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大雪

第6回  いつ起こるか分からない! 雪崩にどう対処する?

執筆者

佐藤 威
(独)防災科学技術研究所監事 理学博士
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雪崩はどのようにして発生するか

斜面に積もった雪は、ミクロに見ると一つ一つの氷の粒子が互いに結合した状態にあります。結合の強さは、作用する力に対応してせん断・引っ張り・圧縮破壊強度で表されます。いずれも雪質(種類)や温度・密度などの雪の状態に依存しています。
せん断破壊強度が小さい部分を「弱層」と呼び、その層のせん断破壊強度を駆動力(せん断力)が上回ると、表層雪崩が発生します。(第3回「冬本番、寒波到来で危険は増える?」/佐藤威 *1)しかし、厳密に言えば、それだけで雪崩が発生するかしないか、決まるわけではありません。

表層雪崩は、斜面上の積雪内部での局所的な破壊が周囲に伝わって、積雪が運動を始めることによって発生します。この局所的な破壊は、樹木からの落雪や山の稜線にできた雪ぴの崩落による衝撃、スキーヤーの荷重などの外力によってもたらされるだけでなく、積雪内部の力によっても起こることがあります。さらに破壊の伝わる範囲は、外力の作用する範囲や積雪内部の状態にも依存します。その範囲がごく小さい場合は「点発生」表層雪崩と呼ばれ、発生する雪崩の規模はそれほど大きくありません。これに対して、「面発生」表層雪崩は、破壊の伝わる範囲が広く、大規模な雪崩になることもあります(図1)。

表層雪崩を目撃したことのある人は多くはないと思いますが、最近では動画サイトに発生の瞬間を捉えた映像がアップされています。多くはスキーヤーなどによる「誘発雪崩」で、滑走中にその周囲のある程度広い範囲の積雪が一斉に動き出す様子も見ることができます。

積雪内部の破壊は四方に伝わります。このうち斜面の上方に向かった破壊が稜線まで達することはあまりなく、上限の到達点には雪の壁のようなものがよくできます。これは「破断面」と呼ばれ、積雪が斜面下方に引っ張る力に耐えきれずに破断してできたものです(写真1)。スキーヤーなどによる「誘発雪崩」は別として、積雪内部の破壊はいつどこで起こるか分からないため、自然発生の表層雪崩の予測は困難です。

全層雪崩の場合は、積雪底面の摩擦力と駆動力の兼ね合いから危険性が判断できると(第4回「春が近づいても油断大敵」/佐藤威 *2)で説明しました。駆動力が勝ると斜面の積雪はゆっくり動き始めます。これを「グライド」といいます。これに伴い、多くの場合、斜面の上部に亀裂(クラック)が生じます。クラックの発生そのものは、表層雪崩の破断面と同様に、引っ張り破壊によるものですが、すぐさま全層雪崩が発生することはなく、「グライド」の進行とともにクラックの幅が広がり、また、動いている積雪部分の下方に雪のしわやこぶのようなものが見られることもあります(写真2)。

いずれも、斜面下部の積雪が「グライド」している雪の層を止めることによってできるものです。「グライド」の速度(クラックの広がりの速度)が急に増した時が雪崩発生の危険性が迫った時といわれています。これらの前兆現象に注意していれば、危険性が切迫しているかをある程度判断できます。しかし、厳密な意味で雪崩が発生するのは、支えている斜面下部の積雪が圧縮力によって破壊して、「グライド」層を支持できなくなった時ですから、その予測もまた難しいものです。自然に発生する表層雪崩、全層雪崩がいつ発生するかを正確に予測することが難しいのは、雪崩の発生が地震や地滑りなどと同様に破壊現象であり、積雪の内部や底面で働いている複雑な力の兼ね合いに依存するからです。

ポイントは雪崩が到達する範囲

雪崩を誘発してそれに巻き込まれる場合は別として、予期せぬ雪崩の被害に遭わないためには、自分のいる場所や建物・構造物のある場所が雪崩の被害範囲にあるかどうかにかかっています。雪崩は斜面上部で発生し(発生区)、ある程度流下(走路)した後に動きを止めて堆積する(堆積区)のが一般的です(図2)。

