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落雷・突風

第8回  竜巻予測の最前線

執筆者

小林 文明
防衛大学校地球海洋学科教授 理学博士
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「竜巻注意情報」とは

竜巻のような短寿命で局所的な大気現象を予測することは容易ではありません。気象庁は、2005年から立て続けに発生した甚大な竜巻被害を受けて、2008年から「竜巻注意情報」を発表するようになりました。また、最近では高分解能の観測ネットワークで、竜巻などをとらえる試みも行われています。今回は、わが国の竜巻予測の現状を紹介します。

2005年から2006年にかけて発生した、山形県の酒田竜巻(羽越線脱線事故)、宮崎県の延岡竜巻、北海道の佐呂間竜巻による甚大な災害を受けて、気象庁は2008年3月26日から、「竜巻注意情報」の発表を開始しました。竜巻注意情報は、積乱雲下で発生する竜巻やダウンバーストなどの突風に対して注意を呼びかける気象情報で、「雷注意報」を補足する情報として発表されます。竜巻注意情報は、数値予報モデルによる突風発生危険度と全国に展開されたドップラーレーダーを用いた観測から、竜巻などの突風が発生しやすい気象状況になったと判断された時に、各地の気象台から発表されます。数値モデルからは、大気の安定度と風の鉛直シアーを計算して、この2つのパラメータを組み合わせた指数で竜巻の発生しやすさを量的に計算します。この指数が高くなった地域で、ドップラーレーダーによりメソサイクロンが検出されると、竜巻注意情報の発表につながるのです。

今のところ、竜巻注意情報が発表されて実際に竜巻が発生した割合(的中率)は10%未満、また発生したすべての突風に対して竜巻注意情報が発表された割合(捕捉率)は25%程度と決して高いとはいえません。もともと竜巻注意情報は、米国で発生するようなスーパーセル竜巻(第3回コラム参照)、すなわち、直径10kmのメソサイクロンが地上の竜巻に先行してスーパーセル内に存在する積乱雲を対象にしています。巨大なスーパーセルでさえ、メソサイクロンから竜巻が地上にタッチダウンするかどうかは分からず、米国でも竜巻警報の的中率は20%~50%といわれています。まして日本ではスーパーセル竜巻の発生頻度は少なく、積乱雲やメソサイクロンのスケールが小さく寿命も短いため、非スーパーセル竜巻を含むすべての竜巻を正確に予測するのは難しいといえます。

ただし竜巻注意情報の場合は、たとえ外れても上空には発達した積乱雲が存在し、竜巻のポテンシャルを有したメソサイクロンが存在していることには違いないわけですから、自分の頭の上には“危険な積乱雲”があるのだという意識を持って、「竜巻注意情報」が出た段階で「雷注意報」より1段階注意レベルを上げ、竜巻・ダウンバースト・落雷・豪雨・降雹(ひょう)に備えるべきです。

現在、竜巻注意情報の一番の問題点は、県単位で発表される点です。竜巻のような極めて局所的な現象の対象を広範囲な県で出しても、受け取った人の対応は難しいと言わざるを得ません。ドップラーレーダーでメソサイクロンを検出しているわけですから、その場所にピンポイントで情報を出せばよいと思われますが、メソサイクロンの検出精度が十分でないために現状のようになっています。近い将来、メソサイクロンの検出精度が上がれば、ピンポイントで“竜巻警報”が出せるようになるでしょう。気象庁は2010年から、10km間隔の領域で10分ごとに、「竜巻発生確度ナウキャスト」情報の発表を開始しました。

新しいレーダー観測

竜巻やダウンバースト、ガストフロントなどの突風を観測、予測することは可能なのでしょうか。そもそも竜巻は、人にとっては巨大な渦ですが、気象現象としてはミクロのスケールです。台風や低気圧のように1000kmのスケールを有して天気図に現れる現象ではないため、竜巻そのものを観測するのは容易なことではありません。気象庁は、全国に約20台のドップラーレーダーを配備しメソサイクロンを監視していますが、日本で観測されるメソサイクロンの多くは直径数km程度であるため、レーダー観測の空間分解能は良いとはいえません。ドップラーレーダーで直径100mの竜巻渦そのものをとらえることは難しいですが、より高い精度でリアルタイムのメソサイクロンをとらえることが求められています。

竜巻の親雲内で形成されるメソサイクロンの構造は複雑であり、高分解能のレーダーを用いた至近距離からの観測を行う必要があります。研究用のドップラーレーダーを用いて、100mの空間分解能で竜巻をもたらすメソサイクロンを観測することは可能ですが、レーダーから遠ざかると分解能は落ちてしまいます。また、竜巻や局地的な豪雨などリードタイムが極めて短い現象を観測するためには、時間分解能を上げる必要があります。通常のレーダー観測では、パラボラを回転させながら仰角を変えて天空の立体的な構造を観測しているので、1回の観測で3~5分はかかってしまいます。この課題を克服したのが、「フェーズドアレイレーダー」であり、2012年に国内の気象観測用としては初めて大阪大学で稼働を開始しました。フェーズドアレイレーダーは多数のアンテナ素子で構成されたレーダーで、小型のアンテナを多数配置し同時に電波を異なった方向に発射することで、瞬時に3次元的なデータを得ることができます(写真1)。フェーズドアレイレーダーで秒単位の観測を行えば、時間分解能が飛躍的に向上し、レーダーを用いた短時間予測の精度が上がるでしょう。

