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PM2.5、黄砂、酸性雨

第4回  どういう仕組みで酸性雨になるの? 

執筆者

小島 知子
熊本大学自然科学研究科 准教授
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酸性ってどういうこと?

「酸性雨」とは雨水が酸性を示すことをいいますが、まず「水が酸性を示す」という意味から説明しましょう。水の分子は水素(H)原子2個と酸素(O)原子1個からなり、H2Oという式で表されます。ほんの一滴の水も無数のH2O分子から成り立っているわけですが、その一部は水素イオン(H)と水酸化物イオン(OH)に分かれて存在しています(*1)。もともとH2Oだったものが分かれているのですから、まったく混じりけのない純粋な水の中では水素イオン(H)と水酸化物イオン(OH)の数は同じで、これは中性の状態です(図1-1)。そこに別の物質が溶け込んでイオンが付け加わり、水素イオン(H)の方が水酸化物イオン(OH)よりも多くなると酸性、逆に水酸化物イオン(OH)の方が多くなるとアルカリ性(塩基性)になります。

例えば塩化水素(HCl)が水に溶けると水素イオン(H)と塩化物イオン(Cl)が生じ、水素イオン(H)が元からあった分に付け加わるため、その水溶液は酸性を示します(図1-2)。このように水に溶けて水素イオン(H)を生じる物質が「酸」で、塩化水素(HCl)のような無機酸のほか、酢酸や乳酸などの有機酸があります。有機酸には食物に含まれるものもあり、口にすると酸っぱい味として感じられます。

酸性の水溶液にアルカリ性の物質を加えると、余分な水素イオン(H)が新しく加わった水酸化物イオン(OH)と結びついてH2Oに戻ります(図1-3)。その結果水溶液は中性に近くなり、このことを「中和」といいます。

pHとは酸性の強さを示す指標

料理に酢をたくさん加えると酸味が増すように、「酸」を多く加えるほど水溶液の酸性は強くなります。「酸」を加えればそれだけ水素イオン(H)が増え、その水素イオン(H)の量が酸性の強弱を決めるものだからです。それを数値で示すのがpH(ピーエイチ)で、単位体積(1リットル)あたりの水溶液中に存在する水素イオン(H)の量(濃度)から導かれます。

純水中に存在する水素イオン(H)の濃度は決まっていて、モルという単位を使って表せば、1リットルあたり0.0000001(1000万分の1)モルというごく小さな値になります。このような値を表すのに、0.1(10分の1)を何回掛け合わせれば水素イオン(H)のモル濃度となるのかを示したものがpHです。例えばpHが2である場合、0.1を2回掛け合わせた0.01モルというのが水溶液1リットルあたりの水素イオン(H)濃度ということになります。0.1をたくさん掛け合わせるほど値は小さくなりますので、pHが大きいほど水素イオン(H)濃度は低く(酸性が弱く)なっていき、pHが1違うと水素イオン(H)の濃度は10倍異なります。

「中性」の場合、水素イオン(H)と水酸化物イオン(OH)の濃度は等しく、それぞれ1リットルあたり1000万分の1モルですから、pHは7です。水酸化物イオン(OH)の濃度がそれより高くなる(アルカリ性)と、水素イオン(H)は水酸化物イオン(OH)と結びついてH2O になりやすく、中性の場合よりも濃度が減少していきます(*2)。そのため、アルカリ性ではpHは7より大きく、アルカリ性が強くなるとともに14まで変化します。

なぜ雨が酸性になるのか?

地球上に存在する水は、ある時は川から海に流れ込む水として、またある時は大気中に含まれる水蒸気や高山の雪氷として、その姿を変えながら循環しています。海水や土壌から蒸発して大気中に出た水蒸気は上空で冷やされ、小さな水滴や氷晶となって雲粒となります。それらの雲粒はやがて雨や雪として地上に降り注ぎ、川や地下水の流れとなって海に向かうというサイクルが繰り返されます。

水蒸気が凝結する際には、ほとんどの場合大気中の粒子状物質(PM)を核として水滴ができますので、その水滴は核となった物質を含んでいます(図3-1)。また、こうしてできた水滴、すなわち雲粒と周囲の大気との間では物質のやりとりが行われ、大気に含まれる気体の成分が雲粒に溶け込みます(図3-2)。このように雲粒は純水ではなく、何がしかの物質が溶け込んでいるものです。

さらに、雲粒が多数集まり雨粒となって落下してくる途中、大気中に浮遊している粒子状物質(PM)や気体の分子とぶつかってそれらを取り込むため、より多くの物質を溶け込ませることになります(図3-3)。こうして雨粒に溶け込む気体や粒子状物質(PM)には酸性のものが多く、これらによって雨が酸性に傾くようになるわけです。

酸性雨の原因物質とは

地球温暖化の原因といわれる二酸化炭素(CO2)も、雨を酸性にする物質の一つです。二酸化炭素(CO2)はどこの大気にも含まれており、雨粒に溶け込んで炭酸となるため、どんなにきれいな大気でも、落ちてくる雨粒はpHが5.6という弱い酸性を示します。ただし、これは大気汚染と関係なく起きますので、「酸性雨」とはみなされません。

雨水のpHをこれよりも引き下げる代表的な物質は、硫黄酸化物(SOx)と窒素酸化物(NOx)です。これらの多くは水とよく反応し、硫黄酸化物(SOx)は硫酸、窒素酸化物(NOx)は硝酸といった「酸」をつくり出します。こうしてできた硫酸などの液滴は、粒子状物質(PM)として大気中に漂います。その間、大気に含まれるアンモニア(*3)などと反応して「中和」されますが、こうして「中和」した粒子状物質(PM)の多くも、水に溶ければやはり弱酸性を示します。硫黄酸化物(SOx)も窒素酸化物(NOx)も、工場や火力発電所からの排煙、自動車の排気ガスに多く含まれる典型的な大気汚染物質です。硫黄酸化物(SOx)の一つである二酸化硫黄は火山ガスにも含まれるため、火山噴火で多量のガスが噴出すると、局地的に強い酸性の雨が降ることもあります。

大気中の水溶性有機化合物として存在するギ酸や酢酸、シュウ酸などの有機酸も、雨の酸性度に寄与します。このような有機酸には光化学オキシダントの反応により生成するものもあり、大気汚染がさまざまな形で酸性雨に関わっていることを示す例といえるでしょう。

(*1):全ての物質を構成する最小単位である原子は、原子核(陽子+中性子)とその周りにある電子からなります。原子またはそれらの集まった原子団が1~数個の電子を放出したり受け取ったりして電荷を帯びたものがイオンです。電子を放出した場合は正の電荷、受け取った場合は負の電荷を持ちます。水溶性の物質のほとんどは、水に溶けると正と負の対になったイオンとなります。

(*2):どのような水溶液でも、そこに含まれる水素イオン(H)と水酸化物イオン(OH)のモル濃度を掛け合わせるとほぼ一定であり、それが1リットルあたり100兆分の1(0.1の14乗)という値です。pHの数値が14まであり、中性のときに7となるのはこのためです。

(*3):大気中のアンモニア(NH3)は主に生物(人間を含む)の活動によって放出されるもので、地表に近いほど濃度は高くなります。アンモニアは水に溶けやすい気体で、水に溶けるとアンモニウムイオン(NH4)と水酸化物イオン(OH)を生じるアルカリ性の物質です。

参考文献:「酸性雨と大気汚染」 片岡正光・竹内浩士 共著 三共出版

(2014年8月28日 更新)