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水災害の基礎知識

第3回  世界で異なる? 水循環と地球温暖化の影響

執筆者

立川 康人
京都大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻 教授
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水循環と水資源の関係

地上に到達した雨水は、一部は地中に浸透します。また一部は地中表層あるいは地表面を流れて河川を通して湖沼や海へと移動し、地表面や湖沼・海面から蒸発したり、樹木を通して再び大気へと戻ります。このように、水は常に地球上を循環しています。この循環を水循環(みずじゅんかん)と呼び、地球上の水の分布と循環構造を明らかにする学問分野を「水文学(すいもんがく)」といいます。天文学が天体のふるまいを対象とするように、「水文学」は水の循環を中心として、水と人間活動との関連を含むさまざまな分野を対象とします。この循環の中で、われわれは水を産業や生活に必要な水資源として利用しています。

水循環と水資源は密接に関係します。ある地域の年間の降水量は、その地域の水資源量を測る指標となります。降水量とはある期間に地上に降る雨と雪の量であり、通常、単位面積当たりの体積、つまり高さでその量を表します。例えば、一日の降水量が20mm、年間の降水量が1,600mmなどと表します。ただし、降水量のすべてを水資源として用いることはできません。地上に降った雨は地面からの蒸発や植物の根から吸い上げられる蒸散によって大気へと戻るため、この分は水資源として用いることができないからです。例えば、京都市の平均的な年間の降水量は約1,500mm、蒸発と蒸散を合わせた蒸発散量は700mm前後と推定されています。そのため、降水量から蒸発散量を差し引いた800mmが、年間当たりの表流水による水資源の最大値となります。

京都を流れる桂川流域とタイの主要河川であるチャオプラヤ川流域(図1)の年間の降水量、蒸発散量、流出高を(表1)に示します。流出高とは、対象とする地点の河川流量(単位時間当たりに流れる水の体積)をその地点の流域面積で割った値、つまり降水量や蒸発散量と次元を合わせるために、流域面積で正規化した単位面積当たりの河川流量です。年間の流出高は、年間の降水量から年間の蒸発散量を差し引いた値にほぼ相当します。

桂川流域とチャオプラヤ川流域を例にとると、桂川流域は年間の降水量がチャオプラヤ川流域よりも多く蒸発散量が少ないため、流出高は桂川流域のほうが多くなります。つまり総じてわが国は東南アジアの国々よりも水資源が豊富であるということができます。バンコクというと、年間を通して気温が高く雨季には豊富な雨がもたらされるため、年間の降水量が京都よりも少ないことに驚かれるかもしれません。しかし、バンコクでは11月から翌年の4月までの乾期には、ほとんど雨が降りません。また、低緯度で太陽放射が大きいため蒸発散量はわが国よりも大きくなります。このように水循環は地域によって大きく異なり、それによって水資源量も異なることになります。

地球温暖化と水資源の関係

地球温暖化によって気温が上昇すると降水量や蒸発散量が変化する可能性があります。気象庁気象研究所の「超高解像度全球大気モデル」*1)による将来気候の予測値を用いて、タイのパサック川流域(16,291平方キロメートル)の現在気候と21世紀末気候での降水量と蒸発散量、流出高を比較した結果を(表2)に示します。ここでの流出高は、パサックダム地点での河川流量をその地点での流域面積で割った値です。
      
これによるとパサック川流域では、2075年から2099年の21世紀末気候実験では1979年から2003年の現在気候実験に比べて、降水量は1.8%の増加、蒸発散量は4.7%の増加でした。流出高の変化量は25mmの減少ですが、減少率は12.7%にもなります。もともとの流出高が少ないため、変化率にすると大きな変化となって現れます。仮に、降水量に変化がなく、気温の上昇によって同じ値の蒸発散量の変化が桂川流域で起こったと仮定すると、(表1)の流出高の変化率は4%です。同じ蒸発散量の変化でも、流出高の変化率は地域によって異なり、その結果、水資源への影響も異なることになります。

次に、パサック川流域だけでなくインドシナ半島を流れる河川の流量が、地球温暖化によってどのように変化する可能性があるかを推算してみました。気象庁気象研究所の「超高解像度全球大気モデル」 *2)による計算値を用いて、インドシナ半島の河川の流れを1979年から2003年の25年間分計算しました。その計算結果を用いて、年ごとに年間の河川流量の平均値、年間の河川流量の最大値、年間の河川流量の最小値を整理し、それぞれの値の25年間の平均値を計算しました。

