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大雪

第7回  姿を変える雪! 事故や災害はなぜ起こる?  ~前編~

執筆者

佐藤 威
(独)防災科学技術研究所監事 理学博士
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雪の水分や密度が事故や災害を左右する

雪は積もった直後の新雪から環境条件に応じて変化(変態)し、しまり雪・ざらめ雪・しもざらめ雪などの異なる雪質に変わります。破壊強度が小さい新雪やしもざらめ雪は表層雪崩の原因となり、また積雪面が新雪で覆われていると吹雪が発達しやすくなるなど、「雪氷災害の発生が雪質に依存する」ことは、これまでのコラムで紹介しました。しかし、雪の状態を表すのは雪質だけではありません。含まれている水分の量や密度に注目して雪の状態を区別することもあります。今回は、雪の水分や密度と事故・災害の関係について紹介します。

「水」の存在形態には、固体である氷、液体である水、気体である水蒸気の「三つの相」があります。それぞれの相の間で変化する際には、熱の授受を伴います(図1)。降雪(雪結晶やその集合体である雪片)や積雪の温度が0℃より低い時は、すべて氷で水分を含んでいません。これを、「乾いた雪」と呼びます。「乾いた雪(0℃とします)」を解かすためには、0℃の氷を水に変えるための融解熱が必要です。逆に0℃の水から凝固熱(凍結の潜熱)を奪えば氷になります。融解熱と凝固熱は等しく、1gあたり80cal(カロリー)です。

雪が水分を含むのは、その(実際は氷の)一部が解けかかっている時で、温度は0℃になっています。このような状態の雪を「湿った雪」または「ぬれた雪」と呼びます。気温が0℃に近い時には、熱をもらって雪(氷)が解けたり、解けてできた水が熱を失って再び凍結するなど、状態が目まぐるしく変わります。

熱のやりとりで変化する雪

雪(氷)から水への変化と水から氷への変化に必要な熱を実感するために、身近な例について概算してみましょう。まず、地面に1cmの新雪が積もった場合です。雪の厚さを1cm、密度を100kg/m3とすれば、1m2に1kgの氷があることになります。温度を0℃(乾いた雪)とすれば、それを解かすために80kcalの熱が必要です。雪と熱のやりとりに関わる「四つの要素(日射・長波放射・顕熱・潜熱)」のうち、無風とすれば顕熱と潜熱は0です(第4回「春が近づいても油断大敵」図1/佐藤 威)*1)。

さらに伝導熱も0とすれば、日射と長波放射のやりとりだけを考えればよいことになります。(図2)の快晴の日中の例では、雪は「四つの要素」の和である44W/m2(1W=0.86kcal/hですから、37.8kcal/h/m2)*2)の熱をもらい約2.1時間で解けて水になります。

次に、ブラックアイスと呼ばれる路面に薄い氷ができる状況を考えてみます。厚さ0.5mmの水膜が路面を覆っているとすれば、1m2に0.5kgの水があることになり、40kcalの熱を奪えば凍結させることができます。(図2)の快晴の夜間の例では、水膜は放射冷却によって67W/m2(57.6kcal/h/m2)の熱を失い、0.7時間程度で凍結して危険な路面状態になってしまいます。

ここで示した例では雪や水の温度を0℃と仮定しました。おおよそ気温が0℃前後の場合に対応します。気温がそれよりかなり低い厳寒期には、雪の温度は0℃より低いため、その温度を0℃まで上げるための余分な熱が必要となり、それだけ解けにくくなります。また、気温がプラスになる融雪期には日射も強くなり、風が吹くと顕熱や潜熱の作用も加わって、積雪深が1日に5cm減ることもまれではありません。

熱のやりとりの考え方(第4回「春が近づいても油断大敵」図1/佐藤 威)*1)は、平らな地面に積もった雪が解ける場合に限定したものではありません。上の例で示した水が凍結する場合は、積雪の代わりに水の層を考えました。また、雪が降っている時には、降雪が空気中を落下しながら周囲の空気と熱のやりとりをします。この場合、図の積雪を雪結晶や雪片と見立て、地面側にも風が吹いていると考えればよく、顕熱と潜熱が重要な要素となります(次の項で説明します)。物体に付着した雪や橋の上の積雪との熱のやりとりは、地面の代わりに物体(建物の壁や橋などの構造物の部材、電線など)があると考えればよく、それらからの伝導熱が無視できない場合もあります。

