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ヒートアイランド現象

第1回  巨大都市・東京のヒートアイランド

執筆者

三上 岳彦
首都大学東京 名誉教授・理学博士
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100年間で3度も上昇した東京の気温

東京を例に、都市の「ヒートアイランド」の実態を見てみましょう。まず東京都心部と全地球(グローバル)の年平均気温の変化傾向を、基準年(1961年~1990年)からの偏差で示した(図1)をご覧ください。地球温暖化の指標になるグローバル平均気温は、空間的に平均化されているために年々の変動が小さくなっており、過去100年間の気温上昇率を直線で当てはめると0.75℃/100年になります。

一方、気象庁のある東京都心部では、年平均気温が過去100年間(1911~2010年)に3.02℃も上昇しています。ただし、東京1地点のデータのみに基づいていますから、年々の変動幅はかなり大きくなっています。変化傾向だけを比較しても、地球温暖化の約4倍の早さで気温が上昇していることになります。

東京首都圏のヒートアイランド

夏になり、日中の暑さが増してくると、「ヒートアイランド」という言葉が新聞やテレビをにぎわせますが、ほかの季節ではどうなのでしょうか? 実は、都市の中心部が周辺郊外や田園地帯よりも気温が高いという現象は、冬季の早朝に最も明瞭に現れることが経験的にも知られているのです。冬の寒い朝、郊外の自宅周辺では氷が張り、霜柱が立っているのに、都心部のオフィス街では厚手のコートが必要ないと感じる経験をした人も多いと思います。

東京首都圏の「ヒートアイランド」の実態を詳しく調査するために、●(黒丸)で示した地点に多数の自動記録式温度計を設置して、長期間観測したデータを基に季節別の等温線を引いたものが(図2)です。冬季(12月~2月)と夏季(6月~8月)について、1日の最高気温と最低気温の平均値の分布が示されています。等温線の間隔は0.5℃で、数値は気温(℃)です。

まず、冬季(左図)早朝の等温線を見ると、東京都心部に5℃以上の高温域があります。ここを頂点としてほぼ同心円状に周辺の気温が低くなっており、同時に北や西の内陸部にいくほど気温は下がっています。まさに、都心部を頂上とする「熱の島(Heat Island)」が形成されていることが分かります。都心部と郊外の気温差は5℃を超えています。

一方、夏季(右図)の日中の等温線は、冬季早朝とは全く異なる分布を示しています。気温が最も高いのは都心部ではなく、北西部の埼玉県にあり、29℃以上の高温域が都心部から北西方向に延びています。東京の湾岸部や千葉県西部、神奈川県南部には28℃以下の比較的低温なエリアが見られます。

急増する都心の熱帯夜

都市部では夏季になると、日中だけでなく、夜になってもなかなか気温が下がらず寝苦しい「熱帯夜」が続くことがあります。昔は東京の下町で、夕方になると屋外で夕涼みをしたり、家の中でも寝冷えの心配が必要だったという話を聞きます。

「熱帯夜」というのは、気象庁の定義で夜間(夕方から翌朝まで)の最低気温が25℃以上の場合を指しますが、日本独自の用語で海外では使われていません。熱帯では昼間は気温が上がります。一方、夜間は過ごしやすいので「熱帯夜」という表現は誤解を招きますが、定着した用語なので、ここではそのまま用いることにします。

20世紀以降の東京都心部での、熱帯夜日数の年々変化を示したグラフが(図3-a)です。1930年頃までは年間10日に達していませんが、次第に増加して1980年代以降は年間20日を超えるようになり、特に2010年以降は40日から50日以上と急増していることが分かります。

2011年7月の1カ月間について、首都圏での熱帯夜日数の分布を示したのが(図3-b)です。20日の等値線が、都心部から川崎方面に延びています。その周辺には、東京23区から横浜方面に広がる15日の等値線が引かれており、まさに月の半分以上が寝苦しい「熱帯夜」という状況にあります。

一方、郊外に目を転じると、東京の西部郊外や埼玉、茨城方面では10日以下で、夜も比較的過ごしやすいことが分かります。このことから、都市の「ヒートアイランド」は、特に夜間~早朝の気温が周辺郊外よりも高くなる点に特徴があるといえるでしょう。

夏季のヒートアイランドと海風の効果

冬季の最低気温と夏季の最高気温の分布を(図2)で比較しましたが、夏季の典型的な夏日(2004年7月8日)について、早朝の午前5時(最低気温出現時)と昼間の午後3時(最高気温出現時)での東京23区の気温分布を示したのが(図4)です。

この図は、ある時刻での都区内の平均気温を0(ゼロ)として、各地点●(黒丸)での平均気温との差を示しています。矢印は、風をベクトル表示したもので、矢印の長さが長いほど風速が強いことを意味しています。風の観測は周辺建物の影響を受けない高度で行っています。

早朝5時の(図4-a)を見ると、都心部を中心とする同心円状の「ヒートアイランド」が出現しており、都区北東部との気温差は4℃近くに達しています。風は全般に弱く、矢印の向きからは、やや北寄りの陸風が都心部の「ヒートアイランド」に流れ込む状態が読み取れます。

一方、昼間の午後3時の図(図4-b)では、都心部を中心とする明瞭な「ヒートアイランド」は消滅し、都区北西部の練馬区、板橋区方面で気温が最も高くなっています。さらに、東京湾岸部から東部にかけては相対的に気温が低く、北西部の高温域との気温差は4℃を超えています。都区部のほぼ全域で南からのやや強い海風が吹いており、都心部の熱が風下方向に流れていることを示唆しています。

今回は東京の事例を中心に、「ヒートアイランド」の実態を明らかにしました。次回は、なぜこのような現象が起こるのか、その原因を探りたいと思います。

(2014年6月30日 更新)