雪崩の到達範囲は、雪崩がどのように運動するかに左右されます。雪崩が発生した直後は、斜面の雪が板状もしくはブロック状となって滑り落ちるような状態で、それが壊れて、空気を含むようになると流動状態になります。さらに雪が細かく粉砕され、空気を大量に含むようになると雪煙となって流下します。雪崩の運動形態は「流れ型」「煙型」「混合型」に分類されます(図3)。水分を含まない乾いた雪の場合は「流れ型」か、比較的規模の大きなものは「煙型」となります。雪煙を上げる雪崩であっても、底部に流れ層が存在している場合は「混合型」といわれています。一方、水分を含んだ湿雪の場合は積雪が粉々になることはなく、ほとんどが「流れ型」となります。

雪崩が流下する時には、底面での摩擦抵抗や空気抵抗が雪崩の運動を妨げる力として作用します。雪崩の運動のシミュレーション技術が開発されていますが、上で述べた積雪の破壊・粉砕や抵抗力の作用は斜面積雪の状態や雪崩の規模にも依存することから、適切にモデル化する必要があり、そのための研究も進められているところです。

このように雪崩の到達範囲はさまざまな要素によって変わりますが、多くの雪崩の事例から得られた「高橋の法則」(図4)と呼ばれる経験則がその目安になっています。これによれば雪崩の発生点を見上げた角度(見通し角)が18°(表層雪崩の場合)または24°(全層雪崩の場合)以下であれば、雪崩が到達しないとされています。しかし実際には、これより到達距離が短い雪崩も多くあります。また、積雪が異常に多い場合には雪崩の規模が大きくなり、見通し角がより小さい地点まで到達しうることも頭の片隅に置くべきだと思います。

雪崩の事故や被害を防止するには

多雪地帯には毎年のように全層雪崩が発生する斜面があります。それによって形成される雪崩道、アバランチシュート(*3)、筋状地形などと呼ばれる独特の地形が日本海側の山地のいたる所に見られます(写真3)。このようなところで発生する雪崩の多くは住民や建物・構造物、道路などに直接被害を及ぼさないことから、これらに対しては特別な対策は講じられていません。

一方、被害の可能性がある場合はさまざまな対策が施されています。代表的なものに、斜面上に設置して雪崩の発生を防ぐ予防柵や、斜面の下部などにある道路や建物などの保護対象物のそばに設置して雪崩の運動を阻止する防護柵(写真4)、斜面を階段状にして「グライド」を防止するものなどのハード対策があります。また、雪崩の被害範囲を示すハザードマップを作成している自治体もあります。

これらの対策をとる場合には、傾斜、植生、積雪量を点数化して雪崩の危険性を判定することもあります。傾斜が30°~45°の範囲が雪崩発生の危険性が高く(図5)、裸地や草・笹・かん木で覆われた斜面も同様です。積雪量が多くなるとそれに見合う強度のハード対策が必要となります。積雪量は年ごとに異なりますので、その変動を考慮して「50年確率最大積雪深」などが用いられます。現在のところ、ハザードマップに示される雪崩被害の想定範囲は、高橋の法則に基づいているようです。

レジャーなどで冬山に入る時には、これらの対策がとられていない場所に立ち入ることが多々あります。冬山での常識として、雪崩の起きやすい斜面や到達しやすい斜面を避けたルートをとることや、やむをえずそのような場所を通過する際は、まとまって行動することは避け、一人ずつ様子を見ながら通過するようにしましょう。そうしていれば、もし一人が雪崩に巻き込まれて埋まっても、残りの人は捜索に当たることができます。また、捜索を迅速に行うために、全員が「雪崩ビーコン」「ゾンデ棒」「スコップ」を携行することが推奨されています。雪崩に埋没した場合、初期段階の死因は酸欠によることが多く、生存率が高い15分以内に掘り出せるかが生死を分けます。これらを「三種の神器」と心得ておくことが大切です。

雪崩の危険性をどう判断するのか?

