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津波と防災

第5回  津波のエネルギー ~津波のメカニズム~

執筆者

佐藤 慎司
東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻教授
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海岸に吸い寄せられる津波

海岸に到達した津波は、一部が陸上で氾濫して被害を及ぼしますが、津波のエネルギーの多くは、海岸で反射され、海に戻っていきます。東日本大震災の2011年東北津波の発生から74分後の様子を示したのが【図1】です。仙台湾の海岸に津波が到達していますが、三陸地方南部はすでに津波が来襲した後で、海岸で反射した津波が、牡鹿半島付近を中心とする同心円状のしま模様となっていることが確認できます。反射した津波は同心円状に広がっていきますので、深海に帰っていくエネルギー成分もありますが、海岸に沿って進んでいくエネルギー成分もあります。【図1】では、反射した津波の一部が仙台湾の沖合を南に進んでいるのが確認できます。

海岸に沿って南へ進んだ津波は、その後、向きを海岸に変え、結果として、再び海岸を襲うことになります。地震から100分後の様子を示した【図2】では、【図1】に白矢印で示した南へ向かう波が海岸へと向きを変え、福島県南部に向かって進んでいることが確認できます。これは、海岸に近くなるほど一般に海の水深が浅く、津波のスピードが遅くなるためです。ちょうど「30人31脚」で、端の選手が遅くなると、その方向に列が曲がっていくのと同じ現象です。

津波の反射は、2004年インド洋大津波でも観察されています。震源の西に位置するスリランカでは、津波が襲来した方向に面した東海岸に加えて、反対側の西海岸でも列車が流されるなどの大きな被害が生じました。これは、沿岸の浅瀬で津波が増幅されたことなどが原因ですが、モルジブ諸島からの津波の反射も理由の一つと考えられます【図3】。これらの原因により、スリランカ西海岸では、長時間にわたって津波が何度も襲来したと考えられます。

このようにして海岸で一度反射した後、再び海岸に戻ってきた津波は、もう一度海岸で反射することになりますが、そのエネルギーの一部は、さらに海岸に吸い寄せられるように、何度でも繰り返し海岸を襲ってくるのです。東日本大震災の東北津波では、津波警報が24時間以上継続しました。津波が収まったように見えても、強い流れが継続したり突然の波が発生したりすることもあります。警報や注意報が出ている間は、海岸に近づかないようにしてください。

海岸近くで高さを増す津波

津波の速さは水深の平方根に比例し、水深が浅くなるとスピードが遅くなります。海岸近くでは津波が渋滞して、エネルギーが「濃縮」されます。そのため、津波の高さが高くなります【図4上】。これに加えて、波面が切り立ち、場合によっては波が砕けてしまいます。波の力は砕けるときに最も大きくなるので、砕ける直前の波が最も危険です。津波注意報が出ると船舶は沖へ避難しますが、水深の浅い港の中より、水深の深い沖合の方が安全だからです。

津波エネルギーの「濃縮」は、沿岸の地形によっても起こります。三陸地方は、リアス式海岸の入り組んだ地形が特徴です。岩手県大船渡市の綾里湾など、いくつかの湾は、湾の奥に向かうにつれ徐々に幅が狭くなる、いわゆる「V字型」の形状をしています。このような「V字型」の湾を津波が襲うと、【図4下】に示したように、湾の奥に進むにつれ津波エネルギーが「濃縮」されます。湾の奥は水深が浅いことが多いので、その効果も加わって、津波の高さが高くなってしまうのです。

岬の背後に回り込む津波

海岸地形が海に向かって張り出しているところでも、津波が大きくなります。凸レンズが光を集めるのと同じ効果で波のエネルギーが集中するため「レンズ効果」とも呼ばれます。岬の周辺の地形などがその代表例です。このような海岸で、岬の反対側から波が襲ってくる場合には、岬の陰にあたる地域では岬で波が遮られ、波は高くなりません。通常の波は長さが短いので、沖合では波の進む向きはあまり変化しないため、岬の陰には波が進入してこないのです。しかし、津波は波の長さが長いため、沖合の地形に影響を受け、【図2】でも説明したように、浅い方に大きく曲がる性質があります。岬の周辺は沖合まで浅い地形が張り出していることが多いので、津波は沖合から大きく曲がり、通常の波では考えられない場所に集中してしまいます。

1993年北海道南西沖地震の津波では、奥尻島南端の青苗岬の周辺で大きな被害が生じました。青苗岬の周辺には浅い海域が広がっています【図5】。震源は奥尻島の東側に位置していたため、津波は青苗岬を東側から襲いましたが、岬周辺に張り出した浅い地形の影響で津波の向きが大きく曲がり、岬の裏側の陰の領域にあたる初松前の集落にも、高さ12mを超える大きな津波が襲いました【図5】。2011年東北津波(東日本大震災)でも、千葉県の銚子や飯岡、福島県のいわき市などで、岬の背後の地域で大きな被害が生じています。

遠浅の海岸では多くの波に分裂する

1993年北海道南西沖地震後、奥尻島を襲った津波は、いくつかの波に分裂していました【図6】。広い浅瀬や遠浅の海岸では、津波は進むうちに分裂する性質があります。初松前の集落では、津波が次から次へ襲ってきたという証言も残されています。2011年東日本大震災の津波でも、遠浅の砂浜地形が広がる仙台平野では、何波も続けて津波が襲ってきたことが知られています。津波が分裂すると、後ろの波が前の波に追いつくようにして陸地に氾濫していきますので、浸水範囲が拡大し、被害も大きくなります。

津波は長さが極めて長い波なので、通常の波とは性質が違います。反射、集中、向きの変化、分裂など、ふだん目にすることが少ない海底地形によってさまざまな形に姿を変える津波は、思わぬところで大きな被害を生じてしまうこともあります。思い込みにとらわれず、その時点で予想された津波よりやや大きな津波が襲来することも想定した対応を心掛けることが大切です。

(2015年2月27日 更新)