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長周期地震動の基礎知識

第6回  長周期地震動の基礎知識

執筆者

纐纈 一起
東京大学地震研究所教授 理学博士
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今回のシリーズは「3回のコラム構成」となりますので、地震による揺れの全般を取り上げるのではなく、その中でも「長周期地震動」に絞り、今回のシリーズの中で、ある程度完結した解説をしていきたいと考えています。
その初回である今回は、「長周期地震動」に関する基礎知識をお伝えしますが、基礎知識ですので、これまでと多少重複する部分がでることをお断りしておきます。

地震と地震動の違い

まずは言葉の説明、それも“地震”の説明から始めましょう。地震を文字通り解釈すれば地面が震える(揺れる)ことを意味しますが、専門家は揺れではなく、揺れを発生させる地中の現象を地震と呼んでいます。しかし、たとえばテレビで『○×地方で地震がありました』とアナウンスされるときは(写真1)、視聴者が感じている揺れを指しているのですから、一般の方は地震を揺れの意味で使っていることが多いわけです。

これでは混乱するので、専門家の間で揺れを意味するときには「動」を追加して「地震動」と呼ぶことになっています。従って、「長周期地震動」という言葉の後半は地震による揺れを意味しています。大本の地中の現象である地震の規模は、マグニチュードと呼ばれる単位で表され、おおよそ0から9ぐらいの値になっていますが、とても小さな地震はマイナスのマグニチュードになることもあります。これに対して、「地震動」の強さは震度という単位で表され、0から7までの値になっており、震度5と6は強と弱の2段階に区分されています。

長周期とは?

それでは、「長周期地震動」の前半の「長周期」は何を意味しているのでしょうか。実は、「地震動」も海の波と同じような波動現象の一種なのですが、そのため「地震動」を地震波と呼ぶこともあります。海の波の場合、海面上の一点に注目すれば、そこの海面は波によって上下に振動し、その山と谷がほぼ一定の時間間隔で繰り返しているはずです。

この時間間隔は周期と呼ばれています(図1)。海の波が海面の振動ならば、「地震動」では地面が振動するわけですが、長周期とはこの振動の周期が長いということを意味しています。以上をまとめると、「長周期地震動」とは周期が長く、ゆったりと振動する地震の揺れを意味しています。

なお、「地震動」は上下方向だけでなく水平方向にも振動し、一般に水平方向の方が大きく揺れます。この水平方向の大きな揺れはS波や表面波と呼ばれていますが、「長周期地震動」は主に表面波で構成されていると考えられています。これらのことは次回以降に詳しく説明します。

長周期地震動の始まり

この「長周期地震動」という言葉が使われ始めたのは、2003年9月に起きたマグニチュード8.0の十勝沖地震の時でした。震源から250 km離れた苫小牧市では市内の震度が5弱、建物などに被害はほとんどなかったのですが、苫小牧港周辺や郊外の石油備蓄基地にある大型の石油タンクだけが被害を受け、そのうち2基で火災が発生しました(写真2)。この奇妙な現象はメディアの注目を集め、取材を受けた私たちは、当時、用語として存在していた「地震動」や「長周期」などの言葉を使って説明しました。ところが、報道では二つの言葉を一つにして「長周期地震動」と表記されることが多く、結局それが定着していきました。

つまり、「長周期地震動」は「集中豪雨」や「直下型地震」などと同じく、メディアによる造語なのです。従って、実は2003年十勝沖地震以前の1964年新潟地震、1968年十勝沖地震、1983年日本海中部地震、1993年北海道南西沖地震などで「長周期地震動」が観測されていましたが、当時はそのように呼ばれることはありませんでした。これらの地震については次回以降で詳しく述べることにします。

長周期地震動の研究

大型石油タンクだけが被害を受けた原因はその後の研究で、タンク内の石油が揺れ動く(スロッシング;写真3)ときの固有周期(一番動きやすい周期)と「長周期地震動」の周期が合ってしまったことによる、一種の共振現象であると確認されました。当時、首都圏で急増していた超高層ビルは、大型石油タンクのスロッシングと似た固有周期を持っています。もし関東平野で「長周期地震動」が発生すれば、それらが甚大な被害を受ける可能性が高いということで、多くの研究者の注目を集めました。地震学は、起きた現象を解析するという経験科学の側面が強いのですが、「長周期地震動」の研究は実際に超高層ビルが被害を受ける前に、研究者が危険性を予想して研究が進められたという特異な事例になっています。

そして、2011年3月11日、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)による「長周期地震動」が東京・新宿などの超高層ビルをゆらりゆらりと10分間、1 mほども揺らすに至って、日本の超高層ビルは初めて「長周期地震動」を体験することになりました。驚くべきことに、東京からさらに400 km離れた大阪府咲洲庁舎でも同じく約10分間、最上階の52階では最大1mを超える揺れが確認されています。

(2014年7月31日 更新)