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津波と防災

第6回  津波を検知して記録する~津波のメカニズム~

執筆者

佐藤 慎司
東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻教授
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遠くまで伝わる津波

津波のエネルギーは、海を伝わっていくうちに海底の摩擦などにより失われていきます。しかし、津波は大規模な海水の運動なので、エネルギーが失われる割合は深海部では特に極めて小さいのが普通です。したがって、津波は、一度伝わり始めたら、初期エネルギーを保持したまま、長い距離を伝ぱしていくことになります。1960年のチリ地震津波では、地球の反対側のチリ沖で発生した津波が、1日かけて太平洋を伝わり、日本の海岸に大きな被害をもたらしました【図1】。

2004年のスマトラ沖地震津波では、インド洋を渡った津波がアフリカ諸国に到達していますし、2011年の東北津波(東日本大震災)でも、太平洋を渡った津波が、米国西海岸などで観測されています。このような遠い場所にまで伝わる津波を「遠地津波」といいますが、地震の揺れを感じない遠い場所にまで、国を越えて津波が伝わるので、国際的な監視と情報共有の体制を構築することが重要です。例えば太平洋の津波は、ハワイにある「太平洋津波警報センター」で監視されています。

津波を早く検知するには?

日本での津波の注意報や警報は、現在では地震から3分以内に気象庁から出されるようになっています。地震の震源位置や規模を変えた、さまざまな条件で、発生する津波があらかじめ計算されています。地震の震源や規模は、地震計の記録から短時間で把握することができるので、判明した地震の特性に近い条件の計算事例から津波の大きさを予測し、出すべき注意報や警報のレベルが決められています。

震源が海底にあり、地震のマグニチュードが6.9より大きい場合は、津波が発生する危険性がありますので、注意報や警報に注意してください。

津波の高さは、地震のマグニチュードに比例して大きくなるのが普通ですが、地震によっては、地震の規模や揺れの強さは小さいのに、大きな津波が発生するものがあります。このような地震を「津波地震」といいます。1896年の明治三陸津波や1946年にハワイを襲ったアリューシャン地震津波などが代表例です。「津波地震」では、地震計では小さな揺れしか観測されないため、その記録から予測される津波は過小評価となります。そのため、地震計の記録のみによらず、津波を沖合で直接観測することが必要になります。

このような目的で沖合に設置されているのが「GPS波浪計」です【図2】。海岸から10~20km沖合の海上に浮かべたブイの運動をGPS衛星で監視し、波浪や津波を計測するものです。2011年東北津波(東日本大震災)では、地震発生から約30分後に釜石沖の「GPS波浪計」により津波がとらえられ、それを基に大津波警報の津波の高さが更新されました。このほかにも、深海の海底に多くの水圧計を設置して、津波をさらに早く検知する観測網の整備も進められています。

津波を正しく記録する 

津波の被害を小さくするためには、津波を正しく記録し、それに基づいて対策を科学的に検討することが大切ですが、津波の記録は、地震の揺れの記録に比べて記録を残す仕組みが十分ではありません。災害の直後には、正しい記録が残されていても、時間が経過するにつれ、誤った情報に変化してしまう場合もあります。これを補うものとしては、津波の「浸水痕跡調査」が有効となります。

津波の「浸水痕跡調査」は、津波が襲った地域のすべてを効率的にカバーするように、速やかに実施する必要があります。特に2011年東北津波(東日本大震災)の影響範囲は広かったため、合同調査の枠組みが重要となりました。津波発生の翌日に、複数の学会が情報を共有する場が設置され、統一的な情報共有の下で効率的な調査が実施されました。

その結果、日本全国の太平洋側で多くの痕跡記録を収集することができ、津波の高さと影響範囲を科学的なデータとして残すことができました【図3】。300人を超える研究者・技術者の協力で、広域の津波痕跡記録を効率的に取得し、そのデータはインターネットで速やかに公開されて、被災地の救援・復旧・復興に活用されています。

世代を超えて伝える津波減災

東日本大震災後も、2013年伊豆大島、2014年広島の土砂災害など、大きな自然災害が発生しています。数百年から千年に一度程度の低い頻度で発生する巨大災害に対しては、堤防などで完全に防ぐことは現実的ではありません。そのため、津波に対しては、レベル1津波とレベル2津波の2段階の津波を設定し、堤防と避難を組み合わせて、被害を小さくする対策がとられることになりました(*1)。

このような低い頻度でしか発生しない巨大災害に対しては、災害の教訓を地域の財産として、世代を超えて受け継ぐ仕組みをつくることが重要です。例えば、1854年に発生した安政南海地震の津波では、津波の教訓から「稲むらの火」という物語が作成され、これが小学校の国語の教科書に使われていました。1946年の昭和南海地震の津波では、迅速な避難に役立ったとされています。

過去に繰り返し津波に襲われている地域では、神社や石碑などに津波の記録が残されていることがあります。2011年東北津波(東日本大震災)についても、陸前高田市(岩手県)では、津波の浸水範囲の境界線上に桜を植樹し、これを地域のシンボル的な財産として伝承していこうとする活動も始まっています【写真1】。災害の教訓を風化させることなく、自然な形で受け継いで、次の災害の被害を小さくすることが重要です。

津波や洪水、土砂災害などでは、発生を早く検知して的確な情報を提供すれば、その後の人々の行動によって、被害を小さくすることができます。地域の伝承などを活用して、災害リスクが住民の日常的な意識に自然な形で定着する仕組みをつくるとともに、日頃の訓練に基づく素早い対応を心がけることにより、巨大災害に対しても被害を小さくすることができるのです。

〈参考〉
(*1)第2回「防災と減災の違い~津波に備える~」/佐藤慎司

(2015年3月31日 更新)