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大雪

第7回  姿を変える雪! 事故や災害はなぜ起こる?  ~後編~

執筆者

佐藤 威
(独)防災科学技術研究所監事 理学博士
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硬い雪と柔らかい雪

積雪の強度は、せん断・圧縮・引っ張り破壊強度などで表しますが、それに類似する硬さの指標である「硬度」で表すこともよくあります。雪のおおよその「硬度」は専用の器械を使わなくても分かります。例えば、拳が入る程度、指が入る程度、鉛筆が入る程度、ナイフが入る程度などの表現もあり、これだと硬さを直感的に理解できるでしょう。

「硬度」は雪質と密度に依存します。新雪や密度の小さなしまり雪は「硬度」が小さく、かなり密度の大きなしまり雪では、スコップも刺さらないほど「硬度」が大きくなっています。乾いたざらめ雪はその中間です。また、硬度は雪に含まれる水分によっても変わります。ざらめ雪の「硬度」と水分の関係を示したものを見ると(図1)、かなりばらついてはいますが、ざらめ雪が解けて水分が多くなった状態では、乾いた状態(含水率が0)よりも「硬度」が小さいことが分かります。

春先のかなり冷え込んだ朝には、一度解けたざらめ雪はがちがちに凍っていて、その上を簡単に歩くことができます。「かた雪渡り」といって雪国の子供の遊びにもなっていますが、日射が当たり気温が上がってくると再び解け始めて水分を含むようになり、ぬかるんで歩くのに難渋(なんじゅう)します。このような時に水分の有無による雪の「硬度」の違いを実感することができます。また、雪の多い地域では水路や池などが雪で覆われていることがあります(写真1)。寒いうちは大丈夫でも暖かくなって雪が水分を含んだ状態になっていると、その上を歩いて踏み抜くこともあり得ます。雪国であっても水の事故につながりますから注意が必要です。

軽い雪と重い雪

日常会話の中で雪が「軽い」とか「重い」とかいう場合には、単位体積当たりの重さ、すなわち密度の大小と、単位面積に積もっている雪全体の重さ(全重量)の大小の二つの意味合いがあり、両者は区別しなければなりません。例えば、人手で除雪作業をする時には、一定の体積の雪を移動させるわけですから、作業が大変かどうかは密度の大小によります。新雪の密度と日平均気温の関係は(図2)、日平均気温が-1℃以下ではおよそ70kg/m3ですが、-1℃を上回ると気温とともに密度が大きくなる傾向があります。

この理由として気温がプラスの場合、降ってくる雪の一部が解けるためにかさが小さくなって、降雪そのものの密度が大きくなることがあります。さらに、それが積もった後にも解けたり圧密 *1)することによって、かさが小さくなることも影響しています。日最高気温が0℃以上の日の密度の値が大きくばらついているのは、これらの影響が日々の気象条件によって異なるためと考えられます。同じ新雪といっても、寒冷な時期や地域では乾いていて低密度で、温暖な時期や地域では湿っていて高密度です。このため時期や地域によって除雪の苦労がかなり違うことがこの図から分かるでしょう。

もう一つの重さである全重量は、構造物に対する雪の荷重を考える際に必要となります。全重量がその構造物の耐荷重を超えると倒壊の恐れが出てきます。積もり始めから解け終わるまでの、毎日の積雪の深さと全重量(積雪重量)をプロットしてつないだ積雪の「循環曲線」(図3)によると、融雪によって生じた解け水が流出しない限りは、雪が降る度に全重量が増大します*2)。この傾向は2月末まで見られます。

本格的な融雪期になると、積雪深・積雪重量ともに減少します。同じ冬に積雪の構造を調べた結果(図4)を見ると、さまざまな雪質が層状に重なっている様子が分かりますが、融雪期になるとほとんどざらめ雪になっています。これらが典型的な雪の一生です。

屋根に積もった雪の重さを推定

屋根に積もった雪も平地で観測された場合(図3)と同様の変化を示します。全重量がその建物の耐荷重(地域によって異なります。例えば、山形県新庄市では313kg/m2と定められています)を超える前に、「雪下ろし」をする必要があります。もちろん「雪下ろし」をした後の屋根雪の「循環曲線」は、また原点(積雪深と積雪重量がともに0)から再スタートとなります。

(図3)の原点と、ある日のプロットをつないだ線の勾配は積雪全体の平均的な密度(全層密度)を表します。冬の初めから融雪期前までは圧密によって「全層密度」が増大します。その後、融雪期には全層密度の大きな変化はありません。同じ深さであっても全重量は冬の前半に比べて後半に大きくなることもよく分かります。次の項で説明しますが、屋根雪の「全層密度」の大小や全重量の大小は、それが滑落して物や人に衝突した時の被害の大きさを左右します。

ところで、2014(平成26)年の2月14日~15日にかけて関東甲信地方は大雪に見舞われ、雪の重みによる建物や農業施設の倒壊が多発しました。ふだん雪の少ない地方の人にとって、積もった雪の重さはイメージしにくいと思いますが、それを簡単に推定する方法があります。気象台やアメダスによって観測された雪の降り始めからの降水量を積雪重量に換算すればよいのです。

