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津波と防災

第1回  ハードとソフトの両面から対策 ~津波に備える~

執筆者

佐藤 慎司
東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻教授
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日本は津波常襲国

日本周辺の沿岸では、海溝付近で巨大地震が繰り返し発生し、津波が襲ってきました。津波は、海底の地盤が地震などで変形することにより発生します。特に、水深が大きい海溝付近は、大陸・海洋の2種類のプレートの境界になっていることが多く、プレートの運動によって巨大な地震が周期的に発生します。

例えば、日本海溝では、大陸プレートである北米プレートの下に海洋プレートの太平洋プレートが数cm/年の速さで潜り込んでいるため、100年に一度ぐらいの頻度で、巨大な地震が発生します。2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震もこのようにして巨大地震となり、数100kmの領域の海底地盤が大きく変形しました。

プレート境界で発生した地震によって、海底地盤が変形する様子を示した図をご覧ください(図1)。海溝付近では地盤が隆起し、大陸プレート側の広い範囲で地盤が沈み込むのが一般的です。このような地盤の変形に伴って、海面が変形し、これが津波の「初期波形」となります。地震が収まった後には、津波が四方に広がっていきます。津波の高さは、水深が浅くなるにつれて大きくなるため、深い海域で発生した津波が沿岸に達するまでには、数倍の高さになって海岸に押し寄せることになります。

沿岸地形と津波の変形

沿岸に押し寄せる津波は、海底や沿岸の地形の影響を受けて変形します。例えば、福島県沿岸の地形と「津波痕跡高さ」を東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループによる計測値に基づいて図化した(図2)を見ると、福島県沿岸の地形は、岩手県と同様に、海に向けて張り出した地形となっています。

このような地形は、波を集中させる性質があります。ちょうど、凸レンズが光を集めるのと同じ理屈です。このため、福島県や岩手県の海岸を襲う津波の高さは他の地域と比べて高くなる傾向があります。さらに福島県沖合では、(図2)に示した等深線図で確認できるように、いくつかの場所に周囲より浅い地域があるため、その部分でも津波のエネルギーが集中します。

そのため、津波が集中して高い波が襲ってくる地域と、やや低い波がくる地域が生じることになります。「津波痕跡高さ」を見ると、震源に近い北部では痕跡高さが高く、南部で低くなる傾向がありますが、その分布は単調ではなく、北部・中部・南部の少なくとも3か所で波が集中することが確認できます。

さらに、沿岸付近の海底地形は、北部では遠浅になっているのに対し、南部では急に深くなる急勾配の地形となっています。津波のスピードは水深が深いほど速いので、津波は南部に先に到達し、その後、徐々に北部に到達していくことになります。つまり、福島県では津波は南から襲ってくるため、海底地形は高さだけでなく、向きにまで影響を与えることになります。

さらに岩手県の海岸では、リアス式海岸の入り組んだ地形が発達しています。このような地形で見られるV字型の湾地形では、幅の広い湾口から襲ってきた津波が徐々に幅を狭めていく湾地形によって増幅され、V字の頂点に当たる湾の最も奥では、極めて大きな津波となる場合があります。このように、津波の高さや向きは、沿岸の地形に大きく影響を受けるため、津波が集中する地域などをあらかじめ確認しておくことが重要です。

ハードとソフトの組み合わせ

津波の高さは、地震の規模や特性だけでなく、海底や海岸の地形によっても大きく変動するため、事前に詳細に予測することは困難です。また、洪水や高波に比べて、発生頻度が低いことや、瞬時的に被害をもたらす地震の揺れと比べて、津波が発生してから海岸を襲うまでには、ある程度の時間があることなどが津波災害の特徴となります。そのため、津波対策は堤防などの構造物による「ハード対策」と、集落の高所移転・警報・早期避難などによる、いわゆる「ソフト対策」を組み合わせて総合的に進められてきました。

「ハード対策」と「ソフト対策」の組み合わせによる総合的な津波防災の概念を示した図をご覧ください(図3)。横軸は津波の規模(高さ)で、縦軸には負の方向に被害の大きさを示してあります。「ハード対策」では、同図に示すように既往最大津波の記録などを基に計画対象とする津波の規模を決定し、高波や高潮の作用も踏まえたうえで、これらに基づいて設計される海岸堤防により陸地への浸水を防護します(=防災)。

しかし、堤防は、その天端(てんば)(*1)高さを超えない規模の波に対して設計されるものなので、それを大きく超える規模の津波に対しては、堤防の安定性を含めて、その機能を保証できません。津波が堤防を越えた場合でも、実際には堤防の粘り強さによって、堤防はすぐには破壊されませんが、(図3)では、安全側の考え方に立って、堤防を越える津波に対しては、堤防は全く役に立たないものとして被害の線を描いてあります。堤防を越えて氾濫が生じる場合には、早期避難を中心とする「ソフト対策」で被害の最小化を図る(=減災)というのが総合的な津波防災の理念です。

海岸堤防の高さ

2011年東北地方太平洋沖地震津波で巨大津波に襲われた東日本沿岸でも、「ハード対策」と「ソフト対策」を組み合わせた、総合的な津波対策が取られていました。2011年東北津波よりも以前に岩手県を襲った津波の、海岸付近での高さと「堤防高さ」を比較したものを示しました(図4)。

明治三陸津波(1896年)は特に岩手県北部に高い津波をもたらしたため、北部地域では高い堤防が整備されていたことが分かります。三陸地方は、記録に残る津波の高さが高く、多くの海岸では、高波や高潮の打ち上げ高さより津波のほうが高いため、津波の高さで「堤防高さ」が決定されています。

しかし、日本の海岸は台風や冬季風浪による厳しい海象にさらされているため、全国的には、このような海岸はむしろ例外的であり、津波より、高潮や高波の打ち上げ高さのほうが高くなる場合が一般的です。東北地方の被災地でも、仙台湾や福島県の海岸では、ごく一部の例外を除いて、津波ではなく高潮や高波で「堤防高さ」が決定されています。

岩手県の例(図4)でも、南部の海岸では、明治・昭和・チリのそれぞれの津波による既往最大の津波高さは低く、高波の打ち上げ高さのほうが高かったことが分かります。そのため堤防高さは高波の高さで決定されていました。例えば陸前高田市では、チリ津波(1960年)などで、海岸の松林が津波の背後陸地への氾濫を軽減する効果があったことが報告されていますが、松林の中にそれに覆われる形で、高さ5~6mの海岸堤防が整備されていました。

注釈(*1):天端(てんば)=ダムや堤防の一番高い部分

(2014年8月28日 更新)