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高波・高潮

第6回  2013年11月フィリピンで発生した台風30号による高波・高潮災害

執筆者

佐藤 慎司
東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻教授
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台風の北側に被害が集中

2013年11月8日、フィリピンに来襲した台風30号(国際名称:Haiyan)は、レイテ島タクロバンなどに甚大な被害をもたらしました。土木学会とフィリピン土木学会の合同調査団が海岸で計測した痕跡水位の分布を(図1)に示します。第3回コラム「台風と共に来襲する高波・高潮」で説明したように、台風中心付近では、「吸い上げ」により海面が上昇し、風が強め合う海域では、「吹き寄せ」による海面上昇が加わります。台風30号では、台風がほぼ西に進んだので、進行方向に向かって右側にあたる北側の地域では、台風の周りで反時計回りに吹く風と台風の進行による風が強め合うこととなり、秒速90mにも達する強風が発生しました(図1)。

「吹き寄せ」による海面上昇は、水深の浅い海域で、風下に向けて急激に大きくなります。レイテ湾は水深数十m程度の浅い海域が70km以上にわたって広がっているうえ、湾奥にタクロバンが位置するサンペドロ湾では、湾奥に向けてさらに水深が徐々に浅くなっています(図1)。タクロバン周辺で見られた海面上7~8m程度の水位痕跡は、このような「吹き寄せ」による水位上昇に数十cm程度の「吸い上げ」が加わって生じたものと考えることができます。

強風、高潮と高波が重合

(図1)を見ると、サマール島東海岸でも10mを超える高い水位痕跡が見られます。同海岸の沖合は水深が深いので、「吹き寄せ」による水位上昇は小さいものと考えられます。(写真1)は、サマール島東海岸ギワン近郊の海岸(場所は図1に記載)で撮影された被害の状況です。破壊されたブロック塀の陸側にある鉄筋コンクリート造の小屋は天井付近まで浸水しており、海面上約6mの高さまで浸水したものと判断されました。強風の作用も加わり、周辺のヤシの木は風下方向に倒壊し、小屋の屋根も吹き飛ばされています。

波浪の発達状況については今後の詳細な分析が必要ですが、同所には、高さ10mを超える波浪が来襲したものと推定されており、急勾配の海底地形によって、高波が減衰しないまま海岸に打ち上げた可能性があります。さらに、同所の海側には、幅700m程度のサンゴ礁が広がっており、沖合の急勾配の地形に平坦なサンゴ礁がつながっているという複雑な地形となっています。10mを超える高所にまで波が押し寄せた原因としては、このような特殊な海岸地形が影響していることも考えられます。

段波状の波が来襲

サマール島東海岸で撮影されたビデオには、波が砕けながら押し寄せ、海岸の水位が急激に2m程度上昇する様子が記録されています。このような波を「段波(だんぱ)」と呼びます。段波の形は切り立っており、前後の水圧差により、毎秒数mの速さで安定して進んでいく性質があります(図2)。2011年の東北地方太平洋沖津波では、陸上に氾濫していく津波や、河川を遡上(そじょう)していく津波が、段波を形成したことが観察されています。また、中国杭州の銭塘江やアマゾン川などでは、大潮の満潮時に、潮汐が段波状となって河川を遡上することが知られています。

台風の高波とともにこのような段波が発生する事例は、観測例が少ないものの、沖縄のサンゴ礁海域ではいくつかの観測例があります。このような段波が発達する機構については、不明な部分が多く残されていますが、サーフビートの発生が一因であるとする説があります。高波が来襲する際には、沿岸域ではサーフビートと呼ばれる海面変動が発達することが多く、10秒程度で上下する波浪による水位変動に加えて、数分程度の周期でゆっくりと変動する水位変動が重なり合います(図3)。このような長周期の変動が、サンゴ礁の浅い沿岸域で増幅されて段波を形成すると考えられます。

日本での備え

日本はフィリピンより高緯度に位置しているため、フィリピン付近で巨大な台風が発生しても、日本に来襲するまでに勢力が弱まることが普通です。しかし、地球温暖化により日本付近の海水温が徐々に上昇しており、勢力が衰えないまま日本に来襲する台風の頻度は増える傾向にあると予測されています。温暖化によって海面も上昇すると予測されているので、陸地の浸水リスクはさらに高まると考えられます。サンゴ礁が広がる地域や沿岸に浅瀬が広がる地域などでは、波が特定の場所に集中したり、段波状となって来襲したりすることが考えられるので、特に注意が必要です。

NHK関連番組news Watch9「フィリピン台風 調査で見えた破壊力
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(2014年4月25日 更新)