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水災害の基礎知識

第2回  洪水予測で被害を軽減!

執筆者

立川 康人
京都大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻 教授
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100年に一回発生する洪水の大きさを予測する

予測とは将来の出来事を前もって推し量ることです。洪水予測とは洪水が起きる前に、その大きさやそれがいつ起きるかを推定することを意味します。洪水予測は、「水害に遭わないように河川を整備すること」「水防活動や避難活動、治水施設の運用を効果的に行うこと」「水害に強い町・地域を形成すること」を目的とします。

洪水予測は予測の対象によって3種類に分けることができます。一つは「洪水の発生頻度に対応する洪水の大きさ」を予測することです。河川整備を進めるときには、ある発生頻度に対応する洪水、たとえば、平均的に100年に一回発生する洪水の規模を定めて、その規模を整備目標として治水事業が進められます。二つめは、天気予報と同様に豪雨や洪水が進行している最中に、数時間・数日先の洪水の大きさを時々刻々と「実時間で予測すること」です。これは、水防活動や避難、治水施設の運用に大変有用です。三つめは、物理的に考えられる「最大クラスの洪水の予測」です。被害を最小限に抑えるためには浸水発生を想定し、避難場所や避難経路が確保されるような町づくりが必要になります。最大クラスの洪水予測は、水害に強い地域づくりの基礎となる情報を与えます。

京都気象台で観測された、1901年から2008年の「年最大日降水量」の大きさとその発生回数(ヒストグラム)を示しました(図1)。「年最大日降水量」とは、ある年に降った降水量を1日ごとに集計して、365日の中で最大となった日の降水量を意味します。降水期間は2日あるいは24時間、48時間とすることもあります。「年最大日降水量」は、ある値の周りに左右対称に分布するのではなく、ときどきまれな豪雨が発生するため、右側の方にも数は少ないですがデータがあります。右側の方に裾の長い分布がよく当てはまりますので、例えば対数正規分布を用いると、(図1)の実線のように確率分布をヒストグラムに当てはめることができます。この確率分布を用いて、(図2)のようにある「年最大日降水量」xpを超える確率(超過確率)と超えない確率(非超過確率)を定めます。超過確率の値をpとすると非超過確率の値は1-pとなります。例えば、サイコロはどの目も等しい割合で出るので、1の目が出る確率は1/6です。そのため6回サイコロを振れば、1回は1の目が出ることが期待されます。これと同じように考えて、1年あたりにxpを超える確率がpなので、1/p年に1回はxpを超える「年最大日降水量」が発生すると考えることができます。

超過確率が0.01である「年最大日降水量」は、平均的に100年に一回発生すると予想されます。例えば、100年に一回発生する豪雨に対して被害に遭わないことを安全性の水準とし、こうして得た予測値をもとに治水事業が計画されます。この降水量を100年確率の「年最大日降水量」あるいは「再現期間100年の年最大日降水量」といいます。再現期間とは事象(ここではxpを超える「年最大日降水量」の発生)が起こる平均的な時間間隔です。今年発生したから100年先まで発生しないということではありません。詳しい解説は参考文献1)、2)などを参照してください。

ある再現期間の降水量を定めたら、(「第1回 大雨が洪水になるまでの通り道」/立川康人 *1)で説明したような河川流量を推定するコンピューターシミュレーションモデル(流出モデル)を用いて降水量を河川流量に変換して、河川整備の目標とする河川流量を予測します。これが現在慣用されている、ある再現期間に対応する洪水流量を推定する方法です。こうした予測情報は河川整備の計画に用いられるため、「計画予知」と呼ばれることがあります。わが国では「河川の重要度」という概念を導入して、上記の再現期間で安全性の水準が定められ、それに対応する洪水の大きさを推定して河川整備が進められています。

豪雨や洪水が進行している最中に時々刻々と洪水を予測する

豪雨や洪水が進行している最中に数時間先の洪水を時々刻々と予測することを「実時間洪水予測」あるいは「リアルタイム洪水予測」といいます。「実時間洪水予測」では、時々刻々観測される降水や河川流量・水位の観測情報を用いて、数時間から数日先までの河川流量・水位を予測することが目的となります。

河川流量・水位を実時間で予測することができれば、避難勧告や避難指示の発令、水防団や消防団による水防活動、住民の避難活動に有効な情報を与えます。治水を目的とするダムでの洪水調節など、治水施設を効果的に運用するためにも、なくてはならない情報です。

「実時間洪水予測」を実現するためには、実時間での降水予測情報が必要となります。基本的には、降雨の予測情報を、流出モデルを用いて河川流量の予測情報に変換します。このとき、予測の確かさも併せて提供することが重要です。降水予測情報には誤差が含まれます。また、流出モデルも完全ではなく降水から流量の計算には誤差を伴います。

これらのさまざまな誤差を考慮して、予測値とその予測誤差を併せて提供する必要があります。「実時間洪水予測」のイメージ図を示しました(図3)。現在時刻を13時として、13時から16時までの予測降雨情報が提供され、それから予測流量や予測水位が予測誤差とともに計算されるイメージを示しています。また、筆者らが試験的に運用してきた淀川流域の実時間流量予測システムの流量予測情報を提供するホームページ画面を示しました(図4)。こうした予測システムが、国や都道府県の河川管理を担当する部署で運用されています。

