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火山噴火

第3回  桜島の大噴火に備える ~桜島の噴火の歴史 ‐3~

執筆者

石原 和弘
京都大学名誉教授 火山噴火予知連絡会副会長
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繰り返された大噴火

2006(平成18)年6月に桜島南岳東斜面で始まった昭和火口の噴火活動は、2009(平成21)年後半から年間約500万トンのペースで火山灰を噴出しています。火口が大きく成長して噴火の規模も大きくなっているのに、地下深部から姶良(あいら)カルデラに上がってくるマグマに比べて噴出量は少ないため、カルデラの地盤は依然として膨張を続けています。噴火活動はさらに活発化すると考えられ、現在の噴火活動が低下して5~10年程度静穏な状態が続けば、マグマの蓄積量は大正噴火直前の状態を超えて、大噴火の可能性が高まります。桜島の大噴火を振り返り、共通の現象と違いや多様性を認識して、犠牲者を出さないように、今から備えておくことが大切です。また、鹿児島県の自治体を中心に、桜島の大噴火を想定してどのような取り組みが行われてきているのか、その一部を紹介します。

有史時代の桜島の大噴火は、西暦764~766年の天平宝字噴火、1471~1476年の文明噴火、1779~1782年の安永噴火、1914年の大正噴火の4つです。いずれも山頂ではなく中腹から海岸付近にかけて新たに出来た複数の火口で噴火が発生し(側噴火)、数億立方メートルの火山灰・軽石を噴出し、数億~10数億立方メートルの溶岩を流出しています。噴火口の場所は(図1)に示すように、天平宝字噴火は東山麓から海岸付近、文明噴火は北東と南西山麓、安永噴火は南北の山腹と桜島の北東沖の姶良カルデラ中央部付近の海底、大正噴火は東西の山腹と、大噴火ごとに変化しています。次に大噴火が発生する可能性のある地域としては、桜島全域と姶良カルデラを含む周辺の海域を考えておく必要があります。

大正噴火は安永噴火に次ぐ規模の噴火ですが、比較的単純な活動で、最盛期は数日間、噴火活動も1年余りで終息しています。しかし、他の大噴火はもっと長期化し、推移も多少複雑です。天平宝字噴火は溶岩の流出、鍋山の形成などを含む噴火が数年続いたと考えられ、文明噴火は5年間にわたり3回溶岩を流出しました。有史時代最大の安永噴火では、いくつかの新たな島の出現を伴う海底噴火が2年余り続き、津波による人的・物的被害が生じ、地盤も大きく沈下して大潮の満潮時には鹿児島城下が海水につかりました。その後も降灰が約20年続き、農作物に甚大な被害が出ました。一方、大正噴火では噴火開始約8時間半後にマグニチュード7.1の大地震が発生し、震災による犠牲者が多く出ました。

火山防災の出発点―ハザードマップ

火山噴火から身を守るには、事前に危険な範囲から退避することが必須であり、土石流や津波への対応と原則は同じです。いくら噴火の危険が迫っていると警告しても危険範囲を明示しなければ、1979(昭和54)年の阿蘇山や1991(平成3)年の雲仙普賢岳のように多くの犠牲者を出しかねません。火山噴火では、空から、山の斜面に沿って、さらには足元や地下から、場合によっては海からも危険(ハザード)が迫ってくることに留意しなければなりません。過去の災害実績や各種のシミュレーションをもとに、種々の危険の及ぶ恐れのある範囲を図示したのが『火山ハザードマップ』であり、避難経路などを加えた図は『火山防災マップ』と呼ばれています。

鹿児島県が、関係自治体や有識者とともに大正噴火クラスの噴火を想定した『桜島火山防災マップ』と『解説用ガイドブック』を作成し、1994(平成6)年に住民に配布したのが、桜島火山の最初の火山防災マップです。2004(平成16)年には鹿児島県、桜島周辺の自治体、気象庁や国土交通省の出先機関、火山学や砂防の専門家で構成される「桜島火山防災検討委員会」(事務局:国土交通省大隅河川国道事務所 *1)が設置されました。火山防災マップの改訂版を作成し、2006(平成18)年3月に鹿児島市が住民に配布しました。初版と改訂版のマップはともに、大噴火開始とほぼ同時に桜島全域に生命の危険を及ぼす噴石と火砕流の影響範囲を示し、事前避難が必須であることを強調しています。改訂版では、新たに火口のできる可能性のある範囲も図示するなど、より切迫した状況を伝える内容になっています。

桜島火山防災検討委員会は、姶良カルデラの地盤の隆起膨張などから考えて近い将来、桜島の外にも甚大な被害を及ぼす大規模噴火が発生する可能性は高いという共通認識のもとで、大噴火による周辺地域への降灰、降雨時の土石流、大地震や津波などの影響を評価・検討し、その結果を『桜島広域火山防災マップ』として取りまとめ、2007年1月にインターネットで公表しました(図2)。しかし、このマップが公表される半年前の2006(平成18)年6月4日に南岳東斜面にある昭和火口の噴火が始まり、大噴火はひとまず“順延”となりました。

この広域火山防災マップにより、大噴火では桜島の風下側40~50kmの範囲まで多量の降灰による深刻な被害が発生すること、マグニチュード7程度の地震が発生し、海底噴火、山体崩壊や大地震による津波が鹿児島湾全域に及ぶ可能性があることが、桜島周辺の自治体関係者の同意を得て明示されました。

