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地震の揺れと長周期地震動

第7回  長周期地震動による被害

執筆者

纐纈 一起
東京大学地震研究所教授 理学博士
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構造物と共振現象

建物や橋、貯蔵タンクなどの構造物は第4回で説明した原理により、規模が大きくなればなるほど周期の長い、ゆったりした地面の揺れに共振しやすくなります(*1)。共振すると非常に大きく揺さぶられますから、その結果、構造物は被害を受けるようになります。

大規模な構造物の典型的な例としては、野球場や競技場などが挙げられます。例えば、横浜球場では東日本大震災の際の「長周期地震動」に共振してしまい、観客は立ってはいられないほど揺さぶられるということが実際に起きました。

野球場・競技場以外にも、建物なら超高層オフィスビルやタワーマンション、橋なら長大なつり橋や斜張橋(*2)などが大規模な構造物に相当します。そして、東日本大震災の際には、超高層オフィスビルなら東京都庁本庁舎や大阪府咲洲庁舎など、長大橋では横浜ベイブリッジなどで被害が出ました。

石油タンクの被害

「長周期地震動」によるものと認められた構造物被害のうちで、最も早い時期のものは石油タンクの被害です。そもそも「長周期地震動」という言葉ができて、現象が広く知られるきっかけになったのは、2003年十勝沖地震の際に起きた苫小牧の石油タンク火災でした。詳しくは第3回、第6回を参照してください(*3)。

しかし、それ以前にも「長周期地震動」による石油タンク火災があったことは、改めて過去に遡って研究されて、知られるようになりました。最も古いものは、1964年新潟地震の際に新潟市内の石油タンクで発生した火災です【写真1左】。その次が1983年日本海中部地震の際に、秋田市内の石油タンクで発生した火災でした【写真1右】。

このほか、1993年北海道南西沖地震による「長周期地震動」も秋田市や新潟市の石油タンクに被害を及ぼしたと報告されています。最近の例では、十勝沖地震の翌年に発生した2004年紀伊半島南東沖地震と、その5時間前に発生した前震の際に、大阪市や千葉県市原市の石油タンクで被害がありました。また、東日本大震災の際には東日本の各地の石油タンクで被害がありました。

エレベーターの被害と対策

石油タンクより身近な構造物である建物では、今のところ「長周期地震動」により倒壊や全壊に至るような、建物自体への甚大な被害は出ていません(ただし、海外では1985年メキシコ地震の例があります)。しかし、建物内部のエレベーターや各部屋の室内がかなりの被害を受けた例は多数あります。中でも超高層ビルのエレベーターは、非常に高いところから吊り下げられているという構造のため、「長周期地震動」の影響を受けやすいのです【写真2】。

最も古いエレベーター被害(ロープ類の損傷)は、1983年日本海中部地震の際に東京・新宿の超高層ビルで起きました。しかも、この被害が長周期の地震動によるものらしいということは、十勝沖地震に先立つ1989年に報告されていました。

その後も、1984年長野県西部地震、十勝沖地震、2004年新潟県中越地震と繰り返し同じような被害が起きていて、東日本大震災では、東日本だけでなく西日本に及ぶ広い範囲でエレベーターの被害が報告されています。エレベーターは構造を変えることが難しいので、地震で揺れた時に停止させることが対策の基本になっています。揺れを感知する装置が普通の揺れだけではなく、「長周期地震動」にも反応するなどの対策が行われています。

室内の被害と対策

超高層ビルの高層階は「長周期地震動」によって1 m以上も揺れます。窓際に立っていたら、ビル真下の地面が見えるほどです。これではビル自体が持ちこたえたとしても室内は大変なことになります。特に、室内に置かれた家具やじゅう器などが転倒したり、落下したり、すごい速さで移動すると、けがなどの人的被害、場合によっては犠牲者が出てしまう可能性もあります。

東日本大震災ではエレベーター被害と同じように、東日本から西日本にかけての広範囲で室内の被害が起こりました。それ以前にも1995年阪神大震災の際に大阪市などの高層ビルで、2000年鳥取県西部地震の際に神戸市や大阪市などの高層ビルで、2004年紀伊半島南東沖地震と前震の際に大阪市などの高層ビルで室内の被害が報告されています。

室内の被害の対策は、家具やじゅう器などが転倒・落下・移動しないように固定することが基本です。東京消防庁が分かりやすいガイドブックを作っていますので、参考にして対策を行ってください。このガイドブックの作成には私も協力しました【写真3】(*4)。

(*1)第4回「揺れによる構造物の被害」/纐纈一起
(*2)斜張橋=橋桁を、塔から斜めに張ったケーブルで支える構造の橋の形式
(*3) 第3回「長周期地震動とは?」/纐纈一起第6回「長周期地震動の基礎知識」/纐纈一起
(*4) 「家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック」 ©東京消防庁

(2014年10月31日 更新)