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台風の基礎知識

第6回  台風の渦巻きの成因と風雨の偏り

執筆者

上野 充
電気通信大学講師、横浜国立大学講師 理学博士
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地表面の回転

今回は、本コラム第1回「台風の基礎知識」(*1)で台風の発生を左右する要因として取り上げた「コリオリ係数」と「環境風の鉛直シアー」に着目して、それらがもたらす効果についてもう少し詳しく見ていきましょう。

コリオリ係数(コリオリパラメータ)は鉛直軸(*2)周りの地表面の回転の速さを表す係数で、その値は緯度によって異なります。地球に見立てた回転する球体上の北極近く、北緯30度、赤道の3か所の地表面に記したアルファベットのA(青色)が地球の自転に伴ってどのように変化するかを見てみましょう【図1】。

地表面の回転は鉛直軸周りの回転と地軸周りの回転に分けられることが重要です。例えば北極近くのAが回転した部分を地軸周りに切り取って平面の展開図にしてみると、Aは地軸の周りに回転するとともに、その向きも変化しています。Aの向きの変化が鉛直軸周りの地表面の回転に該当します。このことは【図1-右上】に示した赤色のAの回転と比較すれば一目瞭然です。

では赤道ではどうでしょうか。赤道の地表面は地軸から最も距離があり地軸周りの回転速度は最も大きいのですが、展開図を見るとAの向きの変化は全くありません【図1-右下】。つまり鉛直軸周りの地表面の回転はゼロということになります。日本列島が位置する中緯度の場合はどうでしょう。図では北緯30度の場合を示しています。地球が一回転する間にAはちょうど半回転しています【図1-右中】。

このように地表面が水平に回転する速さ(コリオリ係数)は緯度によって異なり、緯度が低いほど小さくなり赤道ではゼロなのです。この緯度によるコリオリ係数の違いがもたらす現象の一つが、前回コラム(*3)で取り上げた台風の「ベータドリフト」です。

風を渦巻かせる「コリオリ力」

前項で述べた地表面の回転は、日常生活で私たちが実感することはありませんが、大気の運動には大きな影響を与えています。地表面の回転が物体の運動に及ぼす影響を知るために、地表面が実際よりはるかに速い速度で回転している場合を考えてみます【図2】。

水平に投げられたボールは宇宙の一点から見ればまっすぐ飛んでいるのですが【図2-左列】、回転する地表面上にいる人から見れば、あたかも何か力が働いているかのように、ボールは右にそれて行きます【図2-右列】。このように地表面の回転に起因して物体の運動方向を右(北半球の場合)にそらす力のことを「コリオリ力」または「転向力」といいます。コリオリ力の大きさは物体の速さと前述のコリオリ係数の積に比例します。

実際の地表面はもっとゆっくり回転しますから、ボール投げのボールのような短い時間の運動では、コリオリ力の影響は無視できるほど微小です。空気の運動(風)は場所によって気圧が異なることで生じます。気圧の違いが広範囲にわたっている場合は、空気は長時間にわたって運動することになります。そうなるともうコリオリ力の影響は無視できません。気圧の高い方から低い方に向かって進んでいた空気は、次第に右にそれ低圧部を左に見る向きに進むようになります。これが北半球で低気圧に伴う風が反時計回りに渦巻いている理由です。

もし大気にコリオリ力が作用しなければ、空気は気圧の高い所から低い所に向かって直線的に移動することができます。これでは気圧差はなかなか持続しません。赤道近くで台風がめったに発生しないのは、コリオリ力が働かないからだといえます(*1-図2)。

アイウォール域の降雨の偏り

台風に伴う風雨は、台風の眼をぐるりと取り巻くアイウォール(眼の壁雲)(*1-図3)で最も強くなります。ただ、アイウォール域内はどこでも同じように強いかといえば、日本付近ではそういった事例は少なく、台風中心から見たときの方位によって風雨の強度が異なるのが一般的です。陸地の影響を除外すれば、降雨強度の方位による違いをもたらしているのは、主として環境風の鉛直シアーと呼ばれる風の働きです【図3】。環境風の鉛直シアーは、上層風(高度1万2000m付近の環境風)から下層風(高度1,500m付近の環境風)を差し引いた量として定義されるのが一般的です。環境風の鉛直シアーは、直立している台風渦を鉛直シアーの向きに倒そうとする働きがあり、鉛直シアーが大きいほどその働きも大きくなります。

例えば、環境風が蛇行していない偏西風帯のようにどの高度でも西風で、風速が上空に行くほど大きくなっている場合は、鉛直シアーの向きは東向きです。この鉛直シアーの作用により、それまで直立していた台風の中心軸がちょっとでも東に傾くと、それまで保たれていた上下方向の力の釣り合いが崩れ、台風中心の東側のアイウォール域では下層から気圧が低下した上層に向かって上昇流が新たに誘発されます。上昇流が強まる東側で成長を始めた積乱雲は、成長を続けながら回転風に流されて反時計回りに移動し、東側から北側にかけて降水量を増加させます【図4「降雨強化域」】。

米国コリオリ衛星に搭載されたマイクロ波放射計で得られた、2013年の台風27号の鉛直シアーと降水分布の関係をみると、台風中心のすぐ外側の鉛直シアーベクトルの前方から左側にかけてのエリア内で、降水強度が強いことが分かります【図5-上図】。

アイウォール域の風の偏り

台風の進行方向右側は、左側に比べて風が強いことは経験則としてよく知られています。最近は人工衛星や飛行機に搭載された遠隔測定機器による観測を通じて、またさまざまな観測データと気象予測モデルを巧みに組み合わせることにより、台風中心周りの風データが比較的高密度で得られるようになりました。

そういった風データを解析した結果、次のようなことが分かってきました。
1. 地表面摩擦の影響が及ばない上空では、台風進行方向のほぼ90度右側で最も風が強い。
2. 地表面摩擦の影響が大きい地上風については、環境風の鉛直シアーが弱い場合は経験則通り進行方向の右側で最も風が強いものの、鉛直シアーが強い場合は風速最大の出現方位は鉛直シアーの影響を受ける。

鉛直シアーが地上風に影響を及ぼす過程は、次のようなものです。鉛直シアーの作用で対流活動が活発となった鉛直シアーの前面から左側にかけての地表面近く【図4「降雨強化域」】では、周囲から強いインフローが流入します(*1)。降雨強化域ではインフローの流入とともに次第に回転風が加速します(*4)。その結果、回転風の風下にあたる鉛直シアーの左側から後面にかけてのアイウォール域内で回転風速がピークに達します【図4「回転風強化域」】。

【図5-上図】と同じ時刻の風の分布図が【図5-下図】です。台風の進行方向から期待される風速最大の出現方位は台風中心の南東側ですが、実際は図では鉛直シアーの左後面にあたる南西側に位置しています。台風が転向後偏西風に流されて移動する状況下では、鉛直シアーは強く、その向きは東ないし北東の場合がほとんどです。したがって、日本列島が台風進行方向の左側に位置していても、決して安心はできないということになります。


(*1) 第1回「台風の基礎知識」/上野 充

(*2) 鉛直軸=その場における重力の方向(物体を吊り下げた糸の示す方向)に沿った軸

(*3) 第5回「台風を動かすさまざまな渦」/上野 充

(*4) 第2回「台風の移動の仕組みと風雨構造」/上野 充

(2014年12月26日 更新)