フェーズドアレイレーダー以外にも、ミリ波を用いた「雲レーダー」や、赤外線を用いた「ドップラーライダー」が実用化されています。雲レーダーは、観測対象が直径数100μm *1)の雲粒であるため、積乱雲の成長を、積雲が発達する雲段階から観測することが可能になります(写真2)。また、ドップラーライダーは、大気中のエーロゾルといわれる塵(ちり)をとらえるため、晴天時のつむじ風や都市構造に伴い発生する渦などの検出にも成功しています。このような新しいレーダー観測により、これまで目に見えなかったさまざまな渦が観察できるようになってきました。

レーダーネットワークで狭いエリアの情報提供

首都圏では、竜巻・ダウンバースト・局地的豪雨など極端気象を短時間で予測(ナウキャスト)するいくつかの試みが始まっています。2007年から関東にある大学や研究所のドップラーレーダーを用いたネットワーク観測が始まりました。この観測プロジェクトは、波長3cmのXバンド・レーダーのネットワークということで、「X-NET」と名付けられました。高空間分解能の研究用レーダーを複数用いて同時観測を行うことにより、次のメリットが得られます。
1)観測領域が広がる
2)3次元の正確な風を計測することができる
3)地上付近の観測が可能になる
4)地形の影となる領域を補間できる
5)降雨減衰がカバーできる

X-NETの観測データは、ほぼリアルタイムで解析され、出力されます。現在では、10台近くのレーダーでほぼ関東全域をカバーしています(図1)。この観測情報は、ホームページで公開されています(2014年現在、防災科学技術研究所のホームページで公開中)。自分の頭の上の天気(雨と風)がリアルタイムで分かるようになると、日々の生活でもさまざまな面で役に立つことでしょう。X-NETでは、水平分解能が500mという、町内の家数軒分といった空間的に細かい情報を5分間隔で提供することが可能になります。現在、X-NETデータを行政や学校で使ってもらうという社会実験が行われていますので、近い将来X-NETデータがお茶の間に届くかもしれません。

また、レーダー自体もドップラーレーダーからさらに高度化された、二重偏波機能(電波の位相を変えることで降水粒子の形状を観測)を備えたMP(マルチパラメータ)レーダーで降水粒子の識別が可能になり、雨量を正確に観測できるようになりました。X-NETの実験結果は実用化され、国土交通省では2008年以降、全国の主な都市にMPレーダーの配置を進めており、ゲリラ豪雨対策として、1分間隔で最新の雨量(XRAIN)を配信しています。

新しい観測網の試み

地上気象観測網で竜巻をとらえる新しい試みも始まっています。2013年夏から、群馬県内の小学校やコンビニに簡易気象センサーを設置することで、アメダス(約20km間隔)よりもはるかに密な観測網が構築されました。最も空間密度の高い所で分解能は1kmを切る、この超高密度地上観測網は、POTEKA(Point Tenki Kansoku:ポテカ)と名付けられました。

2013年7月からの観測で、POTEKA観測網で竜巻やダウンバーストの事例がとらえられました。実際に、2013年7月11日に群馬県太田市、伊勢崎市で発生したダウンバースト、8月11日に前橋市を襲ったダウンバースト、9月16日にみどり市で発生した竜巻をとらえることに成功しました。みどり市で発生した竜巻の事例では、竜巻被害域周辺の気圧降下分布が観測され、約1km離れた観測地点で4hPa(ヘクトパスカル)の気圧降下が、数km離れた観測地点でも1hPa程度の気圧降下が観測され、竜巻(あるいはメソサイクロン)の地上気圧分布を把握することができました(図2)。

このように、超高密度の気圧観測を行い、竜巻やガストフロントなどマイクロスケールの大気擾乱(じょうらん)をとらえることができると、気圧が急降下する竜巻と、気圧が急上昇するダウンバーストを明確に区別することが可能になります。さらに、ドップラーレーダー観測、現地被害調査を組み合わせると、深夜発生して目撃者がいない事例や、それほど被害が顕著でない突風災害の原因特定も可能になります。今後さらに観測網が展開されれば、将来は竜巻渦そのものをとらえて、竜巻内部の気圧などを観測できるようになるでしょう。

*1)μm=マイクロメートル=1mの100万分の1。1mmの1000分の1。100μm=0.1mm

(2014年3月14日 更新)