大噴火の前兆、火山情報と避難

桜島では1960年代半ばから、大正噴火が起きた毎年1月に桜島の住民や生徒・児童を含め、自治体、警察・消防、国の出先機関や医療機関などが参加する数千人規模の避難訓練を実施しています。訓練は大正噴火の有感地震の発生から大噴火発生に至る火山活動の経過を想定して、気象台からの噴火警報(噴火警戒レベルの段階的引き上げ)の発表、それらに対応する災害警戒本部設置等の行政側の対応と避難港などからの住民の避難、避難者の救援・救護などを行っています。現実に大噴火の兆候が現れた時、鹿児島市など関係自治体が住民の避難を円滑に行えるかどうかは、気象庁・気象台が大学や国土地理院など関係機関から入手した観測データや情報を含めて、いかに迅速に分析評価して、各種の火山情報や噴火警報を迅速かつ的確に関係自治体や報道に伝達・発表できるかにかかっています。

短時間に多量の火山灰、軽石や溶岩を噴出する大噴火が発生する場合には、巨大な火口、あるいは多数の噴火口を新たに作る必要があります。大噴火直前、多量のマグマが地表に出る新たな通路(火道、割れ目)を作る際には、多数の地震や顕著な地殻変動が発生すると考えられます。現在の桜島の火山観測体制であれば、これらの現象をほぼ確実に捕捉できるでしょう。さらに、マグマが地表に近づくと地割れや山頂や山腹からの噴気(白煙)の噴出などの異変が現れると予想されます。実際に、安永噴火や大正噴火はこのような経過をたどっています(表1)。

有感地震の始まりから噴火開始までの時間は20~30時間です。避難訓練の想定シナリオ通りに事態が進行すれば、有感地震開始から段階的にレベルを上げる噴火警報を発表し、災害警戒本部など防災体制の立ち上げ、住民への避難の呼びかけ、避難実施まである程度の余裕をもって対応できそうです。しかし、実際には有感地震が数回起きてもそれを大噴火の前兆と判断するわけにはいきませんし、有感地震の頻発が大噴火に直結するとは限りません。突発的に始まる有感地震の多発に冷静に対応するには、姶良カルデラ地下と桜島地下の双方のマグマの蓄積状況とマグマの挙動を地盤変動観測と各種観測により把握して、大噴火が発生する条件が整っているかどうか火山学的な評価を継続することが大切になります。

桜島爆発災害対策連絡会議―想定外の事態への備え

鹿児島県防災会議は1997(平成9)年3月に公表した「地域防災計画火山対策編」で、関係自治体・大学・気象台など国の出先22機関で構成される「桜島爆発災害対策連絡会議」(表2)の設置を定めました。その主な任務は、市町村長に対して火山危機発生時に、観測データと火山学的知見に基づき規制や避難等に関して助言を行うことです。他の火山にも同様の連絡会議があります。活動的な火山をいくつも抱える鹿児島県ならではの仕組みです。

桜島の会議が本格的に機能し始めたきっかけは、2006(平成18)年6月4日に始まった昭和火口からの58年ぶりの噴火再開です。地震観測や地盤変動観測では、噴火が発生する兆候は捉えられていませんでしたが、全くの予想外だったかというと必ずしもそうではありません。10年近く噴気がほとんど認められなかった昭和火口で、噴火の数か月前から噴気が以前の勢いを取り戻し、約3週間前には細い一筋の白煙が約2km上るのが目撃されていました。

噴火開始当日は、噴煙の高さが100~200m、太さが数10mという小規模なものでしたが(写真1)、噴火は翌日以降も続き噴煙も次第に大きくなり、火口から放出された火砕物が噴煙を上げながら斜面を流れ下り、小規模ながら火砕流も発生しました。昭和火口から約3km付近にはそれを見物する観光客や報道陣が集まりました。活動の継続、活発化が予想されたことから、鹿児島県は今後の活動の見通しについての情報を得るとともに何らかの規制等が必要と考え、6月14日に桜島爆発災害対策連絡会議を開催することを決定しました。

会議では活動の現状と、大正噴火のような直ちに住民に危険が及ぶ活動の兆候は認められないなどの今後の見通しについての認識が共有されました。規制については、当面の大きな噴石や火砕流の到達範囲は昭和火口からおおむね2kmの範囲と予想されるので、従来の南岳から半径2kmの立ち入り禁止区域に、昭和火口から半径2kmの立ち入り禁止区域を重ねた範囲とすることで合意が得られました(図3)。ただし、昭和火口からの噴出物で降雨時にこれまでより大規模な泥流・土石流発生の危険性が高まることから、火口から3~4km付近にゲートを設けて住民や観光客の安全を図ることとしました。

2006(平成18)年の昭和火口噴火再開から7年半経過しましたが、火山活動は当初の予想通りに進んでいます。しかし、いずれは現段階では予期できない活動に移行することは間違いありません。今後の新たな活動の展開に備えて、2006年以降定期的に開催されてきた6機関による「桜島火山防災連絡会」と「桜島爆発対策連絡会議」の役割がますます重要になるでしょう。

(*1)大隅河川国道事務所
http://www.qsr.mlit.go.jp/osumi/
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(2014年1月31日 更新)