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台風の基礎知識

第4回  台風と温帯低気圧

執筆者

上野 充
電気通信大学講師、横浜国立大学講師 理学博士
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発生域の違い

2013年10月に伊豆大島で豪雨による大きな災害を引き起こした台風26号もそうでしたが、盛夏期を除いて、日本に接近・上陸する台風のほとんどは典型的な台風の構造を失い、温帯低気圧の構造にやや近いものになっています。ここでは台風と温帯低気圧の違いについて見ていきます。

まずは(図1)をご覧下さい。対流圏中層での平均的な気温の分布を示したもので、北半球、南半球を問わず等温線が中緯度に集中していることが分かります。これは中緯度では南北の気温差が大きいことを意味しています。南北の温度差をエネルギー源とする温帯低気圧の主な活動域が中緯度であるのもうなずけます。

台風が主として熱帯の海洋上で発生し発達する理由の一つは、海面水温が高く台風の燃料である水蒸気が豊富にあるということです(第1回「台風の基礎知識」/上野 充)*1)。実はもう一つの理由が(図1)に隠されています。中緯度のように南北で温度変化の大きな場所は、高度による風速変化、つまり環境風の鉛直シアー(第2回「台風の移動の仕組みと風雨構造」/上野 充)*2)が大きな場所でもあります。気温が場所によらずほぼ一定である熱帯は、環境風の鉛直シアーが一般に小さく、その点でも台風の発生・発達にとって都合の良い場所なのです。

ところで(図1)をもう少し細かく見ると、ユーラシア大陸の東岸にある日本付近は等温線が特に集中した地域であることが分かります。同大陸の地形的・熱的な影響により、日本付近は世界でも有数の温帯低気圧の発生・発達地帯でもあります。温帯低気圧の多発地帯であり、南方には熱帯低気圧(台風)の最多発生海域を臨む日本付近は、低気圧がもたらす雨や雪、また風による災害の脅威を世界で最も受けやすい地域の一つだといってよいでしょう。

構造の違い

低気圧や高気圧などの気圧配置が記載された地上天気図は、天気予報などを通じて最もよく目にする天気図ですが、低気圧が存在するのは地上だけではありません。5,000m上空や1万m上空にも、地上天気図中の低気圧と一つながりの低気圧が存在します。台風の場合は低気圧の中心位置は高度によらずほぼ一定です(第1回「台風の基礎知識」図3/上野 充)*1)。

では温帯低気圧についてはどうでしょうか。温帯低気圧は南北の温度差をエネルギー源としていますから、発達中の低気圧はその温度差を「消費」することで新たな運動エネルギーを獲得します。そのためには、低気圧に伴う風が南側の暖かい空気を北向きに、北側の冷たい空気を南向きに輸送する必要があります。そうすることで正味北向きに熱が輸送され、南北の温度差を減らすことになるからです。このような熱輸送は、中層の低気圧中心の東側(南風域)が西側(北風域)より気温が高ければ達成可能です(図2)。

上空の空気の温度が高くて軽ければそれだけ気圧が低くなりますので、地上の低気圧の中心は中層の低気圧の中心より東に位置しています。つまり、発達中の温帯低気圧の場合、台風と異なり中心は上空に行くほど西に傾いているのです。この結果、温帯低気圧では、地上の低気圧中心は東日本の東経140度付近に達しているのに、5,000m上空の低気圧の中心(気圧の谷)は日本海西部の東経130度付近といったことが起こります。

水蒸気の影響

台風が熱帯から中緯度にやってくると南北に大きな気温変化を伴う偏西風帯の影響を受け、その多くは温帯低気圧の構造へと変化します。これは台風の温帯低気圧化(温低化)と呼ばれる現象です。中緯度での影響がもし海面水温の低下や陸地との遭遇だけであれば、台風は燃料である水蒸気の供給を次第に絶たれ、ひたすら衰弱の道をたどることになります。しかし実際は、中緯度に達し南北の温度差という新たなエネルギー源を獲得することにより、温帯低気圧として再発達することもあるので警戒が必要です。これまでの統計では、温低化した台風の3割ほどが温帯低気圧として再発達することが知られています。  

台風が温帯低気圧になったからといって、水蒸気の影響がゼロになるわけではありません。通常、温帯低気圧も雨雲を伴っています。これは、温帯低気圧中でも台風と同じように水蒸気が凝結して空気を暖めていることを意味しています。だとすれば、そのことが温帯低気圧の発達に影響を与えていてもよさそうです。

実際、2013年1月14日(成人の日)に首都圏に大雪をもたらした南岸低気圧のように、急速に発達する温帯低気圧(「爆弾低気圧」と呼ばれることも)の場合は、しばしば凝結熱による空気の加熱が発達を後押ししていることが指摘されています。中・高緯度で発生する低気圧の中には、凝結熱が発達を助長しているだけでなく、条件次第では発達の仕組みや構造まで台風そっくりになる低気圧もあります。ポーラーロウと呼ばれる低気圧がそれです(図3)。ポーラーロウは主に冬季の海上で発生し、局地的に大雪や突風などの被害をもたらすことがあるため注意が必要です。

台風と寒冷渦

温帯低気圧の発達に伴い偏西風の蛇行が大きくなると、気圧の谷を構成し南側をう回する流れ(図2)が、ついにはもともとの偏西風帯から切り離されて孤立した渦になることがあります。これは「寒冷渦」(「切離低気圧」とも)と呼ばれるもので、大きな特徴の一つは、台風のように渦の中心軸がほぼ直立していることや等圧線が円形に近いことです。台風との大きな違いは、高度が非常に高い所を除いて、中心部の気温が周囲より低い寒気核構造をしていることです(図4)。この結果、寒冷渦に伴う低気圧性の循環は対流圏の上層ほど顕著で、地上付近でははっきりしないこともあります。寒冷渦内では上空に寒気があるわけですから、寒冷渦がやってくると大気の状態は不安定となり、雷雨や突風に見舞われたりします。冬期の寒冷渦は本州日本海側の沿岸部や平野部に豪雪をもたらすこともあります。

台風と寒冷渦の温度構造の比較は、台風という大気現象の特徴を浮き立たせるのに効果的です。(図4)に示すように台風は暖気核構造をしているために、地表面近くで最も風が強く、そのため地表面摩擦により急速に運動エネルギーを失ってしまいます(第2回「台風の移動の仕組みと風雨構造」風構造の特徴/上野 充)*2)。もし新たな運動ネルギーの獲得がなければ台風は1日程度で衰弱してしまいます。その点、低気圧性循環が対流圏の上部で最も強い寒冷渦は、地表面摩擦の影響を受けにくい構造をしているといえます。実際、寒冷渦は台風のように自身を維持する特別な仕掛け(第1回「台風の基礎知識」台風の燃料補給の仕組み/上野 充)*1)を持たないにもかかわらず、数日から1週間程度活動を持続させることができるのです。

*1)第1回「台風の基礎知識」/上野 充
*2)第2回「台風の移動の仕組みと風雨構造」/上野 充

(2014年7月31日 更新)