運動で説明する考え方)が提唱される前のことです。深発地震の並んでいる「地中の面」は「和達・ベニオフゾーン」と呼ばれています。ヒューゴ・ベニオフ(1899-1968)は、アメリカの地震学者で、二人は別々に深発地震の研究を進めていました。

異常震域

深発地震が発生すると、強く揺れる地域に不思議な特徴が現れます。図1の震度分布をもう一度よく見てください。この地震では関東で震度4や5が観測されました。しかし、震源に近いはずの伊豆諸島での震度は3でした。また、震源からの距離が関東と同程度の西日本では、震度2や1でした。地震の波は、伝播するにつれて距離と共に揺れが弱まっていくので、震源からより遠いところで揺れが強くなることは不思議です。

揺れの強さは、地震波が伝わる距離の他、波の伝わって行く岩石と、地表近くの岩盤の性質に強く影響を受けます。太平洋プレートは固くて地震波を効率よく伝える性質を持っています。それに対して、太平洋プレートの上側には地震波を減衰させる性質のある岩石があります(図3)。関東地方には、陸を形成するプレートの下に、フィリピン海プレートがあり、さらにその下に太平洋プレートがあります(図3に比べて少し複雑ですが、仕組みは同じです)。震源から遠い関東には、太平洋プレートの中を伝わってきた地震波が到達して揺れが大きくなります。一方、伊豆諸島や名古屋には、プレートの隙間にある「地震波を減衰させる性質のある岩石」を通って地震波が伝わるため、揺れが小さくなるのです。

深発地震発生の謎

しかし、なぜこのような深いところで地震が発生するのか、大変不思議です。地震は岩石が破壊される現象です(第1回「地震はどうして起きるのか」)。破壊現象が起こるためには岩石が「弾性」と「もろさ」を持っている必要があります。弾性は、変形のエネルギーを蓄えるために必要な性質です。もろさとは、煎餅をかじるとバリバリと割れるような性質で、この破壊を脆性(ぜいせい)破壊といいます。板チョコレートは冷たい部屋の中ではバキッと割れますが、夏の車の中に放置して温まってしまうと曲げの力を加えても、グニャッと曲がってしまい、バキッとは割れません。やわらかくなった板チョコにはもろさがなく、脆性破壊しません。
深さ400kmの地下でマントルを構成するかんらん石は約摂氏1600度・14万気圧、深さ約600kmでは1700度・18万気圧と高温・高圧になり、それらの温度・圧力でより密度の高い結晶構造に変化します。岩石が溶けてマグマになることはありませんが、普通に考えるとグニャッと曲がってしまう温度で、脆性破壊することは考えられません。
地震波の解析をすると、震源でどのような力が働いて、どのような運動が起きたかを推定することができます。不思議なことに、深発地震でも浅いところで起きる地震と同じように、岩石がずれるように破壊されて断層が形成される運動であることが分かっています。地下深い、温度・圧力の高いところで力のバランスが崩れた時、脆性破壊とは異なる仕組みが働いて急速なずれ(高速不安定滑り)が発生し、地震となるのです。
地震発生の仕組みについては、「破壊のきっかけとなる滑りが発生すると摩擦熱が発生して岩石が溶け出すことによって高速の滑りが発生する」とする説(摩擦溶解モデル)や、「プレートを形作る岩石を構成する鉱物(主としてかんらん石)は、地球深部の温度・圧力条件では結晶構造が変化し、急激に体積を減少させることで高速滑りが生じる」とする説(相転移モデル)など複数提案されていますが、必ずしもよく分かっていません。

深発地震の分布から、地球深くまで沈み込んでいるプレートの形状を推定することができます。プレートは海溝では浅い角度で沈み込みますが、深くなるにつれて角度が急になります。しかし、さらに地球深部では水平に近くなる場合と、垂れ下がって急角度になる場合があります。小笠原の北側(図4a)では深発地震の分布は水平に近くなり、小笠原の南方(図4f)では鉛直に近く垂れ下がっています。大変不思議な形です。今回の深発地震は、両者の境界域で発生しました(図4b)。
深発地震の発生の仕組みを理解し、どのような揺れになるかをあらかじめ予想しておくことは、地震にそなえるためにも大事なことだと考えています。

文献
(1)和達清夫(1927) 深層地震の存在と其の研究, 気象集誌, 2 輯 5, 119-145.

(2015年6月30日 更新)