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津波と防災

第4回  津波の正体を知る ~津波のメカニズム~

執筆者

佐藤 慎司
東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻教授
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津波の発生原因

津波は、広い範囲で急激に海水面が変化することで発生します。このような海水面変化は地震によってもたらされることが多いので、多くの津波は海底を震源とする地震によって発生しますが、地震以外の原因で発生する場合もあります。

例えば、海底の火山が噴火すると、噴火に伴う急激なマグマ噴出や海底の変形で津波が発生することがあります。太平洋の海底火山で、伊豆諸島の南部にある明神礁の噴火(1952年)では、伊豆諸島周辺で小さな津波が観測されました。また、海岸近くの山で大規模な土砂崩れが発生して、その土砂が海に突入した場合にも、津波が発生します。

長崎県にある島原半島雲仙普賢岳のふもとにある眉山は、1792年に大規模な土砂崩れを起こし、大量の土砂が有明海に突入して津波が発生しました【図1】。発生した津波は、有明海対岸の熊本県沿岸を襲い、大きな被害が生じています。「島原大変肥後迷惑」といわれるゆえんです。海に流れ込んだ土砂はいくつもの島を形成し、現在は九十九(つくも)島となっています。

米国アラスカ州にあるリツヤ湾では、1958年に発生した地震により、湾内を取り囲む急こう配の斜面で大規模な土砂崩れが発生し、これが湾内に突入することにより津波が発生しました。その津波は、対岸の斜面500mを超える高さにまで駆け上がり、これが世界で観測された津波痕跡の最高記録となっています。

その他、海底地滑りや、天体から飛来する小惑星の海面への衝突によっても津波が発生する可能性があります。約6,500万年前には、南北アメリカ大陸を結ぶユカタン半島付近へ小惑星が衝突し、これが、その後の恐竜の絶滅につながったとされています。同じ規模の小惑星などが海面に衝突する場合には、極めて大きな津波が発生する可能性もあります。

津波の初期エネルギー

津波が地震による海底の変形によって発生する場合、海底が変形する範囲を「波源域」といいます。震源が海底であっても、地震の規模が小さい場合は、海底の変形が小さいので、大きな津波は発生しません。津波を発生させた地震に対して、地震のマグニチュードと津波の高さの関係を調べた分析によれば、マグニチュードが6.9以上の地震でないと、観測できる規模の津波は発生しないことが分かっています。

海底には、水圧が作用しているので、例えば地震により海底が隆起すると、海底地盤は水圧に逆らって海水を持ち上げることになります。このとき、海底は(水圧で押される力)×(隆起量)の分だけ、海水にエネルギーを与え、その結果、海水面が持ち上げられることになります。これが、初期状態での津波のエネルギーです。地震に伴う海底の隆起や沈降で、海底と海水の間でやりとりされるエネルギーの総量は、海底の変形量が大きいほど、「波源域」が大きいほど、水圧が大きいほど、大きくなります。

水圧は海の水深が深くなるほど大きくなりますので、津波の総エネルギーは、地震が深海で発生した場合に極めて大きくなります。「地震・津波」のコラム第1回「ハードとソフトの両面から対策~津波に備える~」/佐藤慎司(*1)で説明した「海溝型地震」では、地震の規模が一般に大きく、「波源域」が深海になるため、巨大な津波が発生しやすいことになるのです。三陸地方は過去に何回も大津波を経験していますが、それらを発生させた地震の多くは、【図2左】に示すように、日本海溝に近い深海で発生したものです。

2011年3月11日に発生した東日本大震災の津波は、数百キロメートルスケールの非常に大きな「波源域」を持つものでしたが、日本海溝付近の深海部で特に大きな隆起域があったと考えられています。地震の震源は、宮城県沖ですが、これは、最初の断層破壊が始まった地点であり、実際には【図2右】に示したような東西約300km、南北約500kmにも及ぶ広域で海底が変形しました。

大津波が起きる2日前の3月9日には、3月11日の地震の震源に近い場所でマグニチュード7.3の地震が発生し、津波注意報が発令されましたが、実際に沿岸を襲った津波はたかだか60cmでした。1978年の宮城県沖地震の震源もこれらに近いやや西側で、マグニチュードは7.4でしたが、津波の高さは30cm程度でした。このように、津波の高さは、地震の規模・震源の深さや波源の大きさと水深によって大きく異なります。また、海底の地形や陸上の地形によっても変化します。津波の高さを事前に予測することは困難なので、津波注意報や警報に注意し、これらが発令されたらただちに避難などの行動を始めることが大切です。

波の伝わり方と指向性

海底地盤の急激な変形によって「波源域」の海水に蓄えられた津波の初期エネルギーは、揺れが収まった後、四方に伝わっていきます。一般に地震で海底が変形する範囲は、上から見ると長方形のような形をしています。その長辺に面した方向には、多くのエネルギーが進んで行くのに対し、短辺に面した方向に進んで行くエネルギーは小さくなります【図3】。

つまり、津波のエネルギーの伝わり方には指向性(*2)があることになります。2011年東日本大震災の津波の「波源域」で隆起量の特に大きかった領域は、南北方向に長辺を持つ長方形だったので、東西方向に伝わった津波の高さが高く、南北方向に伝わった津波はやや低い高さとなりました【図3】。北海道沿岸では、東北地方より津波の高さが低かったのは、この理由が関係しています。

水深が深いとスピードが速い

津波の「波源域」の大きさは、数十km以上である場合が多く、たかだか数kmである海の水深に比べて大きいため、深海部でも、津波は「長波」として扱えます(「高波・高潮」のコラム 第2回「水深によって変化する、波の高さとエネルギー」/佐藤慎司 参照)(*3)。したがって、その伝わり方は、「長波」の理論で計算することができ、その速さは水深の平方根に比例します。

2011年東日本大震災の津波に対して、地震発生から約28分後の津波の様子を計算したのが【図4】です。三陸地方に大津波が到達する直前の様子ですが、震源に近い三陸地方だけでなく、福島県の小名浜付近にも海岸のすぐ近くまで津波が襲ってきたことが分かります。これは、小名浜沿岸の水深が他の場所に比べて深く、津波のスピードが速いためです。地震当日のテレビ中継でも、15時14分頃に岩手県釜石市で、津波が岸壁を越える映像が報じられています。そして、その約4分後には、5mを越える津波が小名浜を襲っています。

例えば、日本海側では青森県の深浦も、沿岸の水深が深いので、津波が早く到達します。太平洋側では駿河湾も水深が深いので、駿河湾内を震源とする地震で津波が発生すると、数分以内に津波が襲ってくるところがあります。このように、沖合が急に深くなっている海岸では、特に迅速な避難を心がけることが重要です。

(*1)第1回「ハードとソフトの両面から対策~津波に備える~」/佐藤慎司
(*2)指向性: 音波・電波などの強さが方向によって異なる性質。
(*3)「高波・高潮」第2回「水深によって変化する、波の高さとエネルギー」/佐藤慎司

(2015年1月30日 更新)