物理的に起こり得る最大クラスの洪水を予測する

2011(平成23)年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う津波被害を契機として「津波防災地域づくりに関する法律」が定められました。また、最大クラスの津波を想定した浸水シミュレーションを実施し、最大クラスの津波対策を講じることが指針として示されました。同様に、最大クラスの風水害を想定して、その対処の方策を考えることが重要となります。わが国で大規模な風水害をもたらすのは台風です。そのため、地球温暖化を考慮したうえで最大クラスの台風を想定し、それによって引き起こされる洪水を予測することは、重要な課題となっています。

気象庁・気象研究所では水平解像度約20kmの超高解像度全球大気モデルを用いて、地球温暖化による将来の強風雨などの極端現象の予測シミュレーションを行っています。黒い太実線は超高解像度全球大気モデルによって計算された、21世紀末の25年間の中でリスク指標が最大となる台風です(図5)。

この台風が西寄りの経路を取った場合には、東京都市圏ではより強い風雨がもたらされ、より大きな被害が発生することが想定されます。そこで台風の特徴を保持したまま、経路の異なる台風情報を発生させる計算機シミュレーション手法が開発されています。北緯31度付近で台風の位置を東西にずらして、その後の台風の進行を物理的な原理に従って計算した例が(図5)です(参考文献5)。この台風シミュレーションにより、東京都心での風速や時間降水量、日降水量が最大となるような経路が分析されています。また、この台風シミュレーションによってもたらされる降水量を用いて、利根川の洪水流量が予測されています(参考文献6)。

こうした洪水流量の予測値を用いて、想定される浸水状況を予測し、避難場所や避難経路が確保されるような町づくりや、浸水しても被害を最小限にとどめることができるような地域づくりに役立てる必要があります。河川整備だけでは対応できない大洪水の発生に備え、町づくりや住まい方を工夫することによって、水害に強い地域づくり進めていくことが望まれます。

洪水予測の精度を高める技術開発

洪水予測には3種類の異なる予測があることを説明しました。これらの予測を用いて、さまざまな規模の洪水に対する治水対策を考えることが重要です。ある整備目標を定めて治水事業を進めるとして、それを超える洪水が発生する確率はゼロではありません。そのときに生命を守り、被害を最小限に抑えるための精度の高い実時間予測が欠かせません。また、最大クラスの洪水を予測することで、どのような備えをすれば被害を最小限に抑えることができるかを検討することができるでしょう。

地球温暖化に伴い、短時間に非常に多くの雨が降る可能性が高くなることが指摘されています。地球温暖化によって、現在の100年確率の洪水は、将来はより短い再現期間で発生するようになるかもしれません。これまで、ある再現期間の洪水の規模を予測するときは、「年最大日降水量」など対象とするデータが確率的に発生したものと仮定して、その確率的な発生の仕方の特徴は変化しないことを前提としてきました。地球温暖化のもとでは、そうした考え方の枠組みを拡張することが必要です。

「実時間洪水予測」では、降水予測の精度向上と、より先の時刻の降水強度を予測できるようになることが事前の対応に極めて有効です。実時間予測は、時間がたって予測対象時刻が現在時刻となれば、その時刻の予測流量と観測流量を比較することができます。これによって予測モデルの適合性を検証し、観測流量に適合するように予測モデルを時々刻々と修正することが可能です。こうしたリアルタイムでの予測モデルの修正は従来から考えられてきましたが、予測地点が多数となって予測計算の仕組みが複雑となる場合は、効果的な予測手法がありませんでした。降水レーダーによる降水の観測精度が向上し、コンピューターの処理速度が格段に上がることによって、こうした実時間予測計算も実現できるようになってきました。

2013(平成25)年11月に観測史上最大規模の台風がフィリピンを襲いました。同様の規模の台風がわが国にも来襲するかもしれません。地球温暖化によって台風の規模がより大きくなる可能性が指摘されています。文部科学省の「気候変動リスク情報創生プログラム(平成23~27年度)」では、地球温暖化時の気候予測とその風水害や生態への影響評価研究が実施されています。

ここで紹介した3種類の洪水予測技術を向上させ、予測結果を効果的に治水対策に生かして洪水災害の防止・軽減に役立てていく必要があります。

*1) 「第1回 大雨が洪水になるまでの通り道」/立川康人

参考文献
1) 椎葉充晴、立川康人、市川温『例題で学ぶ水文学』(森北出版・2010)
2) 椎葉充晴、立川康人、市川温『水文学・水工計画学』(京都大学学術出版会・2013)
3) 立川康人、佐山敬洋、宝馨、松浦秀起、崎友也、山路昭彦、道広有理『広域分布型物理水文モデルを用いた実時間流出予測システムの開発と淀川流域への適用』(自然災害科学Vol.26, No.2, pp.189-201・2007)
4) 奥勇一郎、Sunmin Kim、中北英一『超高解像度全球大気モデルの温暖化予測実験データを用いた日本陸域の極端気象現象の抽出法』(京都大学防災研究所年報 第52号B, pp.439-444・2009)
5) 奥勇一郎、吉野 純、石川裕彦、竹見哲也、中北英一『将来の極端台風の複数経路計算による可能最大被害予測』(京都大学防災研究所年報 第53号B, pp.371-375, 2010)
6) H.Ishikawa, Y.Oku, S.Kim, T.Takemi, J.Yoshino: Estimation of a Possible Maximum Flood Event in the Tone River Basin, Japan Caused by a Tropical Cyclone, Hydrological Processes, Wiley, DOI: 10.1002/hyp.9830, 2013.

(2014年1月31日 更新)