1mmの降水量は積雪重量1kg/m2に相当します。甲府市の例では、2月14日午前6時~15日午前9時までの降水量は96.5mmでしたので積雪重量は96.5kg/m2となります。ただし、この推定方法は、降雪中に雪が解け水となって流出しないことと、降雪時の風が弱いことが前提となります。

屋根からの落雪の衝撃力

わずかの新雪が屋根から滑落してきても大した被害はありませんが、ある程度積もってからの滑落は事故につながりかねません(写真2)。ここでは雪が物に衝突する時の「衝撃力」について紹介します。衝撃力は衝突する対象や衝突時の雪の壊れ方によって違います。これまでの雪の衝撃力の研究は、固定された鉄くいや鉄板に雪が衝突する時を対象としていました。それによれば、「衝撃力」(正確には単位面積当たりの「最大衝撃力」のことで、「最大衝撃圧」と呼ばれます)は雪の密度に比例し、さらに衝突速度の2乗に比例することが分かっています。

雪の塊が落下する時に空気抵抗が無視できる自由落下の状況では、落下速度は落下高さの平方根に比例します(図5)から、最大衝撃圧は落下高さに比例することになります。1階の屋根(高さ3m)から密度300kg/m3の雪の塊が落下した時の衝突速度は約8m/sで、その時の「最大衝撃圧」は約50kN(5tf)/m2 *4)程度です(参考文献2)。これは木造家屋の木組みを壊すほどの力です。2階の屋根から落雪した場合の「最大衝撃圧」は、この2倍になります。また、密度が大きいほど「最大衝撃圧」は大きくなりますから、屋根に長く積もっていて圧密が進んだり、ざらめ雪に変質した雪ほど、落雪による事故の危険性が高くなります。

上に示した衝撃力は、固定された鉄くいや鉄板に衝突して雪が砕ける時の「最大衝撃圧」です。もし人に衝突するとすれば、真上から衝突する場合(衝突しても体がそこにとどまる場合)に相当します。その際、人体は柔らかいので衝撃は少し小さくなると考えられますが、具体的にどの程度になるかは調べられていません。雪の塊が硬かったり氷の塊が衝突する時には、砕けにくいために、上に示した以上の衝撃を与えます。もし、雪の塊が人に斜めや横から衝突するならば、それにより転倒して、頭を打ったり骨折する危険性もあります。この時に雪の塊が砕けないとすれば、その重量が増すほど転倒速度も増します。いずれにしても、屋根の雪が滑落する範囲には立ち入らないことが賢明です*5)。

最近では高層建築物や背の高い構造物も増え、それらからの落雪も考えられます。このような高いところから落雪した場合には空気抵抗が無視できなくなり、落下高さの増加に伴う落下速度の増加は(図5)の自由落下の時よりもゆっくりとなります。そして、空気抵抗と重力が釣り合って一定速度(終端速度)になった後は速度の増加はありません。

空気抵抗の大きさは落下物の形状や大きさに依存します。例えば、密度300kg/m3の球状の雪の塊(直径30cm)の終端速度は約70m/s、円板状の雪(直径30cm、厚さ3cm)が水平を保ったまま落下する場合は約10m/sです。実際には板状の落下物はひらひらと舞うように姿勢を変えながら落下するなど複雑な運動をします。この時の空気抵抗の大きさはよく分かっていませんし、思わぬところまで到達することもあるので注意が必要です。

ところで、屋根の「雪下ろし」の最中に屋根から落ちたり、はしごから落ちてけがをする事故が後を絶ちません。家の周りに雪が残っていると、「衝撃緩和作用」により、落ちた時のダメージは軽減されます。きれいさっぱりと雪を片づければ気持ちは良いのですが、かえって事故の危険性が増すことになります。安全のためには意識的に家の周りに雪を残すことも必要です。

*1)積雪が自身の重みにより圧縮すること。圧密のしやすさは雪質によって異なり、最も圧密しやすいのは新雪です。
*2)雪が積もっている時に雨が降った場合も同様で、水が流出しない限りは、雨水の重さの分だけ全重量が増大します。
*3)独立行政法人 防災科学技術研究所 雪氷防災研究センター(「雪氷塊落下による自動車破損」のビデオ画像が閲覧できます)
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*4)kN=キロ・ニュートン。力の単位でN(ニュートン)の1000倍。1kN=1000N≒102kgf=102tf。1kgf(tf)は質量が1キログラム(トン)の物に働く重力の大きさ。
*5)独立行政法人 防災科学技術研究所 雪氷防災研究センター(「屋根にブルーシートを敷いた時の屋根雪の滑落について」のPDFが閲覧できます)
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参考文献
1)阿部修・中村秀臣,2000:新庄における新積雪の密度―1974/75年~1995/96年22冬期―.東北地域災害科学研究,36,165-170.
2)阿部修・中村秀臣・佐藤篤司・中村勉,1997:大型野外シュートを用いた雪崩実験,その2 -雪塊の衝撃特性-.雪氷,59,189-199.

(2014年3月14日 更新)