平成24年2月1日に秋田県の玉川温泉で表層雪崩が発生し、岩盤浴をしていた3名が犠牲となりました。かつてここで雪崩の被害があったという記録はないそうで、ハード対策も施されていませんでした。発生直後に行われた調査によれば、深さ約1mに、結合力が小さな「こしもざらめ雪」(*4)からなる「弱層」があり、その上に積もっていた雪が表層雪崩となって襲ったことが判明しました(写真5、図6,写真6)。岩盤浴の施設があった川原では「かつて雪崩の被害はなかった」とはいえ、それは「幸運にも」と言うべきで、事故発生時の斜面の積雪状態は、雪崩の発生と川原への到達の危険性をはらんだものでした。

冬山でのレジャーや山間部の雪道を運転している時など、さまざまな場面でも同様のリスクがあります。当事者あるいは道路の管理者などが、その場の、そしてその時々の危険性を判断して、積極的にリスクを回避することが求められます。気象台から雪崩注意報が発表されますが、これは広域を対象としていて全般的な注意を喚起するためのものです。この斜面の危険性はどうなのかといった具体的な判断のためには、「弱層」の有無やその深さ、積雪内部の水の分布などの情報が必要になります。これらの情報から「いつ発生するか」を正確に予測することは難しいものの、雪崩の危険性の切迫度は分かります。

現在、気象条件をもとに新雪からの雪質の変化や積雪内部のせん断強度などを計算するモデルの開発が進められています。これにより積雪の安定度(駆動力に対するせん断強度の比)を求めることができます。玉川温泉で発生した雪崩を対象にこのモデルで計算した結果を(図7)に示します。1月22日ごろに気温の高い日があり、その後急速に気温が低下するとともに新雪がこしもざらめ雪に変化して「弱層」となり、さらにその上に大量の雪が積もって積雪内部に安定度の小さな層が形成されたことが再現されています。このようなモデルは対象斜面を想定した雪崩の発生危険度予測に用いられますが、雪崩の危険性がなくなったかどうかの判断にも有用です。モデルによる計算結果を試験的に冬期の道路管理に利用している例もあります。

モデルを用いて予測する代わりに個人レベルでできることもあります。表層雪崩の危険性を判断するには、数日前からの気象の変化を振り返り、寒暖の変化が大きかったか、大量の雪が降った(または、降っている)か、など「弱層」ができる原因に敏感になることが大切です。それに加えて、現場で「弱層」の有無を確認することも有効です。このような経験を積むことが、いつ起こるか分からない雪崩や、めったに起こらない場所での雪崩に備えることにつながります。

*1) 「第3回 冬本番、寒波到来で危険は増える?」/佐藤威
*2) 「第4回 春が近づいても油断大敵」/佐藤威
*3) アバランチシュート:繰り返し発生する全層雪崩によって、斜面の地表が削られてできたやや浅い凹型の地形
*4) こしもざらめ雪:積雪内部に温度勾配がある時に、新雪、しまり雪、ざらめ雪からしもざらめ雪に変化する移行段階のもので、雪の粒子はやや角張っている

参考文献
1) 日本雪氷学会,1998:日本雪氷学会雪崩分類.雪氷,60,437-444.
2) (社)日本建設機械化協会(編),1988:新編防雪工学ハンドブック, pp.81.
3) 高橋喜平,1960:雪崩の被害.雪氷,22,7-9.
4) 関口辰夫,2008:空中写真を活用した筋状地形の地形学的研究,-全層雪崩と関連して-,2007年度新潟大学学位論文.
5) 秋山一弥・小山内信智・松田宏,2012:雪崩形態の差異による雪崩の移動と発生規模の特徴.日本雪工学会誌,28,3-15.
6) 防災科学技術研究所雪氷防災研究センター,2012:災害調査 秋田県玉川温泉雪崩(2012.2.3)
※NHKサイトを離れます
7) 新潟大学災害・復興科学研究所,2012:玉川温泉雪崩災害調査報告(速報) -玉川温泉周辺の今冬の気象状況と積雪断面観測結果-
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8) 阿部 修・平島寛行・小杉健二・根本征樹,2012:玉川温泉の雪崩災害の発生状況,雪氷研究大会(2012・福山)講演要旨集,p.2-38.

(2014年1月31日 更新)