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ヒートアイランド現象

第2回  ヒートアイランドはどうして起こる?

執筆者

三上 岳彦
首都大学東京 名誉教授・理学博士
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ヒートアイランドの要因とは

第1回では「ヒートアイランド」の実態を明らかにしました。今回は「ヒートアイランド」が起こる原因について考えてみたいと思います。まず、なぜ都心部は郊外に比べて高温化するのでしょうか。大別すると、三つの要因があります。一つ目は「都市域での人工排熱の増大」、二つ目は「地表面被覆の人工化」、そして三つ目は「緑地・水面の減少」です。どの要因が都市の高温化に最も影響しているのかについては一概にいえませんが、それぞれの要因について説明します。

増大する人工排熱

第一の要因である都市域での人工排熱については比較的理解しやすいでしょう。都市域では人口が集中し、エネルギー消費量が増加の一途をたどっています。人工排熱の原因となる人為的なエネルギー消費量を正確に求めるのは簡単ではありませんが、工場や事業所・住宅・自動車などからは膨大な熱量が排出されます。東京都の調査によると、東京都内の人工排熱量の推計値(1998年度)は区部で平均1平方メートルあたり約24ワットになります【図1】。

東京地域で受け取る年間平均日射量は1平方メートルあたり約130ワットですから、東京区部の人工排熱量は日射エネルギーの20%近くにも達する計算になります。都内でもオフィスビルが集中し、自動車交通量の多い都心部では40ワット以上に達しています。局所的には100ワットを超えて、ほぼ日射量に匹敵するエネルギーを排出しています。

都心3区(千代田区・中央区・港区)の8月(平日)の人工排熱強度は、1日でどのように変化するでしょうか【図2】。オフィスアワーのピークとなる午前11時から夕方にかけて、80ワット前後の排熱強度が継続しています。ところが、夏季のこの時間帯に最も気温が高くなるのは、人工排熱強度の高い都心部ではなく北西部にあります(第1回「巨大都市・東京のヒートアイランド」/三上岳彦 図4(b)参照)(*1)。これは都心部の熱が南からの海風によって、風下方向に運ばれたためと考えられます。

人工排熱は直接大気を加熱して気温上昇に拍車を掛けます。とりわけ、夏季日中の高温出現時には都心部の冷房需要はピークに達し、エアコンの室外機や高層ビルの屋上に設置された冷却塔からの排熱が気温を上昇させるため、さらに冷房需要を増大させるという悪循環を生み出すことになるのです。水冷式の冷却塔からは水蒸気の形で大気に放出される熱(人工潜熱)もあるため、気化熱による気温上昇抑制効果も若干働くと考えられます。しかし、後に述べる緑地や水面からの蒸散・蒸発効果に比べるとかなり小さいといえるでしょう。

地表面が人工物で覆われている

次に、二つ目の要因である地表面被覆の人工化について考えてみましょう。東京駅とその周辺を空から見ると、高層ビルが建ち並ぶとともに、背後には中低層のコンクリート建造物が密集しています【写真1】。左手前には皇居外苑の一部と外堀の水面が見えます。

コンクリートの建造物やアスファルト舗装道路で覆われた都市の地表面は、森林・草地や田畑・裸地が主体の郊外田園地帯とは、熱容量・熱伝導率などの熱的特性、および蒸発効率や反射率・射出率などの放射特性が大きく異なります。例えば、コンクリートやアスファルトは夏季日中に日射エネルギーを吸収して、その表面温度はしばしば50℃を超えます。

夏期の日中に新宿駅周辺地区の上空からヘリコプターで撮影した可視画像(左側)と熱画像(右側)をご覧ください【図3】。幹線道路のアスファルト表面や密集した建造物の表面温度が40℃を超える高温になっていますが、緑地の表面温度は30℃以下になっており、「クールアイランド(低温域)」を形成していることが読み取れます。

夏の炎天下で暑く感じるのは、日射に加えて高温のコンクリート面からの放射熱が加わるためです。さらに、夜間になっても、それらの表面温度は気温よりも高いため周囲の大気を加熱し続けます。これに前述の人工排熱が加わり、都市部では夜間の気温低下が大幅に抑制されるのです。これが熱帯夜を増加させる主な要因です。

コンクリートやアスファルトが水を通さない材質であるという点も、都市の高温化に影響しています。よく知られているように、水は蒸発するときに気化熱を奪って周囲の気温を下げる役割がありますが、非透水性のコンクリートやアスファルトで覆われた都市では、その効果がないため高温化が促進されます。

最近、東京では「保水性舗装」の実験的試みがなされています。「透水性舗装」の場合は雨水が地中にまで浸透するため、地下水面の低下を防ぐ効果がありますが、ライフラインが地下に張り巡らされている都市部では、地表面で雨水を保つ舗装の方が好まれるのかもしれません。ただし現状では保水能力が十分とはいえず、「雨が降らない日が続くと効果が薄れてしまう」「コストが高くつく」といった問題点もありますが、改良を加えて、すべての道路が保水化されることを期待したいと思います。

緑地・水面の減少

三つ目の要因は、緑地・水面の減少です。東京では多くの中小河川が暗きょ化され、改修されて水面の占める割合が大きく減っていることから、水面からの蒸発による気化熱の効果も弱まっていると考えられます。幸いなことに、荒川・隅田川・多摩川といった比較的大きな河川の水面は保全されており、東京湾から吹き込む冷涼な海風を都内に導いて「ヒートアイランド」を緩和する「風の道」としても有効に働いています。

水面とともに、気温上昇を抑制する効果の高い緑地も戦後は著しく減少しています。都市化の進展は、郊外では畑地や森林を潰して住宅地を広げ、都心部では木造の低層建造物からコンクリート造りの中高層建造物への転換という形で、緑地の大幅な減少をもたらしました。

緑地の減少による気温上昇を定量的に見積もるのは困難ですが、私たちの観測調査からは、20ヘクタールを超える都内の大規模緑地では、周辺市街地との気温差が平均でも2℃に達することが確認されており、緑地内冷気の周辺への流出(にじみ出し現象)によって、市街地の高温化を幾分かでも抑制する効果は十分に期待できます。

今回は「ヒートアイランド」が起こる原因を探ってみました。次回は、「ヒートアイランド」が及ぼすさまざまな影響について考えてみましょう。

(*1)第1回「巨大都市・東京のヒートアイランド」/三上岳彦 図4(b)

(2014年9月30日 更新)