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地盤と災害の関係

第1回  良い土地と良い地盤はどう違う? ~災害に強い土地の見分け方~

執筆者

若松 加寿江
関東学院大学理工学部 教授 博士(工学)
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良い土地と良い地盤

2011年の東日本大震災以降、一般の人々の間でも“地盤”という言葉が盛んに交わされるようになりました。それまでは、“土地”でした。地盤と土地、どう違うのでしょうか? 筆者流の解釈では、土地も地盤も、ともに地面を指していますが、視点が異なります。土地は資産価値や作物などの生産性の視点から、これに対して地盤は構造物など物を支える能力(支持力)や安全性の視点から、地面を評価するときに使います。

地価が高い土地の反対は安い土地です。「良い地盤」の反対は、「悪い地盤」です(図1)。では、地価が高い土地は、「良い地盤」なのでしょうか? 必ずしもそうではありません。筆者は最近の50年間に首都圏のベッドタウンとして急速に発展し、現在では高級住宅地と目される地域の地価と地盤条件の関係を調べたことがあります。

地価は、都心に近く駅周辺の生活利便施設が充実している場所ほど、高いという傾向が見られ、地盤の良否との関係は見いだせませんでした。東日本大震災では、住宅が液状化や宅地造成地の崩壊など、地盤がらみの被害が数多く発生しました。これをきっかけに、人々の地盤への意識や関心が高まったことは大変良いことです。地盤の良否を詳しく調べるには、地盤調査に基づく専門家の判断が必要ですが、このコラムでは、土地選びの段階で行える「地盤の良否の見分け方のポイント」や「自然災害との関係」を紹介していきたいと思います。

地盤の良さは年功序列で決まる

地盤を理解するには、地盤という集合体を形成する“土”についての基礎知識がちょっとだけ必要です。土は、土の粒子の直径(粒径)の大きさによって、細かい方から粘土(直径0.005mm以下)、シルト(0.005~0.075mm)、砂(0.075~2mm)、礫(れき)(2~75mm)に分類されます。このようなさまざまな土の粒子が混じり合い、重なり合って地盤を形成しています。

“シルト”は聞き慣れない用語だと思いますが、粘土のネバネバ感と砂のザラザラ感の両方を兼ね備えた土です。直径1mm以下の土をイメージできない人は、1,000倍して考えてみてください。粘土は直径5mm以下で小粒の真珠くらい、粗い砂は直径2m近い水車くらいの大きさです。その粒の大きさの違いに驚かれるでしょう。以上のような土が、どんな配合(割合)で地盤をつくっているかによって、「水を通しやすい」「沈下しやすい」「土粒子がバラバラになりやすい」などの地盤の性質が全く異なり、また地盤に関わるトラブルも異なってきます。

地盤の性質を大きく左右するもう一つの因子は、「固さ」です。「固さ」は土が堆積してからの年月に大きく依存します。堆積してからの年月が長いほど固い地盤といえます。堆積してから2万年未満の土は軟らかく、一般に「沖積層」と総称され、支持力が小さい地盤です(図2)。岩石のように固くなるまでには何千万年を要します。つまり、地盤は古いほど固くて「良い地盤」、新しいほど軟らかくて「悪い地盤」で、年功序列の世界なのです。

地盤と地形は切っても切れない仲

地盤のおよその年齢は、地形を観察することで分かります。地形は、海面からの高さ(標高)の低いものから順に、低地・台地・丘陵・山地に分けることができます。地盤の年齢も、順番に若い(軟弱)から老齢(固い)に変化していきます(図3)。日本の大都市は水運を利用するために、入江や大きな川の河口に立地して発展してきました。地盤の「固さ」より交通の利便性を優先させた選択といってよいでしょう。

台地は低地より数m以上高い土地で、地表面の起伏はほとんどなく、年齢にして2万~200万歳、地盤条件は良好です。東京では下町(低地)と山の手(台地)と区別して呼ばれ、江戸時代から都市機能の住み分けが行われていました。丘陵は台地よりさらに固い地盤でできていますが、起伏があるため宅地にするには、斜面を削ったり、盛り土をして平らにする必要があります。

本来は固い地盤なのに、人の手を加えたために地盤条件が改悪されてしまっている場所があります(本コラムの3回目で解説します)。山地は丘陵よりさらに固い地盤(岩盤)からなっていますが、都市機能が集中する低地へのアクセスが悪いこと、自然条件が厳しいことなどから、人口が少ないことはいうまでもありません。以上のように、その土地が、いずれの地形に属しているかで、地盤の「固さ」や受けやすい自然災害を大まかに知ることができます(図3)。

地盤は生い立ちを反映している

次に、最も若い地盤である低地に注目してみましょう。その場所に、どんな土がどんな状態で堆積しているかは、偶然の結果ではありません。「地盤の生い立ちを反映」しています。地盤の生い立ちは多種多様ですが、最も身近な例を紹介しましょう。

地球の気候は、寒冷化と温暖化を繰り返しており、寒冷期には地球は氷で覆われ海面が現在より低くなっていました。逆に温暖期には北極や南極などの氷が解け出し、海面が高くなりました。最後の温暖期のピークは、約7000年前の日本では縄文時代にあたる時期でした。このとき、日本列島周囲の海面は現在より2~3m高かったために、海が内陸に入り込んで内湾を形成していました(図4)。

この現象は「縄文海進」と呼ばれており、日本での低地の主要な生い立ちになっています。このときの海域には、海に浮遊していた土が海底に静かに沈殿し、シルトや粘土が堆積していきました。その厚さは、海だった時代が長い地域ほど厚くなっています。この地層は、関東地方では「有楽町層」と呼ばれていますが、日本全国に存在し、その地域にちなんだ名前がつけられています。厚いところでは30m以上の地域もあり、きわめて軟弱です。

どのくらい軟弱かというと、東京の日々谷第一生命館(1938年竣工、現存)を建てるために地下を掘削した時、十数mの深さから生きたドジョウが出てきました。「ドジョウが泳ぎ回れるぐらい」軟弱なのです。その土地の直下に、この軟弱層があるか否かは、その場所の標高で見当をつけることができます。標高5m以下の土地には「有楽町層」のような軟弱な地層が存在すると見てよいでしょう。

(2014年8月28日 更新)