湿った降雪による着雪災害

雪結晶が雲の中で成長して落下し始める時の温度は0℃以下です。それが落下中に0℃より高い気温の層を通過する時には周囲の空気から熱をもらい、やがて一部が解け始めます。地上に達した時に、「乾いた雪」か、「湿った雪」か、それとも雨になっているかは、このような熱のやりとりで決まります。これらの区別と地上の気温・相対湿度の関係は(図3)のようになります。この図の中で「みぞれ」は、雨と「湿った雪」が同時に降っている状態です(小さい雪片ほど早く解けきり雨滴となるため、「湿った雪」と混在するのが一般的です)。

相対湿度も関係するのは、周囲の空気の相対湿度に応じて降雪が蒸発したり水蒸気が降雪表面で凝結し、それに伴う潜熱をやりとりするからです。(図3)から、わずかな気温の違いで降ってくるものが、がらっと変わることが分かります。また、実際には「(乾いた)雪」の領域でも水分を含む湿った雪が観測されています。これは、降雪が落下中に通過する上空の気温・相対湿度が必ずしも地上の気温・相対湿度と一対一に対応していないためです。このように雨雪判別の基準は大まかなものであることが理解してもらえると思います。南岸低気圧が通過する際に、「関東地方で雪が降るか雨が降るかの予報が難しい」のはこのような背景があるからです。

雪が降る時に雪結晶が単独で降ることはあまりなく、ほとんどの場合多くの結晶が集合した状態(雪片)で降ります。これは、落下中に雪結晶同士が衝突し互いに付着するためです。湿った降雪の時には付着力も大きくなる*3)ため雪片も巨大化して、直径数cmもの大きな雪片(ぼたん雪)が降ったという記録もあります。

水分を含む降雪は物体にも付着しやすく、一度付着した後に次々と雪が付着して、樹木の枝折れや倒木、電線切断による停電などの災害を引き起こします(写真1)。また、送電線に着雪して送電鉄塔が倒壊し、大規模な停電になることもあります。温暖な地域だけでなく、寒冷地であっても冬の始めや終わりにこのような着雪災害が発生しやすくなります。

湿った雪や解け水が再び凍ると

屋根に湿った雪が積もった時のことを考えましょう。この雪は日射が当たったり気温が上昇すると意外に早く滑落します。しかし、天候が悪く気温が低下する場合には、屋根に積もった雪の水分が凍結してなかなか滑落しなくなります。これは雪の凍着力の仕業です。凍着とは物体の表面に氷が付着している状態を指し、乾燥凍着・半湿潤凍着・湿潤凍着の三つがあります。(図4)に示すように、この順に凍着部分の面積が大きくなり、凍着力も強くなります。

湿潤凍着の状態は家の軒先でよく目にすることがあります。暖房している家では、屋根から熱が逃げて積もっている雪を解かします。この時生じた解け水は、屋根の上を軒に向かって流れますが、気温が低い時は軒もかなり冷えていて、そこで凍結して「氷の塊(氷堤と呼ばれます)」ができることがあります。軒先につららができている時には大体「氷堤」もあると考えてよいでしょう(写真2)。「氷堤」は湿潤凍着の状態になっていて、人の力で剥がすことができないほど強固にくっついています。

このような場合でも、屋根の上の方に積もっている雪の底面は解けている場合が多く、「氷堤」はそれが滑落するのを防いでいるともいえます。しかし、気温が上昇して「氷堤」が解け始め、凍着力が低下するとどうなるでしょうか。軒先から解け水がしたたり落ちているような時です。融解が進むと「氷堤」そのものが落下し、さらに歯止めを失った屋根の雪が一挙に滑落する危険性も高まります。そのようになる前でも、軒下からつついて無理に「氷堤」を取れば同様のことが起こる可能性があり、大変危険です。毎年起こる屋根雪の事故の中には、このような状況で発生したと考えられるものもあります。この危険性はぜひ覚えておいてほしいものです。

*1)第4回「春が近づいても油断大敵」図1/佐藤 威
*2)W=ワット。仕事率の単位で、1W=1ジュール/秒=0.239カロリー/秒=0.86キロカロリー/時。
*3)実際には降雪の温度が0℃より少し低い場合でも多少の付着力はあります(0℃に近づくほど付着力は大きくなります)。これは氷の表面に疑似液体層と呼ばれる水に近い性質の層ができるためです。

参考文献
1)気象庁予報部,1994:平成6年度数値予報研究テキスト.数値予報の実際.p.90.
2)苫米地司・伊東敏幸,1994:屋根上積雪荷重の制御に関する基礎的研究 第1報 屋根雪と屋根葺材との凍着性状について.雪氷,56,215-222.

(2014年3月14日 更新)