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日本の火山活動

第10回  御嶽山2014年9月27日の噴火災害

執筆者

藤井 敏嗣
東大名誉教授 火山噴火予知連絡会会長
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戦後最大の火山災害犠牲者

2014年9月27日の御嶽山噴火では死者57名、行方不明者6名にも上りました。1910年の有珠山噴火に始まるわが国の火山観測史上では、144名の犠牲者を出した1926年の十勝岳火山災害に次ぐ大惨事で、戦後最悪の火山災害です。

噴出物量は50万トン程度で、火山噴火としては小規模でした。飛散した大きな噴石も火口から1.5kmの範囲内に収まるなど、爆発力もとりわけ大きなものではありません。しかし、紅葉のきれいな時期の週末の晴天で、昼食をとるために見晴らしの良い山頂付近に多くの登山者が集まっている時に突然発生した噴火であったため、大変な惨事となったのです。山頂近くの山小屋の壁には、数多くの噴石がぶつかった跡が残っています【写真1】。火山噴火の規模は小さくても、噴火の現場近くに人がいれば災害は大きくなるのです。

火山としての御嶽山

御嶽山は活火山としては富士山に次ぐ標高を持つ成層火山ですが、富士山よりはるかに古く、78万年前に活動を始めました。12万年前から6万年前にかけて、「プリニー式噴火」と呼ばれる激しい爆発的な噴火を何度も繰り返しました。このうち10万年前の噴火で関東甲信越にかけて広く堆積した御嶽第一軽石は、富士山の活動時期を知る上で重要な地層となっています。富士山の噴出物はこの軽石層の下にはほとんどなく、この地層より上に限られていますから、富士山の活動が10万年前に始まったということが分かるのです。

6000年前ころまでマグマ噴火を繰り返した後は、水蒸気噴火だけで、マグマの関与は知られていません。歴史時代には活動は低調で、1979年まで噴火の記録はありません。1979年10月28日の早朝に突然、山頂近くの地獄谷に出来た火口列から水蒸気噴火が始まり、数時間後に噴火のクライマックスを迎えました。放出された火山灰や噴石は、今回とぼぼ同量で、50万トン以下でした。歴史時代には噴火の記録はありませんでしたから、当時は死火山が突然噴火したなどと騒がれました。しかし、当時から気象庁は御嶽山も活火山とみなしていましたから、一部のマスコミの勘違いだったのです。

その後、1991年と2007年には火口周辺にのみ少量の火山灰を降らせた非常に規模の小さな噴火が発生しました。1991年5月の噴火では、噴火1か月ほど前から山頂直下を震源とする地震や微動が継続していました。2007年3月の噴火の際には、数か月前から地震活動が活発化し、GNSS(全地球航法衛星システム)による観測でも山体が膨らむような地殻変動が観測されていました。

2014年噴火の概要

2007年噴火の後、御嶽山直下で地震はほとんど起こっていませんでした。ところが2014年9月10日には山頂直下で地震が発生し、1日の回数が50回を超えたのです【図1】。翌日になっても地震の回数は増える一方でしたから、気象庁は火山解説情報を出して、地震が増えていることを関係機関に伝えました。11日には最終的には80回にまで達しましたが、翌12日は地震の回数が1日数回にまで減ったので、噴火警戒レベルはそれまでどおり1の平常レベルのままに据え置かれました。その後地震は少ないながらも続き、以前のようにゼロになることはありませんでしたが、2007年噴火の前に観測されたような地殻変動は観測されなかったために、噴火警戒レベルは据え置かれたままでした。

9月27日午前11時41分に火山性微動が始まり、45分には山頂の南東3kmの地点に置かれた傾斜計が山頂方向に地盤が盛り上がるような変化を示し始めました。その後、11時52分に突然噴火が始まったのです。

南東側に置かれた監視カメラでは山頂方向から火砕流が流下する様子がとらえられました。火砕流が通過した場所では樹木が燃えたり、変色したりした痕跡は確認されませんでしたから、火砕流の温度は300℃よりかなり低かったものと考えられ、低温の火砕流が発生したと報じられました。

噴火開始直後から、地獄谷に開いた西北西から南南東の長さ900mの線上に分布する複数の火口列から、噴煙とともに数十センチ程度の大きな噴石が飛散しました。多くは火口から1km以内に着弾しましたが、中には1.4kmまで達したものもあったようです【図2】。それとは別に、一旦噴煙として上空に持ち上げられた数センチ程度の火山れきも上空から降り注いだようです。逃げ遅れた多くの登山者の中には、降り注ぐ噴石のために命を落とす方々が続出しました。約7,000mの高さまで立ち上った噴煙中の細粒の火山灰は、風に流されて東北東から東の方向に運ばれ、山梨県でも降灰が確認されました。

悲惨な火山災害となった理由

犠牲者の数が多くなったのは、噴火警戒レベルが1の平常に置かれたままだったために、登山者の多くが警戒することなく、火口周辺の見晴らしの良い場所に集中していたためです。当時200人以上が山頂周辺にいたようです。噴火が始まると間もなくクライマックスに達したことも被害が拡大したもう一つの原因です。逃げる暇もなかったのです。中には噴煙が上がっても、噴火だとは分からず記念撮影をしていて逃げ遅れた人もいたようです。

今から考えると、9月10、11日に地震が増えた時点で、噴火警戒レベル2の火口周辺警報が出されるべきだったという意見もあります。確かに、レベル2になっていれば、あれほど多くの登山者が火口の近くにいるという事態にはならなかったでしょう。しかし、他の火山の例などからすると、地震増加でレベル2に上げたとしても、結果的に噴火に至らず、空振りになる可能性も十分考えられます。そのため、警戒レベルは1のままでも、地震が増えたという情報を登山者に直接伝える方法を考えるべきだといった意見もあります。火山噴火の予測のような、不確実な情報をどのように伝えたらよいのかについては、まだ正解は見つかっていません。

今回の災害で分かったように、火山噴火予知はまだ実用には達していません。火山活動の高まりを把握して噴火を予知し、タイミングよく警戒レベルを上げることもありますが、予知ができずに、的確な情報が発信されないまま、今回のように不意打ちの噴火に至ることもあるのです。

活火山に登るときには、火山の様子に何らかの異常がないのかどうか十分に調べたうえで(*1)、万一に備えて、ヘルメットなど自分の身を守る用意をしておくことが望まれます。また、火山で何が危険かを知っておくと、とっさの時には役に立つはずですから、火山についての正しい知識も普段から身につけておきましょう。


(*1)気象庁/「火山登山者向けの情報提供ページ」
http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/activity_info/map_0.html
※NHKサイトを離れます

気象庁/噴火警戒レベル(「警戒が必要な範囲」と「とるべき防災対応」)
http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/kaisetsu/level_toha/level_toha.htm
※NHKサイトを離れます

(2014年12月26日 更新)