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土砂災害

第9回  2014.8.20広島土砂災害から学ぶ

執筆者

池谷 浩
政策研究大学院大学 特任教授
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被害を大きくした原因

2014(平成26)年8月20日、集中豪雨により広島市安佐北区と安佐南区で、107件の土石流災害と59件の崖崩れ災害が発生しました。山麓に広がる住宅地では、死者74名、全・半壊家屋255戸(10月9日、国土交通省砂防部)という悲惨な被害となったのです。

1999(平成11)年に土砂災害を受け、災害からの復興に向けて頑張っていた広島でまた同じような土砂災害が発生しました。被害を大きくした原因として考えられることは、一つは真夜中の豪雨です。1時間に100mmを超し、3時間で200mmを超す大雨が20日午前1時から4時にかけて降りました。被災地の人々の話では、土石流や崖崩れが20日の午前3時20分頃から4時頃にかけて発生していたことが分かっています。この時間帯は、外は真っ暗、加えて豪雨が降っていたので避難しようにも避難できない状況だったと考えられます。実際に被災された人々は、「逃げるに逃げられなかった」と証言しています。

二つには、都市開発が山地に近いところまで拡大していたことです。その結果、住宅地は傾斜のある土地に立地することになり、また住宅地と山の斜面との距離が短くなります。そのため、土石流など土砂の移動現象は大きなエネルギーのまま住宅地に流れ下ることになります。実際にも住宅地には大きな力が加わり、家が破壊されてしまいました。

三つには、そのような密集住宅地に砂防えん堤などのハード対策がほとんどなされていなかったことです。広島県下には土石流発生の危険な渓流が約1万箇所もあり、その対策は大変で、行政は優先順位を付けて対応していたようですが、今回の被災地では、対策工事がまだ十分になされていませんでした。そのため、発生した土石流による災害を防止・軽減することが出来なかったのです。

既指定の土砂災害警戒区域は全国で約35万6000箇所

1999年の広島災害を契機に制定された「土砂災害防止法」(*1)により、全国では約35万6000箇所(2014年8月末時点)で土砂災害警戒区域の指定・公表がなされています。広島県下でも土砂災害の危険箇所約3万2000箇所のうち、約1万2000区域はすでに土砂災害警戒区域として公表されていました。今回の被災地の多くは、この土砂災害警戒区域等に指定されていませんでしたが、土石流危険渓流とその氾濫区域などに関する情報【図1】(*2)は県から公表されていたのです。

避難に関しては、避難勧告の発令が遅れたことが話題となっています。しかし他の地域での土砂災害では避難勧告が事前に出されていても多くの死者が出た災害もあり、特に真夜中の豪雨時の情報発信のあり方には議論が必要と考えています。

広島での土砂災害はこのような状況の中で発生しました。今回の広島土砂災害から、私たちは何を学ぶべきなのでしょうか。

住んでいる地域の危険度を知る

一般的な教訓として言われていることですが、平時から土砂災害の危険な区域を知り、異常時に発信される防災情報を知って、いざという時には安全のための行動をとることが挙げられます。しかし、今回の広島災害のように避難情報が出される前に、崖崩れや土石流などによる土砂災害が発生することがありえます。大雨の時には、仮に情報が無くてもいつもと違って何かおかしいと思ったり、災害の前兆現象を感じたら早めに安全なところに移動することが求められるのです。

もちろん市町村などの行政は判断基準や対象範囲の考え方を決めて、「空振り」を恐れずに避難情報を出すことが大切です。そのためには国や都道府県の専門家が市町村長を支援する仕組みが必要と考えています。また「空振り」に対して住民も「何も無くてよかった」と思う気持ちを持って避難行動をしてほしいものです。特に真夜中の大雨時の移動を考えると、遠くにある公共施設などの避難場所にこだわらず、できるだけ近くに安全な場所を事前に確保しておくことが必要なことといえます。

山麓部の住宅地の防災対策

山麓部での住宅地開発の在り方にも、注意すべき点が顕在化してきました。今回の災害で土石流が発生した渓流のうち、かなり下流域まで家屋の全壊などの被害が及んでいるところがあります。被害が拡大した理由として考えられるのが、山麓斜面の住宅地内を通る急勾配の舗装道路です。その道路勾配は山麓上部の住宅地では10度を超し、中間地のあたりでも5~6度という急勾配になっています。このような道路面上を泥水が1m程度の深さで流れると、秒速は10~20mにもなり、直撃すると木造家屋を破壊する力となりうるのです。すなわち、急勾配の道路は従来の土石流危険区域とは異なる場所を危険な区域にしてしまう可能性が示されました。

そこで広島災害から学ぶ防災対策としては、
1. 住宅地の開発時に、谷の出口に土砂や流木を貯める砂防えん堤を設置し、道路面上を土石流が流れないようにえん堤の下流に流路を作っておくことが必要であること
2. すでに開発されている山麓の住宅地では、急勾配の道路による危険な区域を調査して公表し、真夜中であっても行動がとれる避難体制を整備すること
以上の2点が挙げられます。

このように今回の広島土砂災害はわれわれに新たな課題を示しました。これらの課題を含め、広島災害をより詳細に調査して、今後の対策につなげることが重要なことと考えています。

(*1)「土砂災害防止法」とは
土砂災害(土石流、地すべり、がけ崩れ)から住民の生命を守るために、土砂災害が発生する恐れがある区域を明らかにし、警戒避難体制の整備や一定の行為の制限を行うもので、平成13年4月に施行されました。「土砂災害警戒区域」等に指定されると、土砂災害ハザードマップが作成・配布されたり、警戒避難に関する情報が住民に伝えられます。
今回の広島土砂災害を受け、2014年11月12日、「土砂災害防止法」の改正案が参院本会議で可決・成立しました。土砂災害警戒区域指定のために実施する基礎調査について、都道府県に結果の公表を義務づけ、同調査が進まない都道府県には国が是正を求めることも明記されています。

(*2)「土砂災害ポータルひろしま」
http://www.sabo.pref.hiroshima.lg.jp/portal/map/kiken.aspx ※NHKサイトを離れます

(2014年11月30日 更新)