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ヒートアイランド現象

第4回  ヒートアイランド緩和の決め手とは?

執筆者

三上 岳彦
首都大学東京 名誉教授・理学博士
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夏の暑さを和らげる都市の緑

晴れた夏の日中、コンクリートとアスファルトで覆われた都市では、上からの直射日光だけでなく地表面からの放射熱が加わるため、長時間屋外にいると、体感温度が上昇して熱中症にかかるリスクが高まることになります。暑い夏の午後、東京都心部(新宿区)のアスファルト道路表面温度をサーモカメラで撮影したものを【図1】に示しました。

日射のあたっている部分(A)は50℃に達しています。一方、街路樹で日陰になっている部分(B)の表面温度は30℃で、その差は20℃もあります。気温で比べても、2℃程度の差が生じます。樹木は日陰をつくるだけでなく、日中は葉面からの「蒸散作用」で、気温の上昇を抑制する効果があります。

都市の大規模緑地はクールアイランド

欧米の都市には、延々と続く街路樹に加えて、緑豊かな公園緑地が散在し、市民の憩いの場として有効に機能しています。例えば、英国ロンドン市内のハイドパークやケンジントンガーデンなどの大規模公園緑地では市民が散策し、観光客の息抜きの場となっています。また、米国ニューヨークのマンハッタンに広大な緑の空間を持つセントラルパークは、市民や観光客に都会のオアシスを提供しています。

一方、日本の都市ではどうでしょうか。東京都内にも代々木公園・明治神宮・新宿御苑など、50ヘクタールを超える大規模緑地は存在しますが、市街地全体の面積に占める割合は、欧米の大都市に比べて、かなり低いのが現状です。

このような都市内に散在するさまざまな規模の公園緑地は、市民の憩いの場として利用されるだけでなく、「ヒートアイランド(周辺市街地の高温域)」を緩和し、自動車排ガスによる大気汚染を浄化する役割を果たしています。筆者らの研究グループは、これまで都内の数多くの公園緑地とその周辺で気象観測を実施し、緑地の「クールアイランド(低温域)」効果の実証を試みてきました。次に、東京都内有数の大規模緑地・新宿御苑での観測事例をもとに、都市内緑地の「ヒートアイランド緩和効果」について述べたいと思います。

公園緑地の冷気が周辺市街地を冷やす

緑地内の低温な空気を周辺市街地に流出させることができれば、「ヒートアイランド」による都市の高温化を緩和することが可能になります。そこで、新宿御苑内と周辺市街地に多数の気象観測機器を設置し、緑地内の低温な空気の流出を実測する試みを行いました。

2000年8月5日の観測結果が【図2】です。グラフは新宿御苑を挟んだ南北方向の気温断面を示しています。上のグラフは南寄りの風(毎秒3.2m)が吹く日中の状況で、風下の北側市街地に緑地内の冷気が最大250m付近まで流出していることが分かります。緑地内と周辺市街地の気温差は約1.5℃ありますが、特に風下の北側市街地の高温化を、幾分かでも緩和する効果のあることが実証されたといえます。

この日は、前日の夜から早朝にかけて無風状態となりましたが、下のグラフで示すように、明け方5時近くには新宿御苑の中と周辺市街地の気温差が2℃~3℃に達しています。このとき緑地内からは「放射冷却現象」で生じた冷気が、周辺市街地へ最大100mの範囲で流出したことが確認されました。冷気の流出速度は毎秒10cmから20cmと小さいのが特徴で、私たちはこれを冷気の「にじみ出し現象」と呼んでいます。

翌日の早朝にも「にじみ出し現象」が出現しましたが、新宿御苑の縁辺(えんぺん)部に設置した超音波風速計の測定結果では、いずれも緑地の内部から外に向かう風向きとなっており、風速も毎秒30cm以下と微弱でした。緑地内での冷気生成と「にじみ出し現象」をモデル的に表したものを【図3】に示しました。

「風の道」を生かしたまちづくり

都市では、季節や時間、場所の違いに応じてさまざまな風が吹きます。一般に、日本列島では、冬季にシベリア高気圧から吹き出す北西風と夏季に太平洋高気圧から吹き出す南東風が代表的な季節風(モンスーン)として知られています。しかし、東京や大阪、名古屋のように湾岸に立地する大都市では、夏季の日中に吹く海風や緑地から流出する冷涼な風が「ヒートアイランド緩和」に役立っているのです。

一方、内陸の都市では、夜間に山地斜面を吹き下りる山風が市街地の気温上昇を抑制することが知られています。都市部に流れるこのような「風の道」を生かしたまちづくりが「ヒートアイランド緩和」に効果的です。

「ヒートアイランド」が深刻化する東京では、特に夏季の海風が「風の道」として重要になります。東京首都圏における夏季の「風の道」をモデル的に表したものが【図4上】です。一般に、海陸風は陸地と海洋の温度差で生じるため、日中は海から陸に向かう南寄りの海風が、夜間は陸から海に向かう北寄りの陸風が卓越します。

山地に近い東京西部では、日中は山麓(さんろく)平野から山地斜面を上昇する谷風が吹き、夜間は山地斜面を吹き下りて山麓平野に向かう冷涼な山風が吹きます。すでに説明したように、都市内部に散在する公園緑地は「クールアイランド(低温域)」を形成しており、夏季日中には緑地内の冷気が風下側に流出し、夜間の晴天静穏時には、放射冷却で生成された冷気が周囲に流出する「にじみ出し現象」が起こり、微弱ですが一種の「風の道」効果を生み出しています。

東京湾から都心部にかけて流れる「風の道」を模式的に示したものが【図4下】です。夏の午後になると、太平洋から東京湾岸部・相模湾岸部を経て東京都内に吹き込む南寄りの海風は、厚さを増して上空数百メートルに達しますが、地上付近では河川や幅の広い街路に沿って流れ、都心部の「ヒートアイランド緩和」に役立っています。とりわけ、川幅の広い荒川や隅田川に流れ込む川風は、河道周辺に広がって市街地の気温上昇を抑制する効果が期待されます。隅田川から日本橋川を経て都心部に向かう「風の道」は、高架の首都高速道路によって、流れが弱められています。比較的道幅の広い八重洲通りに沿って東京駅方面に流れる「風の道」もありそうです。

「クールアイランド効果」をもたらす「緑化」と涼風を導く「風の道」を生かして、「ヒートアイランド緩和」による快適なまちづくりが進むことを期待したいと思います。

(2015年3月31日 更新)