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ヒートアイランド現象

第3回  ヒートアイランドが及ぼす影響とは?

執筆者

三上 岳彦
首都大学東京 名誉教授・理学博士
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増加する熱中症患者数

地球温暖化の影響については、海面上昇による海岸低地帯の浸水被害や世界的な異常気象の多発による災害の増加などが指摘され、その将来予測や緩和・適応対策に関する国際的なプロジェクトも進行しています。一方、都市の「ヒートアイランド」が及ぼす影響に関しては、さまざまな議論があり、まだ十分に解明されていないのが現状です。ここでは、一般に夏季ヒートアイランドの影響といわれている、(1)熱中症患者数の増加および(2)局地的豪雨(いわゆるゲリラ豪雨)の発生について考えてみたいと思います。

夏になると、暑さによる「熱中症」で病院に搬送されたり、最悪の場合、死亡する事例が増える傾向にあります。「熱中症」それ自体は、都市に限らず全国どこでも発生するものですから、地球温暖化が進めば夏の気温も上昇し、「熱中症」の患者数が増加すると考えられます。ちなみに、国立環境研究所が毎年発行する「熱中症患者情報速報」の地区別患者数の統計数字をみると、人口100万人あたりの平均熱中症発生率は、札幌市のように冷涼な都市では80人前後と少ないですが、東京・名古屋・大阪などの大都市でも亜熱帯の沖縄県でも、300人~500人と、それほど大きな差はありません。

しかし、統計数値のある過去十数年間について、その変化を追ってみると、2009年までは大きな変化傾向は認められませんが、2010年以降に患者数が急増しています。特に、東京都区部や名古屋市・大阪市・横浜市などの大都市で、発生率が顕著に高くなる傾向を示しています。

熱中症患者数とヒートアイランドの関係

そこで、典型的な大都市である東京都区部を例に、2000年~2013年の熱中症患者数と「ヒートアイランド」の関連について考えてみたいと思います。東京23区の熱中症患者数(5月~9月)と東京都心部の熱帯夜日数・猛暑日日数(いずれも6月~8月)の年々変化を示したグラフが【図1】です。左側の軸は人口100万人あたりの患者数、右側の軸は夏季3か月間の熱帯夜日数と猛暑日日数を示しています。2009年以前の患者数は500人前後で、やや増加していますが、2010年以降に患者数が激増して2,000人~3,000人に達しています。

ここで興味深いのは、2010年以降の熱帯夜日数と猛暑日日数の顕著な増加傾向です。特に、熱帯夜日数が2009年以前に比べて、大幅に増加している点に特徴があります。日中の最高気温が35℃を超える猛暑日の増加とともに、夜間の気温が25℃以下に下がらない熱帯夜が増えているのです。

なかでも熱中症患者数が激増した2010年夏は、全国的に気温が高くなったのですが、東京のような大都市では「ヒートアイランド」の特徴である熱帯夜が平年の倍以上になり、高齢者が夜間就寝中に脱水症状を起こして亡くなる例が数多く報告されています。このように、近年の熱中症患者数の急増は、熱帯夜日数の増加と密接に関連しており、「ヒートアイランド」が顕著な大都市での増加傾向は、今後さらに強まることが予測されます。

都市部の局地的豪雨と3方向の海風

都市部で夏の午後に突然降り出す局地的豪雨は、「ゲリラ豪雨」とも呼ばれ、「ヒートアイランド」との関連が指摘されています。その典型例が、1999年7月21日の夕方、東京都区部の北西に位置する練馬区で観測された、1時間131mmという猛烈な大雨でした。当日の午後3時から4時まで、1時間の降水量分布を示したのが【図2】です。練馬付近の狭い範囲で80mm以上の猛烈な雨が観測されていますが、他の地域では全く雨が降っていません。

この日の天気図を見ると、東北地方の南部に梅雨前線が見られますが、関東地方は前線の南側にあって夏の高気圧に覆われ猛暑となりました。練馬区でも、12時半に35.4℃を記録しています。一方、九州の南には台風があって、熱帯の湿った空気が日本列島に流れ込んでおり、大気が不安定な状況だったのです。

この日の午後に練馬付近に巨大な積乱雲が発生し、相模湾、東京湾からの南西~南東の海風が吹き込むと同時に、茨城県の鹿島灘からの北東の海風が練馬付近にまで流れ込んだ結果、練馬付近で3方向からの海風がぶつかり合って上昇流を強め、積乱雲をさらに発達させ、局地的な豪雨を降らせたのです。ちなみに、過去に東京都内に局地的な豪雨が発生した複数の事例について、豪雨発生1時間前の平均した気温と風の分布が【図3】です。

ヒートアイランドは局地的豪雨の引き金

都市部で発生する局地的豪雨のメカニズムはまだ十分解明されていません。都市の「ヒートアイランド」が直接の原因で局地的豪雨が引き起こされるわけではなく、さまざまな要因が複合していると考えられます。確かに、都市は周辺よりも気温が高く、熱せられた地表面の大気が上昇しやすいのですが、それだけでは局地的豪雨を降らせるだけの積乱雲の発達を説明できません。

大都市には高層ビルが林立し、風の流れを乱したり、部分的に風を弱める効果があります。都心部で発生した人工排熱は、上下に混合されると同時に、風下側に流れて局地的な高温域を形成します。東京都区部の北西に位置する練馬区は、すでに第1回コラム(*1)で指摘したとおり、夏期の午後に高温となりやすい条件を備えています。

このほかにも、雷雨をもたらす雨雲の列が都市部を通過する場合に、「ヒートアイランド」の熱などで局地的に暖められ、急速に発達した積乱雲が豪雨をもたらすことがあります。いずれにしても、「ヒートアイランド」は都市部の局地的豪雨を発生させるトリガー(引き金)の役割を果たしているといえます。

次回は、「ヒートアイランド」を緩和するにはどうしたらよいのか、効果的な対策について考えてみたいと思います。


(*1)第1回 「巨大都市・東京のヒートアイランド」/三上岳彦 図4(b)参照

(2014年12月26日 更新)