また、2075年から2099年の25年間のデータについても同様の計算を実施し、1979年から2003年の25年間と2075年から2099年の25年間とで河川流量の変化がどのように現れるかを分析しました。年平均流量の現在気候実験の25年間と21世紀末気候実験の25年間の変化比率の空間分布を(図2a)に示します。同様に計算した年最大流量と年最小流量の変化比率の空間分布を(図2b)(図2c)に示します。

年平均流量はミャンマーのイラワジ川やメコン川の上流で増加傾向が見られ、この変化は統計的にも有意である結果が得られました。年最大流量はインドシナ半島の広い地域で増加傾向にあります。同時に、年最小流量はインドシナ半島の広い地域で減少傾向にあります。河川流量の変動が現在よりも大きくなり、地域の水資源に影響を与える可能性があります。

地球温暖化の水災害への影響

2011年に、タイのチャオプラヤ川流域で大きな洪水氾濫が発生して、700名以上が亡くなりました。わが国でも、アユタヤ下流の工業団地が浸水して、日系企業も大きな被害を受けたことが報じられました。この年のチャオプラヤ川流域の降水量は約1,500mmであり、例年よりも約300mm多くの雨が降りました。インドシナ半島は将来、河川流量が増加し、その変動も大きくなる可能性があり、洪水の発生頻度や強度の増加が懸念されます(図2)。

わが国でも年降水量の全国平均値が増加することや、大雨や短時間の豪雨の年間発生回数が増加する一方で、雨が降らない日数や連続して雨が降らない日数も増加傾向にあることが示されています *3)。洪水とともに渇水の頻度や大きさが増加する可能性が示唆されています。

気象庁気象研究所の「超高解像度全球大気モデル」を用いて計算した、「再現期間100年の年最大流量」の変化率を(図3)に示します。「再現期間100年の年最大流量」とは、第2回のコラム(第2回「洪水予測で被害を軽減!」/立川康人 *4)で示したように、「平均的に100年に1回の割合で発生する年最大の河川流量」です。

この計算では、21世紀末には北海道・東北地方北部・中国四国地方および九州地方北部で、「再現期間100年の年最大流量」が増加する傾向が見られ、地球温暖化によって洪水災害が増加する可能性のある地域が分かりました。ただし、日本全国でどこでも年最大流量が増加するわけではありません。東北地方南部や北信越地方など、洪水が積雪・融雪に起因する地域では、積雪・融雪量の減少によって、年最大流量が減少する傾向にあることも分かっています。

地球温暖化の影響評価と適応に向けて

地球温暖化が水循環に及ぼす影響は地域によって異なります。そのため水資源や水災害への影響も地域によって異なります。IPCCの「第5次評価報告書(第1次作業部会報告書、2013)」では、東南アジアの河川流域では年平均降水量が増加する可能性が示されました。また、中緯度の陸域のほとんどと湿潤な熱帯域で、今世紀末までに極端な降水がより強くより頻繁になる可能性が非常に高いと記述されています。ここで示した、筆者らが分析した河川流量の変化にも同様の傾向が表れています。

世界のさまざまな地域で生活する人々は、その地域の気候に順応した生活を営んできました。地球温暖化によって、そうした生活や生産の仕方を変更せざるをえなくなる可能性があるため、その影響がどこで現れるのかを明らかにし、対処の方法を考える必要があります。そこで、地球温暖化の影響がどこでどのように(強度や頻度も含めて)現れる可能性があるかを明らかにする「影響評価研究」が世界各国で進められています。

われわれの研究グループも文部科学省の「気候変動リスク情報創生プログラム(平成24~28年度)」に参加し、地球温暖化の影響が河川流域や沿岸域に現れる影響、さらには水災害や水資源、生態系に及ぼす影響を明らかにしようとしています。この「影響評価研究」を通して、人々の暮らしを守る対策の立案に寄与することを目指しています。

参考文献:
*1):S. Kusunoki, R. Mizuta, and M. Matsueda : Future changes in the East Asian rain band projected by global atmospheric models with 20-km and 60-km grid size. Clim. Dyn., 2011, doi: 10.1007/s00382-011-1000-x.
*2):R. Mizuta, H. Yoshimura, H. Murakami, M. Matsueda, H. Endo, T. Ose, K. Kamiguchi, M. Hosaka, M. Sugi, S. Yukimoto, S. Kusunoki, and A. Kitoh: Climate Simulations Using MRI-AGCM3.2 with 20-km Grid, Journal of the Meteorological Society of Japan, Vol. 90A, pp. 233-258, 2012.
*3):気象庁 : 地球温暖化予測情報,第8巻,2013.
*4):第2回「洪水予測で被害を軽減!」/立川康人

(2014年4月25日 更新)